プロローグ
海賊船バイキング号は、カスピ海の大海原を西へと進んでいた。
船長ワトゥサ・バイキングの目的は、金塊と財宝をアゼルバイジャンの港町レロプールへと運ぶことだった。
彼の脳裏には金の山、そして大富豪への道が映っていた。
まさか、あんな大嵐に巻き込まれるとは——夢にも思っていなかった。
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「面舵いっぱいーーーっ!!!」
航海士のレオ・クリストフが舵を操りながら、甲板に怒鳴った。
「天気は快晴!風向き北西、風速30ノット!目指すはアゼルバイジャン、一直線だ!」
甲板に立つ乗組員たちは、それぞれの持ち場で忙しく動きながらも、船が快調に進んでいることに少しだけ安堵していた。
「ふふ、こりゃ順風満帆だな」とレオは呟いた。
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船長室。
ワトゥサ・バイキングは海図を眺めながら、にやにやと笑っていた。
「へっ……金塊をヨーロッパに流せば、報酬は跳ね上がる。財宝を掴めば、世の中なんてどうにでも転がるってもんよ……!」
部屋の隅にいたスミスが調子よく笑いながら声をかける。
「いやぁ、船長!俺たち、もうすぐ大富豪っすね!バイキング財閥、誕生っすよ!」
「バカ言え。気を抜くな、スミス。横取りを狙う奴がいたら、このバイキング様が許さねえ。海に沈めてやるだけだ!」
そう言いながら、バイキングはソーセージをナイフで刺し、口に咥えた。しかし、すぐに顔をしかめた。
「……なんか違うな。ソーセージって気分じゃねぇんだよ。おい、スミス、スペアリブとかシーフードねぇのか?」
「え、あ、いや……食糧庫には乾パンとビーフジャーキーくらいしか……」
「ちっ、使えねぇな……。スミスよ、お前、クラーケンでも釣ってこい。焼いて喰ってやるわ!」
「ク、クラーケンっすか!?あれ、カリブ海の生き物っすよ!?ここ、カスピ海っすよ!?地理、ちゃんとわかってます?」
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その時、甲板では異変が起きていた。
「ケルビーニ、なんか……海水の渦がいつもより強くねぇか?」
一等海士バニュットが眉をひそめた。
「えー?気のせいだろ?風も少し強くなってきたしよ」
「……いや、なんか嫌な予感がすんだよ」
やがて水面が赤く光り出し、緊張が走る。
「船長ー!まもなくカスピ海最深部に到達します!ここ、船の墓場って呼ばれてんすよ!!」
バイキングは不機嫌そうに甲板へ出てきたが、足元に感じる異常な熱に表情を歪めた。
「なんだこの熱さは……?おい、誰かボイラーでも壊したか!?」
突如、閃光とともに爆音が轟いた。
「うわぁああああっ!!!」
湖面が赤く光り、凄まじい爆風が船を襲う。
船は木っ端微塵に吹き飛び、巨大なキノコ雲が空高く上がった。
船員は全員焼死。バイキング号は、湖の底へと沈んだ。
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それから300年後——。
カスピ海は世界戦争の舞台となっていた。
巨大航空母艦「ゲルシェンキ」は、激動の中を突き進んでいた。
艦橋ではエスディレオ・ロナウド大尉が作戦指示を叫ぶ。
「全艦に通達!現在位置、カスピ海・ウラル第4海域!ロシア軍ヴェールリオ艦隊は壊滅!魚雷190発、発射準備!」
「撃てッ!!」
190発の魚雷が一斉に水中を走り、駆逐艦が次々に爆発した。
その時、副官キラードが駆け込んできた。
「大尉!重大報告です!カスピ海油田基地から、ウランが盗まれた模様です!犯人はノイズンナーヴェル第一艦隊!」
「何だと……!?ウランだと!?冗談じゃねぇ!」
すぐさま非常無線が鳴らされ、原子潜水艦U31が出撃準備に入る。
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空では、セントレア・ヴァイキングが率いる特攻機動部隊が飛び立っていた。
「こちらヴァイキング航空支部!これよりノイズンナーヴェル第一艦隊に対し爆撃を開始する!!」
「大トルコ帝国万歳!!」
戦闘機は音速で敵艦に突進し、次々と炎上・爆発が起きる。
艦内のジェルフォーグ長官は叫んだ。
「全艦員、ウラル地方へ向けて退避!!金塊も忘れるな!全砲門開け!!」
大陸間弾道ミサイルが発射され、「ゲルシェンキ」周辺の艦隊は壊滅的被害を受ける。
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午後12時。
ノイズンナーヴェル艦内で突如、凄まじい揺れと熱波が観測された。
「なんだ!?爆撃か!?魚雷か!?」
「ち、違う!これは……熱線だッ!!」
直後、湖面が再び赤く輝き、超高温の爆風が襲いかかる。
「グワァァァァァ!!!!熱いッ……!!」
キノコ雲が天高く昇り、艦隊は消えた。
ウランが引き起こした核融合が爆発の威力を増幅させ、壊滅は一瞬だった。
1802年10月1日午後12時0分。
この爆発により、1000人以上の兵士が命を落とした。
そしてこの「沈没船の悲劇」と「艦隊壊滅事件」は、後に——
**《カスピ海の悪夢》**として語り継がれることになる。
しかし——
この爆発の裏には、まだ明かされていない“驚愕の真実”が隠されていた。