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7月20日 その② 異世界人とウォシュレットトイレ

●お風呂場


「ふう……」

 

 ゆっくりと肩まで湯船につかると自然に体が弛緩してくる。


「これが、お風呂……」


 ……ふああぁぁ~~、すごく気持ちいい。

 なんだか魂がお湯に溶け出してしまいそう。

 それにしても、女神さまから聞いてはいたけど、このニッポンという国の豊かさと文明レベルには何度も驚かされる。

 ちょっと捻れば水やお湯が出るなんて考えられない。

 ソウタは『これは魔法じゃない』って言ってたけど、魔法以外でどうやったらこんなことが出来るのか……。


 頭と体をしゃんぷ~? と石鹸(高級品!)で洗った後、再び湯船に浸かってゆっくりしているとソウタが外の脱衣場から声を掛けてきた。

 完全無防備状態を狙われてしまった、ソウタの次のセリフはきっとこうだ『はぁはぁ、そろそろ体で払ってもらおうか、俺も一緒に風呂に入るぞ!』。


「着替え、ここに置いとくからな!あと湯船で寝るなよ!」


 ……全然違った、ちょっとウトウトきてて危なかったし。


「もうすぐ上がりますから、絶対覗かないで下さいね!」

「はいはい、お前の裸なんて興味ないよ」


 完全否定された、それはそれでちょっと傷つく。

 『見たいけど、今は我慢しとくよ』とか言えないのだろうか、ソウタは女心が分かっていない。


 一応脱衣場にソウタがいないことを確認する。

 ……やはりいない、男の子の心は9割以上がスケベ心で出来ていると聞いたことがあるが、ソウタは例外なのだろうか?


 ソウタが用意してくれた着替えが籠の中に入れてある。

 赤色の素地に白のラインが入った上着とズボンのセットでジャージという名前の服らしい。

 ソウタがちゅ~がくせい? の頃のお古で、ちょっと私には大きいけどとても動きやすい。


●お出かけ準備


「お、出てきたな、やっぱちょっと大きいか」

「いえ、全然気になりません」

「じゃ、こっちきて座れ」

「……?」




 ぶおおおおおおおおおおお~~。


「ふぁああああああ~~!」

「ほらじっとしてろ、髪が乾かせないだろ!」


 ソウタが持つ筒状のものから温風が吹き出してくる。

 その温風を私の頭に当て、ソウタが髪の毛をわしゃわしゃするとみるみるうちに髪の毛が乾いていく。

 ソウタは『これも魔法じゃないぞ』と言うけど、魔法じゃないなら魔道具だろうか。

 それにしても、他の人に髪の毛を乾かしてもらうことがこんなにも心地良いなんて初めて知った。


 乾いた髪の毛をソウタが妙に手慣れた手つきで結ってくれる。


「よし、準備できたな! そろそろ買い物に行く準備するか」


 あっと言う間に結い終わって頭をポンポンしてくる、私が結うより上手だ。


 そういえば、私はこの異世界に来てまだこの家しか知らない。

 外の世界はどうなっているのか、考えただけでもわくわくが止まらない。

 さあ、張り切って外出の準備をしようと思った矢先、それは襲ってきた……!


「あの! ソウタ、ちょっと問題が……!」

「どした?」

「お、お花を摘みに行きたいのですがっ……!」

「あぁ、トイレか……」



 トイレに移動しソウタからトイレの使い方を教わる、見たこともない形の便器だ。


「いいか、ここにこう座って用を足すんだ」

「ふむふむ……」

「終わったらここのボタンを押す、おしっこならこのボタン、まあこのボタンは俺は使ったことないが……、んで、ウンコならこっちのボタンを押すんだ」


 またウンコの話……、ソウタは本当にウンコが好きだ。


「ボタンを押すと、どうなるんです?」

「この辺から水が出てきて、汚れた所を綺麗にしてくれる」

「汚れた所とは?」

「……言わせんな、恥ずかしい」


 だいたい把握した。


「綺麗になったと思ったら最後にこのボタンを押して水を止める」

「大事な所がびしょ濡れになるのはどうすれば?」

「この紙で拭くが良い」


 ソウタが筒状になった紙をゴロゴロっと引っ張ってみせる。


「使った紙はそのままここに捨てればいい、そして最後の仕上げ、ここのつまみをクイっとすれば水が流れて綺麗さっぱりだ」


 ソウタがクイっとすると便器に水がジャゴーと流れる、すごい仕掛けだ……。


「以上が一連の流れだ、あとは好きなだけふんばってくれたまえ!」

「ふんばりませんよ! 転生異世界人はウンコなんてしません!」

「では! ごゆっくり!!」

「もう! 絶対しませんから!!」


 ソウタの背中を叩いてトイレから追い出す、本当にデリカシーのない人だ。

 ソウタがトイレの使い方を長々と話していたせいで、もういろいろと限界が近づいている。

 もしかしたら、我慢している私を見て楽しんでいたのかもしれない。





「ふう……」


 トイレは我慢すればするほど、溜め込んだものを解放した時の爽快感は倍々で増していく。おそらくチャージ系の大魔法も似たようなものだろう。


 さて、手順を思い出さなくては。

 おしっこの時は『ビデ』と書かれているボタンを押す。

 ウンコの時は『おしり』と書かれているボタンを押す。

 うん、ちゃんと覚えてる、覚えてはいるんだけど……。




「……両方した場合はどっちを押せばいいんだろう?」


 トイレの外にいるソウタに聞けば万事解決するかに思えるが、事はそう簡単ではない。

 ソウタに聞けば、ウンコをしたのがバレる。

 この世界で逆ハーレムを目指す身としては『ウンコしない清純派美少女』のイメージを崩す訳にはいかないのだ。

 ちなみに、ソウタは逆ハーレムの一角に入れてあげようと思う。


 さて、どっちのボタンを押そうか、私がここまで悩むのには訳がある。

 なぜなら、間違った方のボタンを押すとトラップが発動する可能性があるからだ。

 正解のボタンを押せばソウタが言う通り水が出てくるのだろう、なら間違った方を押したら何が出てくるのか?


 私はズバリ推理する、きっと『スライム』だ。


 ここは水場だし、スライムがいても全然不思議じゃない。

 大事なところがスライムまみれになる最悪の事態は避けたい。


「おーいまだか?」

「!?」


 ソウタがドアの外から声を掛けてくる、これ以上時間をかけるのはまずい。

 一か八か、『おしり』のボタンを押そうと決意した時、私はあることに気づいた。


「あれ? ここに座ってると、なんだか魔力を感じる……!」


 昨日テレポートした時に渡された『すまほ』? と同じ性質の魔力だ。

 ただ、『すまほ』の魔力が使い切りアイテムのようなものだったのに対し、このトイレの便座からは魔力が溢れ出てくる感じ、神聖な神殿を彷彿させる。


「ここなら魔法が使える……!」


 創生魔法の使い手である私は、創生魔法より下位にあたる魔法であればどんな系統であれ使いこなすことが出来る。そしてこの状況、使う魔法はただひとつ!


「トラップサーチ!」


 説明しよう、トラップサーチの魔法とは物がなんであれ、罠が仕掛けてあれば一目で分かるようになる魔法である。対象物に害があれば赤、特に何もなければ青、有益であれば黄色に発光する。


「どれどれ、ボタンは何色に光るかな~?」


 ふ~む? 『おしり』、『ビデ』どっちのボタンも青く光っている。

 私の考えすぎか、ソウタはトイレにトラップを仕掛けてなかったようだ。

 さて、トラップがないと分かればこっちのもの、さっさとボタンを押してトイレから出よう。

 私は青色に光る『おしり』のボタンを押そうと手を伸ばすが、すぐ横に黄色く光るボタンがあることに気づき手を止める。


「水量調整の、『強』のボタンが黄色く光ってる!?」


 黄色く光るということは、私にとって有益であることの証明。このまま放置するなんてありえない、黄色く光る宝箱を無視する人がいないのと同様だ。


ピッピッピッピ!


 ボタンは押すと音が鳴り、音が出なくなるまで押してやった。

 『強』ボタンから黄色い光も消えている、よく分からないが恩恵をすべて回収したということだろうか。


 長かった……、トイレは戦場と言う人もいるけれど、今回の戦は間違いなく私の完全勝利だ。あとはこの『おしり』のボタンを押すだけの簡単なお仕事。


「私、トイレから出たら、ソウタとお買い物に行くんだ……!」


ポチ。




「ふああぁぁああぁぁああ~~っ!!」

「!?」

「ああああぁぁ~~あ! あっ!? ああぁぁぁぁっ~~!!」

「ちょ、どうしたシオンっ!?」

「おしりがああぁぁ! おしりがああぁぁっ〜〜!!」

「尻がどうした!?」

「……突破されるっ!!」

「何やってんだよお前!!」

「プロテクション!」

「おま!? 魔法使ったんかっ!? なんか魔法陣がドアからはみ出てんぞ! 何の防御力上げてんだよっ!?」

「言わせないでください恥ずかしい!!」



 ……まさかトイレ如きにここまで手間取るとは、私の異世界生活は前途多難のようだ。


 あと、ウンコしたのがバレた、悔しい……。



「なあ、この世界に転生した時に一般常識とか頭に詰め込んでもらうことは出来なかったのか? いちいち全部教えてたら俺もお前も大変だぞ?」

「それは私も希望したんです、でも女神様に『これ以上頭に詰め込むとボンッ! てなるわよ』って脅されて……」

「じゃあ何を詰めてもらったんだ?」

「この国の言葉と文字、それと魔法の知識です」

「たったそれだけでボンッてなるのか、お前の頭は……」

「なるらしいです……」


 本当はもうひとつ、女神様に無理矢理頭に詰め込まれた知識があるけど、この世界で役に立つとは思えないからソウタには黙っておこう。


 あと、ソウタに頭が残念な子と思われた、悔しい……。


「不貞腐れてないで買い物行くぞ、ほら、外は暑いからな、コレ被ってろ」


 ソウタが帽子を渡してくる、つば付きの赤い帽子だ、裏地は白い。

 ソウタが言うには、今この国の季節は夏らしい。

 その割には家の中が暑くない、涼しいくらいだ。


 二人で家の入口(玄関と言うらしい)まで歩いていくと、ソウタが思い出したように踵を返した。


「あっと、ちょっと待っててくれ」


 そう言ってひとつの部屋の戸(ふすまと言うらしい)を開け中に入っていく。

 私も中に入ろうかと思ったがピシャッと閉められたので大人しく待っていることにする。


 ……あ〜やばい、初の異世界外出! ラノベから伝え聞いたウソのような世界をこの目でついに見ることが出来る。

 町を我が物顔で闊歩する運任せのモンスター『ウォーキングすまほ』を見てみたいし、限られた場所でしか生息出来ないと言われる絶滅危惧種『きつえんしゃ』も見つけたい。

 

 どっちもモンスターらしいので倒してしまっても構わないだろう。


 ソウタがふすまの部屋に入ってしばらくして、部屋の中からチ〜ンと間延びした音が聞こえてきた。

 中で何をやってるんだろと考えていたら、ふすまがスラっと開いてソウタが出てきた。


「待たせたな、じゃあ行くか」

「行きましょう!」


 ふすまの部屋から出てきたソウタは、なんだか変な臭いがした。

読んでくれてる人が少しづつ増えててうれしみ(≧▽≦)

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