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市場にて商品の買付を行う。
市場は盛況で人だかりが出来ている。
「ここはシファーレンと町周辺からの物と人でいつもこんな感じ」
「昨日、クッキーを買った時はもう少し空いていました」
「午後過ぎあたりからすくけど…なんでクッキー?」
「値段と量を考えた結果」
「500しかなかったんだっけ?」
そう言って笑う。
「とりあえず王都までは心配しなくて大丈夫だからね」
「はい、ありがとうございます」
布、糸が売っている一画でマリーダさんは買付を始める。
色とりどりの布、糸などが所狭しと置かれ、呼び込みの声が聞こえ、その中を商人達が行き交ったいた。
マリーダさんは品物を触って確かめつつ、露店を回っていく。
ある露店で足を止め、品物を触り品定めをする。
「これ、ちょっと高くない?」
「そんな事ないぜ。これだけ上物でこの値段はむしろお買い得だ」
「上物?そうかしら…エレナはどう思う?」
「私に聞かれても…」
「うーん」
当然だと思うが、布の良し悪しは分からない。種類程度ならなんとなく分かるが。
マリーダさんは鞄からソロバンを出して計算し始める。
「この値段でなら、これ全部買うわ。どう?」
彼女の差し出したソロバンを店主が覗き見る。
「うーん?…おいおい、冗談だろ?それじゃ売れねえよ。足が出ちまう」
「そんなわけないでしょ?これなら?」
ソロバンを操作してもう一度見せる。
「…うーん、あー…そうだなぁ…」
店主が腕を組み悩み始めた。
「これ全部だからね?売れる時にまとめてドーンと、売ったほうがいいんじゃない?」
「分かってるよ」
「ここが駄目なら他行くけど?」
「分かったから、ちょっと待ってくれよ」
店主もソロバン取り出し計算始める。
マリーダさんは小さく微笑んで、よしよし、と呟く。
「これでどうだ?これ以上は無理だぜ」
「えー、こうでしょう?」
彼女は店主のソロバンを操作する。
「いやいや…」
「お願い、お兄さん」
そう笑顔で言う
お兄さん?
若くは見えない。白髪が多少目立っている。
「ほら、エレナも」
そう耳打ちされる。
「え?はい…お願いします。お兄さん」
私はそう言って頭を下げた。
店主は私とマリーダさんを交互に見て、ため息を吐く。
「…分かったよ、これで手を打つ」
「ありがと」
二人が握手をした。商談成立らしい。
「お世辞でしょ?お兄さんって」
「だろうね。それは向こうも分かってるよ。分かってても嬉しいものなんだよ」
「そんなもんかね…」
ヴァネッサは納得いなかい表情。
「そういうものなんだよ。人ってやつは」
「ヴァネッサは綺麗ですね、なんて言われたら怪しむ方よね?」
リアン様は笑いながら、そうヴァネッサに話す。
「絶対、裏があるって思う」
「ヴァネッサにお世辞は効かないみたいだけど、相手を立てる事は悪いじゃないよ。僕もやっていたし、その方が商売がうまくいく方が多かったからね」
買い取った品物を運ぶのが私の役目…なのだが。
「く.っ、重い…」
持ちやすいよう紐で縛ってくれたが、持ち上がらない。
私の胴体2つ分…もしかしたら3つ分あるかもしれない。
「大丈夫かよ…俺が運んでやるよ」
「いいえ、これは私の仕事だから」
「そういう契約なの」
「そうなのか?…あんた、厳しいな。顔に似合わず」
「そう?これくらいの量、全然余裕よ」
余裕?…これが?。
なんてこと、どうすれば…。
「肩に担いだ方がいいわ」
「ああ。その方がいい」
と、言われてマリーダさんに手伝ってもらい肩に乗せた…。
「うう…くっ…」
「おっし、じゃあ行ってきて。落とさないようにね」
そう言われて、荷馬車へと向かう。
荷馬車まで何とかたどり着き、管理人に手伝ってもらい品物を荷台に乗せる。
「はあ…ふぅ…」
手で額の汗を拭う。
冷や汗以外で汗をかいたのはいつ以来だろう?。
外套を脱いで荷台に掛ける。
貫頭衣では動きづらい、かと言って服を買うわけにも…。
私は腰紐を緩め、貫頭衣の裾を足首あたりから膝下くらいまで上げる。余った服の生地を腰紐の外側に垂らして、ずり落ちないように腰紐を結ぶ直す。
袖もまくってしまおう。
なんだか不格好な気もするが、動きやすさは段違い。足元がスースーするが…。
マリーダさんの元へ戻る。
さっきより人が増えた気が…そして甘い匂いがどこから流れてきた。
気になりつつも、今は荷運びの仕事が残っているので、足早にマリーダの元へと急いだ。
「マリーダさん」
「お、大丈夫だった?」
「はい、何とか…」
「そう」
彼女は私を上から下まで見て微笑む。
「何か?」
「いいえ」
微笑んだまま首を振る。
マリーダさんは糸を買い付けるようだ。
糸は様々な色があり、グラデーションになるよう並べられている。
「縫い糸しては太いですね」
「これは刺繍用よ。向こうが編み物用」
「そうですか」
彼女の説明に頷く。
今、彼女は2種類の刺繍糸どちらを買うか悩んでいる様子。
どちらも似たような若草色。
右の方が光沢がある。
「右は絹、左が木綿」
値札が付いている。倍以上の価格差。
「もう、両方買っちまいなよ」
店主であろう、お姉さん(一応)が、そう声をかける。
「そうしたいんだけど…うーん、今日は絹はいいかな。木綿の方だけ、5束ちょうだい」
若草色以外にもいくつも買い付ける。
「まいど~」
先程の布よりは少ないものの、それなりの重量。
「こんなに…」
「それじゃあ、お願いね」
買い付けた糸の束を荷馬車へと運ぶ。
このようにマリーダさんが買い付ける、私が運ぶを繰り返し荷台が埋まっていった…。
「これが最後よ」
「分かりました」
「荷馬車で待っていて」
「はい」
そう言われ、荷馬車へと向かう。
彼女とは途中まで一緒だったが、市場を出る前に別れた。
荷馬車で待つこと数分、彼女が戻ってくる。手に何かを持っていた。
「おまたせ~。それじゃあ出発しましょ」
やっと出発…。
荷馬車に乗り込む。彼女が隣に座るよう言われる。
「あなたに決めたのは、話し相手も欲しかったからなの」
「そうなんですか」
彼女は馬を起用に操り、前進させた。
馬の軽快な足音とともに、周り風景が流れて行く。
「疲れたでしょ?これ食べて」
と言って渡された紙包み。
開くと甘い匂いが鼻を通り抜ける。この匂いは荷運びの途中で嗅いだ匂い。
「パイ?」
「そうよ」
果実を使ったパイだった。手のひらくらいの大きさ。
人気があるらしく午前中には売り切れるのだとか。
「美味しいです」
「でしょ~」
朝食をお腹いっぱい食べたが、意外に食べれる。
「甘い物は別腹ってね」
「別腹…なるほど」
「あ、エレナの場合は荷物運びしたからよ」
「はい」
そういえばシンシア先生も、よくパイを焼いてくれた。
「魔法で焼いたのですか?」
「まさか、窯を使ったよ。そうね…今度やってみようかしら。でも火力調整が難しそうね」
と言って笑う先生。
そんな事を思い出した途端、涙が溢れる。
「ちょ、どうしたの!?」
「別に…」
「泣くほど美味しかった?」
「はい…」
涙と一緒にパイを食べきった。
「私もパイ食べたいな…ウィルは食べた事ある?」
「一回だけ」
「ヴァネッサは?シュナイツと王都、何回か往復してるしリカシィ寄るでしょ?」
「ないね、あたしは」
「ほんとに?」
リアン様は訝しげにヴァネッサに訊く。
「パイが名物なんて今知ったよ。もうパイの話はもういいでしょ」
リカシィを出て、南へ。
王都へ向かう道。
見る景色はシファーレンとは明らかに違う。家々や人々の服装も。
リカシィに降り立った時に感じた異国感が更に強まる。
見知らぬ土地…いいえ、新世界へ来たのだ、と思った。大袈裟過ぎる表現かもしれないが…。
実は…余計な事かもしれないが、物の重量を変化させる魔法を突貫ながら作成した。
この魔法は物質に対して…え?魔法の説明はいらない?そう…。




