第2幕ー7
一方その頃、廃墟の建物の中では、1人の少女が怯えていた。少女は、焼け焦げた服を纏いながら、母親にしがみついていた。
「ママ、お腹空いた。それに、足の火傷が痛いよ。」
少女は泣きながら、母親に伝えるのであった。
そんな少女に対して、母親は、諭すように言及した。泣く少女の頭を必死に撫でるのであった。
「いい、エヴェンナ。我慢してね。もうすぐ配給が来るわ。飢餓で苦しんでいるのは皆同じなのよ。それだけでない、核ミサイルが落とされて、多くの人が苦しんで亡くなった人もいるのよ。命が亡くなった人は食べ物すら貰えないのよ。それに比べれば私達は幸せだってそう思わなきゃ。」
エヴェンナの母親、スヴェトラーナは、エヴェンナに優しく囁きかけた。そして多くの被爆者達が避難しているこの廃墟では、何人もの被曝者達が介護されている。救護班達は必死に重傷患者の介護と治療に追われていた。デルヴィスを治したヴェディピエールとヴェスターも夜通し救護に当たっていた。ヴェディピエールの部下であり隊員の1人であるベレスは、エヴェンナの足の火傷を見つけたのであった。
「ヴェディピエール先生、あの少女、足を火傷しています。是非助けてあげるべきなのでは。先生、重傷患者を優先させなければならないという気持ちも分かりますがここは。どうか。」
ベレスは、ヴェディピエールに反論した。ヴェディピエールは、重々しく口を開いた。
「傷は浅い。この火傷薬を塗っておけば大丈夫だ。それに傷ついているから優しい言葉をかけてあげなさい。いいね。」
ベレスは、エヴェンナに呼びかけた。
「お嬢ちゃん、火傷の治療をしたいんだ。足を貸して。」
ベレスは、少女の足の火傷部分にヴェディピエールから渡された治療薬を塗った。そんな中、ベレスは、少女に安心させるように優しい言葉をかけるのであった。
「もう大丈夫だからね。とりあえず応急処置は、これくらいにしようか。また後で、ちゃんと治療するからね。」
「隊員さん、私、帰る家がないの。帰る場所もないの??私達どうなってしまうの?ねえ、ミエスタは、私達の街はどうなってしまうの??」
「大丈夫だよ。ここは安全だ。頑丈なシールドが貼られているからね。外からの敵は一切寄せ付けないんだ。放射能も全く通さない。完璧なる壁だからね。しかもこの建物は、倒壊を免れたみたいだね。」
建物は全壊を免れた。頑丈な材質でできた為だったのもあるが、しかし倒壊する危険性は大いにある訳である。
「ロクチノフ副隊長。バリアシールドが貼られているとは言え、ブルエスター帝国からのレーダーには一切捕らわれないでしょう??」
「しかし一時しのぎに過ぎないだろうな。奴らの力は未知数だからな。魚人の中には特別な超能力シールドコートを使うような奴らもいる。破られたらおしまいだ。いいか、奴らの中には聖剣の力を付けた恐ろしい戦闘力を持つ奴らもいるのだ。そんな奴らに対抗するためにも俺たち軍隊員が本気を出すしかないからな。」
ロクチノフは、冷静に言った。ロクチノフは、晩御飯を食べていなかった。ケルヴィトは、ロクチノフの空腹を心配したのか声をかけた。アルプレヒト、バレトロと一緒であった。いつもは大体このメンバーで夕飯を食している。
「ロクチノフ。夕飯にするか。」
「そうだな。済まない。行くか。」
ロクチノフは、ケルヴィトとアルプレヒトとバレトロと共にお弁当を食べた。しかし貰えるお弁当は本当に少ない。戦争で被害を受けているのもあり、お米もまともに食えない程だ。それくらい皆飢餓に陥っていたのだ。ロクチノフは黙って食事をする。だが、目の前にいる被曝者達が見ていられなかった。
「お嬢ちゃん、これあげる。食べな。」
ロクチノフは、エヴェンナにご飯を与えるのであった。エヴェンナは1週間食事をしていなかった。ロクチノフが与える食事を食べるとエヴェンナの目から自然と涙が溢れてくるのだった。
「兵隊さん、ありがとう。」
そんなエヴェンナを見つめる1人の少女がいた。彼女は母親と姉を失って一人ぼっちの少女だった。そんな少女の名はエリーゼ・スヴェッタ。エリーゼは、町長らしき老人の所へ駆け寄った。エリーゼを保護したのは、その老人であったのだ。老人は、ロクチノフの部下のアミラスへと質問した。
「軍隊の皆さん。我々は、一体どこに住めば宜しいのですか??ミサイルで家を失い、ここへ避難して、早2日。1日で何人もの人が、虚しく命を落としていく、この現実には、我々はもう耐えられません。政府はなぜ平和協定を結ばないのですか??」
アミラスは答えた。
「協定の有無かどうかなどを決める権利は我々には、ない。皇女が、それに調印しなければ、協定は結べないのです。残酷な現実ですが。」
「ふざけるな、そんな勝手は許せんぞ!!!我々の命を返せ!!!戦争を辞めさせろ!!」
老人は激怒した。
「ソフィア皇女は、女王の座を降りるべきだ。あの女はなんもわかっとらん。」
市民の激しい怒りが舞う中、ロクチノフはどうにもならない事実に屈服する以外他なかった。
ブルエスター帝国の皇女としてブルエスター帝国を統治していた皇女。近年その行方は全くと言っていいほど不明である。どこで何をしているのか。
「ソフィア皇女は、現在在位についていないんです。だから彼女にはなんも悪いことは無いのです。戦争を始めたのはアロイスザンです。奴が全ての黒幕なのですから、アロイスザンを殲滅しなければ話は始まりません。」
老人はブルエスター帝国の背景を知らなかった。帝国で何が起きているのか、事実それはアレイティ帝国の上層部が隠蔽している為である。ミスキーヌ・ロレンツィは、無線からその様子を観察すると、ふと笑みを浮かべた。
ミスキーヌ・ロレンツィは、笑顔でヴァルデンス・ユーグベルトに対してベテルギウスらに対して口にした。
「私達の存在をアレイティ帝国は、何故教えないのか。魔術がある限り、必ず帝国は破滅するのです。新訳聖書を必ず、悪用するに決まっているのです。破滅の帝国の時代が来る前に、アレイティ帝国がカスピ海を統一するのです。そしてレオペエウスの時代を築き、カスピ海帝国をこの手で、再興する為にね。」
ヴァルデンスは、ミスキーヌの発言に対して言葉を投げかけた。
「ふん魔術なんかに頼らずとも、ブルエスター帝国に立ち向かう為の策は我々にない訳では無い。私達だってそんくらいわきまえていますよ。アレイティ帝国の軍隊は、カスピ海帝国最強と言われているのですからね。」
そんな中、会議に出席していた魔道理事会のメンバー全員がヴァルデンスの方を向くのであった。皆殆どのメンバーが顔を完全に仮面で覆われ素顔が全く分からないような状態であった。
仮面を付ける1人の男は、たどたどしく口を開いた。
「魔族の時代。レオペエウスの時代ですぞ。かつての国の如く魔族の国を、海底人の国を取り戻すのです。カスピ海帝国のためでは無い。その為には、魚人を完全に殲滅するのですぞ。それこそが魔道理事会の言い伝え。ブルエスター帝国は、必ず私共の手で滅ぼすのです。」
「発言を最大に控えるのだ。我らは、ユリウス正教会だ。いずれは軍の時代ではなく魔術の時代がやってくるのだ。魔導師達が栄えなければ帝国はどうなるのだ。衰退を辿るばかりではないか。」
魔道理事会の中でも謎のオーラを出す、2人目の仮面を付けた男は、1人目の男の発言を否定しているのであった。




