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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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25/102

2-5

 王都への道は分かったが、私が知りたい事は別の事。

「450ルグで王都まで行けますか?」

「え?450…でですか?少々お待ち下さい」

 そう言うと奥へ行き、何か資料のような物を見ている。

 戻って来ると苦笑いを浮かべた。

「450ではちょっと…あの馬で、ですよね?」

「いいえ、歩きです」

「無理です」

 即答された。真顔で。

「な、何とかなりませんか?」

「そう言われましても…歩きですと、10日以上はかかりますしその間の食事、宿泊費用など考えて1500は最低ほしいですね」

 1500…手持ちの3倍必要。

「商人なら、商いをしながらという事もできますが…」

「私は商人ではありません…」

「そうですか…日雇いでお金を貯めるのはどうでしょう?」

「日雇い?具体的には?」

「港町ですので、船への荷積みと荷降ろしですね」



「どう考えてもあんたには無理」

「分かっている」

 

 

 それこそ魔法を使うべきだろう…けど。

 この時、自分の魔法の知識に偏りあることに今更気づく。

 私は強力な攻撃魔法を生み出す研究に専念しぎて、補助魔法の知識が少なかった。

 荷積み、荷降ろしなんて魔法だったら造作もない。

 今から、研究を…いや、そんな時間はない。



「他には?」

「他は日雇いではありませんが、どこかの店に雇ってもらうはでしょうか。こちらは一定期間働くのが条件となっています」

 魔法しかできない私をどこの誰が雇うというのか。

 大失態を犯した私を。

「あんた、まだかかるのかい?」

 肩を叩かれ振り向くと、後ろに数人並んでいた。

「すみません…」

 受付にまた来ます、と伝えた。そして受付を離れ、壁際に置かれたベンチに座り、目の前を行き交う人達を見つめる。

 私は選択に迫られいた。

 ここで働き口を探すか、歩いて行くか…。


 ある女性が受付の女性と話しているのに気づいた。

 なぜか私を何度も見ながら話している。

 また何か失態を犯してしまった?心当たりはない…。

 受付を離れ、こちらに女性がやってくる。

「おはよう」

「おはよう…ございます」

 気さくな笑顔で挨拶してきた。

 彼女はオレンジ色の髪の毛にスカーフを巻いて、スカートではなく動きやすい服装をしていた。

 隣に座り、私を見る。

「私に何か?」

「うん。受付で聞いたんだけど、あなた王都へ行きたいんですって?」

「はい、でもお金がなくて…」

「それも聞いたわ。わたしも王都へ行くの。正確には王都に寄って別の町に行くんだけどね」

「はい…」

 笑顔で話す表情から悪い人ではなさそう…。

「わたしの商売を手伝ってくれないかしら?手伝ってくれたら王都までの旅費は全額わたしが払う」

「…え?」

 旅費を払ってくれる?この人が?それも全額!?。

 しかし、何を手伝うのか?私は商売の事は分からない…。 



「太っ腹な人もいるもんだねぇ」

「ええ」

「手伝いってなにしたの?」



「商品の積み下ろしを手伝ってほしいの」

「…私は体力に自信がありません。そういうは男性の方が…」

「そんなに重い商品じゃないから大丈夫よ。それに女性同士なら気兼ねしないでしょ?」

「まあ…確かに…」

「じゃあ、決まりね!」

 強引に握手をされた。

「え…あの」

 了承したわけでは…。

 握手したまま手を引っ張られ立ち上がる。

「それじゃよろしくね。わたしはマリーダ」



「マリーダ!?」

 ウィル様が驚き身を乗り出す。

「は、はい」

「まさか…フルネームは?」

「すみません。聞いていません」

「そうか…」

 彼は椅子に腰を降ろし、ふぅと息を吐いた。

「誰?ウィルの知り合い?」

「姉さんかもしれない…」

「あんた、姉貴いたの?」

 ヴァネッサの問にウィル様は首を振る。

「いや、実の姉じゃないんだ。年上で同じ孤児院の出身で、よく世話をしてくれた。商人になってからも…それで僕は姉さんって呼んでる。エレナ、その人はどんな商売、商品だった」

「確か…布、それから糸などを大量に…それに孤児院出身と言っていました」

「マリ姉に間違いないと思う。魔法士の話なんて聞いた事ないけど…」

 ウィル様は懐疑的に話す。

「狭いね、世間ってやつは。あたしら知らずにすれ違ってるのかもね」

「そうかもね」

 そう言って笑う。

「もしかしてウィルの荷台にあった布とかって…」

「そう、マリ姉の所から仕入れた物だよ」



 まずは朝食にしよう、とマリーダさんに言われ、店に入っていく。

「おはよう、二人分お願い」

「おはようさん。二人分ね。あーマリーダは割引くけど、もう一人は…」

「わかってるわ」

 こんな会話をして札のようなものを渡し、席につく。

 私は割引きを受けられないらしい。



「うん、そこの店は宿屋も営んでいて、宿屋に泊まってくれた人に対して食事の割引きをしてるんだ」

「へえ、そんなに詳しいってことはあんたも…」

「もちろん、泊まった事あるよ何度もね」

「割引きをしても大丈夫なの?」

「大丈夫じゃなかったらやらないよ」

「そうよね」

 リアン様は苦笑いを浮かべる。

「一応、宿屋が主体だから食事はオマケに近い。凝った料理じゃないから材料費も手間もかからないし、エレナのように食事だけ人も来るから赤字にはならない」

「なるほど」



 席についてさほど待つ事なく食事が運ばれてくる。

「はい、どうぞ」

 目の前に置かれたのは、きつね色の焼き目がついた細長いパン。それに切れ目を入れて何かを挟んである。野菜の酢漬け(いわゆるピクルス)と肉、たぶんベーコンかハム。

 言うなればサンドイッチ。

 私にはすこし量が多い。

「朝食は大事よ。これから働くんだから」

 そう言われては食べるしかない。

 一口かじる。パンは硬そうに見えたが、そんな事はなかった。

「美味しい…」

「でしょ?」

 昨日、セレスティアについてからクッキー2つしか口にしていない。

 まともな食事はこれは初めてだった。

 食事をしつつ、身の上話をする事に。

 研究所を破壊してしまった事はこの時点では言っていない。

「お兄さんに会いに王都にね…」

「はい」

「ふーん…魔法士ってお給料低いの?」

「いいえ、そんな事は…」

 研究所からそれなり報酬はもらっていた。が、全て没収された。

「色々ありまして…工面出来ず…」

「そう…」

 この事はあまり話したくない。が、黙る事も出来ず、なんとか適当にはぐらかした。

「あの、マリーダさんはどんな商売を?」

「マリーダ、でいいわ。わたしは生地屋よ。布とか糸を売ったり買ったり」

「そうですか…」

「針とかボタンなんかも売ったり買ったり。生地を中心に裁縫全般ってとこかしら」

 商売には疎いのでどうにもイメージできない。

「難しい事はないわ。安く買って、高く売る。それだけー」

 と、彼女は明るく話す。



「そんな単純じゃないんだけどね…マリ姉は商売上手だから、そう言えるんだよ。商売で悩んでる、なんて聞いた事ないし」

「才能があった人なのね。それか教える人が上手かった」

「そうなのかな…僕の前では悩んでないように振る舞っていただけかも」

「才能あってもやらかすのもいるけどね」

 ヴァネッサはそう言って、私を見る。

「ヴァネッサ…ちょっと言い過ぎじゃ…」

 ウィル様は顔をしかめた。

 


 朝食をとった後、ギルドの側に停めてあったマリーダさんの荷馬車を市場の近くに移動させた。そしてそこにいた人にお金を渡す。

「何故、お金を?」

「管理してもらうの。まあ.見張りね。盗難とか、悪戯されないように」

「なるほど」

 ギルドには警備のための兵士がいたはず…。 

「ギルドでも良いんだけど、市場から離れてるし…荷物を運ぶのはあなたよ?近い方がいいでしょ?」

「はい」

 荷物がどの程度か分からないが、離れているよりは近い方が良いのは確かだ。

 

そして私達は市場へと向かった。



Copyright(C)2020-橘 シン




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