キノコ
キノコ
“キノコ”が空を飛んだ。
パタパタと羽根を大きく動かし、あたしの前で初めて空を飛んだ。
“キノコ”は、羽根を怪我して飛べないところを、一か月前にあたしが助けてやったインコ。誰かに飼われていて捨てられたのが野生化したみたいで、首輪こそなかったけれど、拾ったときから毛づやはよかった。目も、あたしなんかよりずっと澄んでいて、ずっと、綺麗。
エサは食パンの耳と、あたしが残したキノコ。お昼になると決まって買って食べるお気に入りのパスタがあるんだけれど、そこにはあんまり美味しくないキノコが入ってる。今までは我慢して食べてたんだけど、“キノコ”が来てから、あたしはそれを残せるようになって。――そんなんでよく一か月、生き抜いたもんだ。
元気になった“キノコ”は、青空の下をどこか遠くへ飛んでいったんだと思う。さっき窓を開けてから、しばらくその辺の電信柱を徘徊するようにぐるぐると飛び回っていたけれど、自分がもうちゃんと飛べることが分かったのか、昼食のパスタを食べ終えて二階へ戻ったときには、もういなくなっていた。
“キノコ”がいなくなったおかげで、あたしの口の中では今、キノコの味がしてる。
もう怪我すんなよ。
二度と戻ってくんなよ。
あたしは窓辺に両手をついて空を仰ぎながら、強く思う。
その方が、“キノコ”もあたしも幸せだ。
もう怪我すんなよ。
二度と戻ってくんなよ。
あたしはキノコが大嫌いなんだから。
お読みいただきありがとうございました。
小説にしてはとっても短い本作ですが、作者個人的には気に入っている作品です。