7月20日 その③ 異世界人と初めてのお出かけ
■バス停まで徒歩で移動
さて、高校1年夏休み初日をまさか異世界人と買い物に行くだなんて誰が予見出来るだろうか、いやそんなことは誰にも出来はしない。
「うわ! うわあ! すごい!! こ、こんな大きな町初めて見ました!! ここはもしかして王都か何かですか!?」
……地方都市ですが。
俺が住む町は北と東西が山で囲まれた、軍港として栄えた港町だ。
俺の家は北側の山にあり少し歩くだけでこの町を見渡せる絶好の場所にやって来ることが出来る。
ただ景色は良いのだが、町の中心部からはかなり離れているため、現在バス停を目指して徒歩で移動中だ。
異世界人であるシオンはというと赤のジャージと赤白帽を装備した、どこからどうみても異世界人には見えない恰好で俺についてきている、よしよし、ちゃんとあごヒモもしているな。
「ふあぁぁ、すごい! 本当にラノベの世界が目の前に広がってる!!」
「なあ、ちょっと気になったんだが」
「なんですか!?」
「お前たちの世界のラノベって、もしかしてこの日本が舞台になっているのか?」
「そうです! だから今、私は猛烈に感動しています!まるで聖地に訪れたみたい!!」
日本の事が書けるってことは、日本人の誰かが異世界に転生し、そこでラノベを執筆したという事だろうか。
「そのラノベを書いたやつって、もしかして日本人か?」
「ニッポン人かは分かりませんが、大賢者様は異世界から来られた方だと聞いてます」
大賢者様とかいう大層なお方がラノベを執筆しているらしい。
「大賢者様は魔王を倒した後すごく暇になったらしく、暇つぶしでラノベを書き始めたそうですよ」
「マジかよ、なんか魔王が不憫だな……」
などとシオンとダベリながら歩いているとあっと言う間にバス停まで着いた。
ここからバスに乗って町の中心であるローカル線の駅前まで行くつもりだ。
「ここで何を待ってるんでふか?」
シオンが赤白帽のあごヒモをまむまむ噛みながら質問してくる、おっとそれは食いものじゃないぞ。
「バスを待ってるんだ、それに乗って駅前まで行く、ほら、お前の目の前にたくさん走ってる車の大型亜種みたいなもんだ」
「車! 車ならラノベで知ってます! でも、バスは分かりません、強いんですか?」
「めっちゃ強いぞ、50人以上を一度に運べるし、何よりデカくてタフだ」
「50人も!? バスすごい! ちょっとバス来たら戦いを挑んでもいいですか?」
「言っとくけど、バスはモンスターじゃないからな?」
常時マジックポイントが足りないポンコツ魔法使いが息巻いている。いきなりバスに殴りかかったりしないよう監視が必要だろうか。腕まくりして戦闘態勢を整えるシオンを見ながら眉間に皺を寄せていると、坂の頭頂から下ってくるバスが見え始めた。
「お、バスが来たぞー」
「来ましたか!」
シオンが両手をシュバっと構え、まだ遠くに見えるバスに不敵な笑みを浮かべる。
「相手にとって不足なし、お手並み拝見……といきますか」
キキーー、プシュウウゥゥー、ガチャ、このバスは〇〇〇〇行きです、整理券をお取りください。
「……!」
「ほら、バスに乗るぞ」
先ほどの好戦的な態度はどこへやら、シオンは及び腰になって俺の後ろに隠れてしまった。
「これに入るだなんて、とんでもない!」
シオンがバスを指さしながらカッー! と叫び声を上げる。
「こんなキングリザードより大きなモンスターの中に入ってしまったら、胃酸で瞬く間にホネホネにされちゃいますよ!」
「モンスターじゃねえっての、それにほら見てみろ、バスの中にご老人が乗ってるだろ、あの人たちは溶けてないだろうが」
「あのご老人は、きっと耐酸能力を持つ伝説級の老兵に違いありません! 見てください、あの余裕の笑顔!」
「アホか! あんなんでいいならこの町は伝説級で溢れ返ってしまうわ! 大丈夫だから、ほら乗れって!」
「イヤですぅ! こわいこわいこわい!」
「お客さん、乗車しますか?」
バスのスピーカーから運転手さんの声が……、ほんとすみません、ご迷惑お掛けしてます。
今回ちょっと短め、夜にもう1話上げたいと思います。