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7月19日 その② 異世界人とテレポート

■7月19日『自室』


 ガチャ!


 俺の部屋、無言で部屋の中に入ってくる俺を警戒しアイツが身構える。

 ちゃぶ台の前まで歩いていき、台所で淹れてきたお茶の湯吞みを2つ置く。


「まあ座れよ、のど渇いたろ?お茶飲もうぜ」


 ちゃぶ台の前にあぐらをかいて座る、アイツは後ずさりしていて、部屋のすみっこまで寄っていた。


「お、お茶!?そ、そんな高級品で私を油断させようとしても無駄ですよ!」


粗茶ですが……


「飲まないのか?じゃあ俺が飲んじゃぞ?」

「い、頂きます!」


 のどの渇きに負けたのか、お茶の香りに負けたのか、あっけなく警戒を解いて俺の対面に座る。

 もう一度頂きますと言って、慣れない手つきで湯吞みを持ち上げ、口元まで運ぶ。


「わ!いい香り……」


 ふ~ふ~と少し冷まして、一口すする。

 こくり……。



「ふわあぁぁ……!」


 お茶がよっぽど旨かったのか、変な声を出しながらプルプル震える少女。

 また一口すすって、ほおぉ~と息を吐き幸せそうな顔をする。

 

 ……しまった、一瞬だけコイツの仕草がカワイイと思ってしまった、いや、ほんとに一瞬だけな!

 


 お茶を飲み終わるのを見計らって、さっきからずっと気になっていた事をコイツに投げかける。


「……なあ、お前さっき魔法使ったろ?」


 『魔法使ったろ?』自分で言っててかなり恥ずかしい、でもさっき目の前で起きたことは、そうとしか思えないのだからしょうがない。


少女は、最後の一滴までお茶を飲み干そうと高角に傾けていた湯吞みをちゃぶ台に置いて答える。


「え?魔法……?」


 その反応……、自覚なしということか。 

 まあ、自覚してたら今頃ドヤ顔でここに住ませろと詰め寄って来てたに違いない。

 

 俺はケツのポケットからスマホを取り出し、バッテリー残量を確認してから電源をオフにし、少女に手渡す。


「え?な、なんですか、これ?」

「それ持ってベッドの上にテレポートしてみてくれ」

「私、今魔力が空っぽで……」

「いいから、騙されたと思って」


 ベッドは俺の背後にある、ちゃぶ台を挟んで対面に座るコイツが、普通なら一瞬でそこまで行くことは出来ない。


「わ、わかりました!」


 少女は目を閉じると、音もなく姿が消えたと思ったら――


 ずし!


 俺の肩に両手をのせ、胡坐をかく足の上にぺたん座りする格好で少女がテレポートしてきた、……っておい!

 互いの鼻先がくっつきそうな距離。

 近過ぎて目の視点が合わない。

 俺はまっすぐ見つめてくるコイツの視線を避けるように顔を背け、なんとか言葉を絞り出す。


「ベッドに、って言ったはずだけど?」

「あっ、そっか!」


 そう言って、コイツは再び目を閉じて――



 全身が浮遊感に包まれた。うとうとしてて、ふっと落ちそうになるあの感覚。

 あれを何倍も強くしたヤツが突然俺に襲いかかり……!


ばふ!



 目線は天井を向き、俺を見下ろすコイツの長い髪が頬に触れくすぐったい。


「魔法、使えました!」


 俺を押し倒した格好でコイツが喜びの声を上げる。

 どうやら俺は、コイツと一緒にベッドの上までテレポートしたようだ。


 言葉が出てこない、代わりに汗がだらだら流れる。


 マジか……


 マジかマジかマジかマジかマジかマジかマジかマジかマジか――


 魔法を見せてもらうどころか、実際この身で魔法を体験してしまい……。

 もはや、コイツが異世界人であることは疑いようもない事実となってしまった。


 いかん――。落ち着け俺……。


 まずは冷静になろう、一旦コイツに渡したスマホを取り上げバッテリー残量を確認する。

 

 ……電源はオフにしてたのに、普通じゃない減り方をしてる。

 思った通り、コイツは電気を魔力に換えて魔法を使ったようだ。


 ――それってどうなんだ?


 電気がないと魔法が使えないとか、ポンコツ魔法使い臭がプンプンする。

 本人もそのことを自覚してないようだし、コイツに能力を授けたとかいう女神の仕業だろうか?


 とりあえず、身を起こして考えをまとめようとしたら――


 がっ!と肩を掴まれ、それを阻止される。


「……約束、守ってもらいます!」

「約束?」

「魔法を見せたら、ここに住ませてもらうっていう」

「あ――」


 ドヤ顔がムカつく、俺が電気のこと気づかなかったら、お前魔法使えなかっただろーが!


「確かに約束はしたが、タダでとは言ってない」

「ず、ずるいです!そんなこと一言も……!」

「お前が聞かなかったから言わなかっただけだ」

「そんなあ!」


 涙目で俺に抗議してくる少女、そろそろ俺の上からどいてほしいのだが。


「この世界にきたばかりでお金なんて持ってないし……、あの、ここにも冒険者ギルド的なものはあるのでしょうか?」


 冒険者ギルド……、異世界に必ずと言っていいほど存在するあの組織か。

 もちろんそんなものはない、モンスターとかこの世界にいないからな。


「ハローワークってとこならあるけど、13才のお前に仕事は紹介してもらえないぞ?」

「えぇ!?じゃあ私はどうやってお金を稼げばいいんですかっ?」

「いや、ムリじゃね?」

「!!」


 白目を剥いて絶句する少女。この世界は初心者には優しくないのだ、特にこの日本では……。



 さて、そろそろ意地悪をやめてコイツの今後について話そうか。


「俺も鬼じゃない、お前がここに住むための妥協案を提示してやろう」


 そう言うと、少女は顔を赤らめ俺の目をしばらく見つめた後、恥ずかし気に口を開く。


「か、覚悟はしてました……、私の、体……ですか」


 なんか暴走し始めた。


「お金も無ければ、働き口もない私には、この体を差し出すしか……」


 もうめんどくせえ!このまま話を合わせてしまおう。


「よく分かってるじゃないか、なら早速その体で払ってもらおうか?」



「は、はい……」


 少女はすべてを諦めたような口調で俺の言葉に従った。


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