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7月19日 その③ 異世界人と夕食

■7月19日『支払い』


「お前が体で払うって言い出したんだろ?」

「うぅ……」

「泣いてないで、さっさと皮を剥け」

「だ、だって、こんなもの初めてで……」

「いーから手を動かせ、口を動かすのはまだ後だぞ」

「うぅ……」

「そうだ、うまいじゃないか、デリケートなものだからな、優しく扱うんだ」

「は、はい……」



 ふう、そろそろ出すか……。


「な、なんですか!? この白いものは?」

「舐めろ」

「い、イヤです!」

「あーそう、じゃ、出てってくれよ」

「……!」

「これを嫌うようじゃ、うちには置けないな」

「な、舐めます……」

「舐めさせてください、だろ?」

「……舐めさせて、ください」



 ――まあ、夕食のカレーを作ってるわけだが、コイツが体で払うと言ったから準備を手伝ってもらった。


 玉ねぎの皮を剥かせ、隠し味の自家製ヨーグルトの味見をさせた。

 玉ねぎもヨーグルトも初めて見たものらしい。

 ヨーグルトの味を気に入ったようで、危うく全部味見されるところだった。


■7月19日『夕食』


 ダイニングテーブルに俺と少女が対峙して座る。

 今晩の夕食はカレーとサラダ盛り合わせだ。

 コイツにとって、異世界初となる食事はどのようなものになるのか、反応が楽しみだ。


「いただきます」

「い、いただきます……」


 ん!今日のカレーもいい出来だ。ルーは市販のものを複数買って組み合わせたものだが、隠し味のヨーグルトが効いて味に深みを与えている。


 この味なら、カレーを初めて食べるであろうコイツの舌も満足するだろう。


 ……と思ったら、右手に握るスプーンがまったく動いてない。なぜだ?


「どうした? 食べないのか?」


 腹は減っているはず、カレーから漂う芳香に負けてヨダレ垂らしてるし。

 一体何が気に入らないのか……?


「だってこのお料理、……どう見てもウン――」

「おっと!それ以上言うなよ!?」


 コイツ、いきなりカレーを食べる時の禁忌に触れようとしやがった。

 だが、目の前の少女は異世界人、初めて見るカレーをアレっぽいと口走っても仕方がない。まあ、情状酌量の余地有りと言えよう。


 ただ、今後を考えるとそれがどれだけやってはならない事か教えておく必要はある。


「いいか、お前が今言おうとしたことはだな、お前たちの世界に例えて言うと、魔王との決戦前夜に『俺、魔王を倒したら結婚するんだ』って言うのと同じくらい言ってはならない言葉だぞ?」

「し、知ってます! 死亡フラグというヤツですね!? 私、異世界に転生したばかりなのに死んじゃうんですか……!?」

「かなり危なかったが、ギリギリセーフだ」

「よ、よかったあ……」

「死にたくなかったら、カレーの前で絶対ウンコって言っちゃダメだぞ?」

「言ってるじゃないですかああああぁぁぁぁ――!!」



 少女はこの俺に盛大な突っ込みを入れ、自分でもウンコウンコ言いまくる。

 おいやめろ、女の子がウンコと連呼するんじゃないっ……!

 まったく、ウンコの話題で盛り上がるのは異世界人も同じってことか。

 おれ? 俺ももちろんウンコの話題が好きだ、じいさんになってもウンコの話題で盛り上がれる自信があるね。




「はむはむ……」

「どうだ? うまいか?」

「こ、これは……はぐはぐ、ちょっと辛いですけど、ごくん、すごく、はむはむ、おいしいれふ……!」

「口の中の物を飲み込んでからしゃべれ……!」


 今日のカレーは甘めにつくったのだが、コイツの味覚には丁度いいくらいのようだ、お子ちゃまだと思ったぜ。


「これはお芋、こっちはニンジン、これは、タマネギ?でしたっけ?……あと、これは?」


 中の具を確認してるようだ、特に変わったものは入れていないと思うが。


「それは肉だろ、牛肉、今日のカレーはビーフカレーだからな」


 コイツは玉ねぎと格闘してたから、カレーに肉を入れたのを見ていなかったようだ。


「お……お肉っ!?」

「肉がどうかしたか?」

「わ、私……お肉なんて片手で数えられるくらいしか食べたことありません」


 コイツは異世界でどういう食生活をしてきたんだろう、ちょっと心配になってきた。


「ふぁっ、すごくやわらかい! お口の中でじゅわって広がって、すごく……おいひいれふ!」


 ほっぺに手を添え、目を瞑り、久方ぶりの肉の味に酔いしれているようだ。

 コイツから伝わってくるのはお肉への感謝、スーパーで買ってきた安物の肉だが、ここまで感謝されればお肉も本望だろう。


 皿に盛ったカレーはあっという間に平らげられ、これでご馳走様かなと思いきや、少女は皿を持ち上げ皿に残った僅かなルーを舐め始めた。


「…………」


 必死に皿をペロペロする異世界人に食事のマナーを教えるのはそのうちやるとして、今すぐ聞かなきゃならないことがある。


「まだ食べられるか? 御代わりするか?」


 それを聞いた少女はピタっとペロペロをやめて皿を机の上に置く。


「お、御代わり!? そ、そんな贅沢が許されるんですかっ……!?」

「いっぱい作ったからな、許されるぞ?」

「い、頂きます!」


 いっぱい食べることはいいことだ、最初よりご飯少なめ肉多めでよそってやった皿を受け取るコイツの顔は満面の笑顔、カレーを食う時は、やはりこうでなくてはいけない。



 ――少女は3皿目のおかわりを完食し、さらにおかわりを要求するが、あの満面の笑顔はどこへやら、涙目になりながら気持ち悪そうに口元を押えている。


「まだ、た、食べれます……!」

「いや、もう無理だろ! なんでそんなに食おうとするんだよ?」

「だって、まだ沢山残ってて勿体無いです、……うっぷ! そ、それに、食べられる時に食べておかないと、次はいつ食べられるか分からないから……!」


 どうも食い溜めしようとしてるらしい、ますますコイツの異世界での生活が気になってくる。


「それ以上食べても吐くだけだろ、それこそ勿体無いだろ?」

「うぅ……でも、おうっぷ!」


 明らかに胃袋の限界なのになかなか御代わりを諦めようとしない、さてどうするか。


「心配しなくても、カレーはすぐには腐らない、冷蔵庫もあるしな」

「……?」

「あと、このカレーという食べ物はだな、一晩おくとさらに美味くなるんだ、だから今全部食べないほうがいいだろ?」

「こ、これよりさらに美味しくなるんですか!? うぅ、では今日の所はこれでご馳走様です……」


 やれやれ――。

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