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ブレイバーズ・メモリー(1)  作者: 橘 シン


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101/102

9-4

 

「サム!ウィル様達を迎えに行く」

「え?迎えに行くって無事なんでしょう?」

「無事だから、迎えに行くんだ。早くしろ!」


 俺はサムを連れシュナイツを出た。


 ポロッサへ道を全力で走る。

 途中、エレナ隊長が魔法で直した崖を見ながら。


 

 ウィル様達が王都に出発したあの日、俺はヴァネッサ隊長のすぐ後ろを走っていた。

 

 シュナイツの南の山にある警備隊までもう少しだった。 

 そこで賊の矢が飛んでくる。すぐに並走したが、矢がリアン様の脚に刺さってしまった。


 その瞬間を、俺は見ていた。


 すぐに並走し壁となり、剣を抜いて刺さった矢を半分に切り落とす。


 リアン様に矢が刺さったのは俺の責任だ。

 俺は左側に違和感があった。あれは気配か殺気だったかもしれない。

 そう気づいた時に動くべきだった。

 そうすればリアン様に怪我をさせる事はなかったはずだ。


 俺に矢が当たっていかもしれない?。

 当たったって構わねえよ。リアン様の盾になって当たるならな。


 だが、そうならなかった。


「くそっ!」

 あの時の事を思い出して、胸くそ悪くなる。


「ガルドさん、飛ばしすぎっすよ!」

「うるせぇ!」

「いい道じゃないし、転んだらどうするんです?」

「この程度の道で転ぶのはお前ぐらいだ!」

 軟弱なやつだ…。


 ポロッサへの道は左に曲がりつつ下りだ。どんどん加速していく。


 まだか…。ウィル様達の姿は見えない。

 もうポロッサを出発してるはずだが…。


 シュナイツとポロッサの中間は過ぎてる。

 もう少し…いた!。


「ガルドさん!」

「ああ、確認した」


 四人の姿見えた。が、なんだ?…竜が三頭?。


 速度を落とし、近づく。


「ウィル様が竜に乗ってますよ」

 サムが困惑してる。俺もだが。

「なんで」

「わからん」


 先頭はミャン隊長だ。彼女がこっちに気づき、笑顔で手をふる。ウィル様とリアン様も手を振ってる。

 俺達も手を振り返えした。


「元気そうっすね」

「ああ…」

 リアン様も笑顔だ。よかった…。


 お互いに竜を止める。


「お待ちしてました。ご無事で…」

 敬礼する。

「こんな所で何やってんの!」

 ヴァネッサ隊長の怒号があたりに響く。

 彼女の前に座っているリアン様が耳を塞いだ。

「お迎えに…」

「あんた達は、シュナイツ防衛が任務でしょ?」

「そうですが…」

「さっさと帰りな。こっちは大丈夫なんだから」

「ヴァネッサ、そんな言い方しなくても」

「そうよ」

 ウィル様とリアン様が俺達を庇うように話す。

「僕は迎えに来てくれて嬉しいよ」

「ええ。元気そうね、二人とも」

「はい」

「まったく…」

 隊長が俺を睨みながらため息を吐く。


「それにしても、ウィル様その竜はどうしたんです?」

「ああ、これはね…」

 サムの興味津々の問いにウィル様が答えた。

「マ、ジ、で!?」

 これには俺も驚いたよ。

 一発で竜に乗ることが出来たとは…この人は何かを持ってるのかもしれない。 天性的な何かを。


「ウィル様も竜騎士に?」

「いや、そいつは無理だ」

「え?だって…」

「ガルドはわかってるんだね」

「はい、その竜は大人でしょう?」

「うん、そのとおり」

 ウィル様が頷く。

「なら、戦う事はできない」

「そうなんすか…残念ですね」

「いや、僕は安心したよ。逆にね。領主と竜騎士両方なん、体が持たないよ」

 彼は苦笑いを浮かべる。


「竜の代金は陛下さまのポケットマネーだヨ」

「ええ!?」

「本当ですか!?」

「うん…まあ…僕はいらない、と進言したんけど…どうしてもとおっしゃって」

 ウィル様が言うには、陛下のご親友であるシュナイダー様に何も出来なかったかわりにらしい。

 何がなんだか…。


「そういう話は帰ってからにしなって…」

「そうだね。行こう」

「お待ちを…」

 俺は竜を降りて、竜に乗ってるリアン様の下で肩膝をついた。

「ガルド?どうしたのよ?」

「王都への出発時の件。申し訳ありませんでした」

 頭を下げる。

「出発時のって…矢の事?」

「はい。自分は林の違和感に気づいていました。もっと早く行動していれば、リアン様は…」

「やめなさい」

 リアン様は俺の言葉を止める。

「あなたは悪くない」

「しかし…」

「悪いのは、王都に行きたいとわがままを言った私の方よ」

「そうであろうとなかろうと、リアン様をお守りするのが自分の任務です。それを果たせなかった」

「だから、それは…ヴァネッサ、お願い」

「あいよ。ガルド、立ちな」

「はい」

 俺は立ち上がり姿勢を正す。

 ヴァネッサ隊長は近づくよう手招きをした。

 隊長は、近づいた俺の額を中指で弾く。デコピンってやつだ。

 

 バチン!

 

「くっ!…」

「うへぇ…すんげえ音…」

 隊長のデコピンは痛いんだ。

 

 ケツを蹴られるのも痛いが…どっちが良いかって?

 究極の選択だぜ、それは…。


「ガルド」

「はい…」

「部下の責任は、上官の責任。分かってるよね?」

「はい」

「なら、こんな所で話を持ち出すんじゃないよ」

 隊長は怒ってるわけじゃなく、諭すように話す。

「はい…すみません」

「リアンとは、もう話は付いてんの。あんたはよくやってくれたよ。ね?リアン」

「うん。ガルド、ありがとう」

 リアン様は俺に礼を言ってくれた。

「礼など、もったいないです…」

「おでこが赤くなってる。大丈夫?」 

 俺の額を指差しながら、リアン様が笑う。

「大丈夫です…」


「あのー、何の話すか?…」

 事情を知らないサムが手を上げる。

「あのね、賊から毒矢をもらっちゃったのよ」

「ええ!?だ、大丈夫なんですか!?」

「もう平気よ」

 リアン様は左脚を叩きながら、明るく話す。

「そうですか…よかった」

 サムは安心して大きく息を吐く。

「サム。あなた、知らなかったの?」

「知りません。今、初めて聞いて…ガルドさん、なんで教えてくれなかったんです?」

 やつは俺に抗議したが…。

「あたしが言うなって言ったの」

「隊長が?。でも、どうして…」

「もし知ったら余計に心配するでしょ。ただでさえ心配なのに」

「それはそうですけど…」

「もしあんたに言ったら、うっかり喋りそうだし」

「やだな~、言いませんよ。オレ、口は固いすっから」

 サムは笑い、ヴァネッサ隊長はため息を吐く。


 ヴァネッサ隊長の判断が正しいかったのかどうかは、俺には分からない。

 

 軽症で済んだからいいものの、もし後遺症が残っていたら、俺は自分を許せなかっただろう。


 事情を知っていたのは俺とレスターだけだ。

 近くにいたアリス隊長とジルも知らない。

 

 平気なわけない。だが、できるだけ平気な顔をし続けた。

 それはレスターも同じはず。

 俺達はシュナイツを、ヴァネッサとウィル様から預かったんだ。

 その俺達が動揺を見せるわけにはいかない。


 出来たかどうかは分からねえよ。

 出来ていなかったら、それは事件になっていたかもな。

 

 リアン様の件は別として、領主不在はほとんどが経験してるからな。

 みんな慣れたもんさ。慣れすぎも怖いが…。

 

「リアン様の事はこれからも他言無用すか?」

「私は構わないけど」

「本人こう言ってるし、いいんじゃない?」

 リアン様とヴァネッサ隊長は隠す必要ないと考えだ。

「僕は言わないで隠しておいてほしいな」

 ウィル様はそう言って苦笑いを浮かべる。

「どうしてよ」

「オーベルさんが、リアンを怪我させたら承知しないって」

「ああ…言ってたけど、もう大丈夫なんだから…。私の方から言えば、オーベルは何も言わないと思う」

「そうかなぁ…」

「大丈夫よ。済んだ事だもの。オーベルは許してくれるわ」

「そう?じゃあ、頼むよ」

 

 ウィル様はオーベルさんに苦手意識を持ってるようだ。

 俺は苦手じゃないが、年長者だから頭は上がらない。 


「さあ、行くよ。ミャン。先行って」

「はいは~い」

 ミャン隊長が先頭か…なら。

「サム、おまえは殿だ」

「サム、あんたは殿だよ」

 ヴァネッサ隊長と声が重なった。

「やだ、何やってんの」

「はあ…。ガルド、あんたはウィルと一緒に。ミャンに続いて」

「はい」

 急いで竜に乗り込む。


 ミャン隊長を先頭に、シュナイツへ。


「今日着くってよく分かったね」

「エレナ隊長が魔法で…」

 エレナ隊長の魔法を説明した。

「へえ。便利なものだね」

「覗き見し放題ジャン」

「あんたが魔法士じゃなくてよかったよ」


「みんなの様子はどう?」

「特に変わりなく」

 周囲を警戒しつつ、ウィル様に答える。

「ウィル様も怪我はないようで」

「うん…運が良かっただけさ」

 少し声のトーンが下がった。何かあったのか?…。


「賊の襲撃は?」

「ありません。一度も」

「そう、それは良かったね」

「ほんとかい?」

 ヴァネッサ隊長が後ろから訊いてくる。

「姿を見た報告はありました。エレナ隊長が崖崩れを直してる時です」

「見ただけ?仕掛けてくる様子もなし?」

「レスターと他からはそう聞いてます」

「あたしらがいないから、ちょっとかい出してくるかと思ったけど」


 俺も予想してたし、身構えてはいたが、襲撃はなし。


「そちらはどうでした?あれ以降」

「あの後、またあったのよ」

「あったネ。森に逃げ込んでさぁ」

「森?…深き森ですか?」

「そうだヨ」

 あそこに?。

「一晩野宿したんだ」

「そいつは大変でしたね」

「そのへんの話は後で、たっぷり聞かせてあげるよ」

「マジすか?」

 サムが嬉しそうだ。俺も興味ある。


「ロキ、元気だったよ」

「そうですか」

 元同僚だ。

 近況を聞いた。

 子供が生まれたとか。向こうは変わってないようだな。


 一番隊の隊長が教官なったとか、他も色々聞いたが、驚いたのは…いや、残念たったのは…。


「ブリッツ教官が辞めた」

「え?」

「なんでです?」

「シュナイダー様の件さ…落ち込んだらしいよ」

 

 ブリッツ教官は戦争時からシュナイダー様の部下としてずっと仕えてきた。


 何故かはわからないが、シュナイツには来なかった。

 いや、来るなとシュナイダー様に言われたのか。

 聞けるわけない。


「別に辞めなくも…」

「みんな、そう思って止めらしいけど、結局ね」

 本人の石は固かった。

「シュナイダー様が亡くなって、一つの時代が終わったてさ」

「なんですか、それは?」

「これからはあたしら若いもんの時代だって、教官もね」

 押し付けられたようで、俺はいい気分じゃなかった。


「じいちゃんも言っていたよ。若い奴らが頑張らずにどうするってね」

 ウィル様は前を向いたまま話す。

「孤児院を出て、じいちゃんの商売を手伝ってた頃。僕は目標とかなくて無気力だった。その時言われたんだ」

「失礼ですが、その今と…」

「ああ、違うね」

 彼は自嘲気味に笑う。

「その後、色んな人達を会ってね」

「棟梁とか?」

「そうそう。それからちゃんと、僕自身の生き方を考えるようになった。独り立ちして、食べて行くだけで精一杯だったけどね」


「オレ達は何をすればいいんすか?」

「やれる事をすればいいと思う」

「それだけ?いつもどおりで?」

 サムは困ってみたいだ。


「状況は常に変わってる」

「うん」

 ヴァネッサ隊長の言葉にウィル様が頷く。

「臨機応変にね」

「そう。だからいつもどおり」

「何か特別な事をしなきゃいけないのかと…」

「あんたに期待してないって」

「ええ…そんな…」

「大丈夫。僕は期待してる」

「うう…ありがとうございます、ウィル様!一生ついて行きます!」

「そう?ありがとう…」

 ウィル様が困ってるじゃねえか…。

 リアン様は笑いを堪えてる。


「なーんで、年寄りくさい事言うかなぁ」

 ミャン隊長は腕を組んで首を傾げる。

「若いもんがって言ってる人は、若い時に言われたんだと思う」

「自分が言われたから、言ってるだけぇ?」

「たぶんね。そんな事言われなくても分かってるよ、なんとなくだけどさ」

 ウィル様の言葉に皆が頷く。

「順番が回ってきただけ」


「シュナイダー様は言ってませんでしたよね」

「言ってないね。あの人は直接言う人じゃないから」

「ないんだ」

「全然言わないわけじゃないんだけどね」

「ちゃんと言ってくれればね…」

 

 シュナイダー様はあれこれ言う方じゃなかった。

 悪い部分には悪いと言うだけ。あうしろこうしろとうるさくは言わない。

 言わない分、こっちは考えないといけない。

 竜騎士は自主独立。

 シュナイダー様も若い時から、竜騎士となる前からそうしてきたんだ。

 俺達にだって、できるはずだ。


「あまり深く考えちゃいけないのね」

「そうだよ。できる事を背伸びせずに確実にやってこう」

「うん」

 

 ウィル様にはシュナイダー様とは違う安心がある。

 王都出発前とは何か違う気がする。


「サム、ミャン。あんた達はちゃんと考えるんだよ」

「「はいは~い」」

「はあ…」

 呑気に答える二人に、隊長は頭を抱える。


 ポロッサとシュナイツの中間を過ぎた。


「あそこが、エレナ隊長が直した所です」

「あそこか…きれいに直したね」

 崖崩れ現場の前。


「なるほど、丸太で壁を作ったのか」

「切り株ある。崩れたのに…」

 リアン様が指差す。

「あれは切り株だけを埋めたそうです」

「どうして?」

「切り株から芽が出る事を期待してとの事で」

「芽でて育てば元の林になる?…」

「と言ってました。あくまで期待の話らしいです」

「いいんじゃないかな。何もしないよりはいい」


「この辺なんすよね。賊がいたのは…」

「ああ、そうだったな」

「ミャンどう?」

 ヴァネッサ隊長がミャン隊長に訊く。

「うーん、いないねぇ」

 周囲を見回す。

「そう…シュナイツまですぐだけど、気を抜くんじゃないよ!」

「了解」

「うっす」


 シュナイツに無事到着。


「ああ、やっと帰ってきた…」

 リアン様が大きく背伸びをする。

「うん…やっとね」

「ウィル様、お疲れ様です」

「ありがとう、ガルド」

 ウィル様と騎乗したまま握手をする。


「一時はどうなるかと思ったけど、帰ってこれたね」

「ゆっくり休んでください」

「そうさせてもらうよ」

 隊長とは拳を合わせる。


 これで一安心なのは、俺達だけじゃなくウィル様達もだろう。


「とりあえず、こんな所か」

「何事もなかったのが…リアン様の事は別にして、幸いだった」

「大変だったのはヴァネッ隊長とウィル様だろうな」

「王都で何をしてきたか聞いたが、陛下と食事とか色々すごいを事してきたようだ」

「それもあってかウィル様の雰囲気が変わった気がするな」

「俺の勘違いかもしれないが…あ、ウィル様」


「終わったかい?」


「はい…ですが、取材?というは初めてなので…これでいいのかどうか」


「あまり考える必要はないみたいだよ。後はうまくやってくれるそうだ」


「そうですか」


「後は僕が引き受けるから」


「はい、では失礼します」


「うん、ご苦労さま」

「この辺りで一旦区切りでしたよね」

「それじゃ、シュナイツに帰って来た時の事を少しだけ」


エピソード9 終

Copyright(C)2020-橘 シン

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