7月20日 その⑧ 異世界人と『魔王と魔法使いごっこ』
「すみません、この子に似合いそうな服を3、4着ほど見繕ってもらえますか、えっと、予算はこのくらいで……」
「はい~、なんて綺麗な銀髪!もしかして外国の方でしょうか~?」
適当な服屋に入って店員さんに服を選んでくれるようお願いする俺、女の子の服なんて男子高生である俺が選べる訳もなく……。
「あの、そいつ日本語ペラペラですけど、日本の事ほとんど知らないんで変な事言うかもしれませんけど気にしないでください」
「はい~、ささ、お客様こちらへ~」
「ソウタは?」
「どこにも行かないから、さっさと服選んでもらってこい」
どこかのんびりした感じの店員さんに連れられ店内を見て回るシオン。服を広げてみては目を輝かせている様子を見ると、よかった、食い気だけじゃないようだな。
「店員さん、この服にはどんな特殊能力がありますか? マジックポイントの自動回復とか付与されていればいいのですが」
「はい~?」
「あ!そいつ中二病なんで無視してください無視!」
「はい~」
結局、服選びに1時間半、下着選びに1時間掛かった、なんでこんなに時間が掛かるんだ。
現在時刻は正午前、シオンが腹が減ったと騒いでいる、お前、試食品あんなに食ってたのにもう腹が減ったのか……。
さて、食料品を買い込む前に、シオンにどうしても聞かなければならない事がある。
「なあ、どんなパンツ買ったんだ?」
「!?」
服は試着した姿を見せてもらったので、どんな服を買ったのか分かっているが、下着については全く分からない。
何故かと言うと、どこを見ても女性用下着しか目に入らない店にいることは思春期真っ只中の男子高校生にとっては毒の沼地を歩いているようなもので、dotダメージにより居た堪れなくなった俺はシオンが下着を買い終わるまで、ずっと店の外で待機していたためだ。
俺は、異世界人に選ばれしパンツ達を今すぐ知りたい。
「あなたの支配下に入ったからといって、下着の事まで話す気はありません!」
シオンが毅然とした態度で俺に正対する、しかしこの口調……、『第2回魔王と魔法使いごっこ』がしたいという事か、いいだろう、受けて立ってやる!
「我が支配下の魔法使いよ、貴様に拒否権などないのだよ」
声色を変え、冷酷な表情をつくりシオンを見下す、さあ教えろ。
「そ、そんな横暴な! それに、今私が教えなくても洗濯の時とかに確認できるじゃないですか!」
「分かってないな、貴様の口から聞くことに価値があるのだ、下着の形状、色、サイズに至るまで詳細に語るのだ、……ふふふ、どうした? 顔が真っ赤だぞ?」
「へ、変態! あなたは変態ですっ!!」
「ありがとう、それは誉め言葉だな」
「……!」
買ったばかりの下着が入っているであろう紙袋を必死に小さな背中に隠す姿が嗜虐心を誘う、どれ、あと一押し必要か。
「……色は白で、サイズは、試着が出来なかったけど、その……ピッタリだと思います」
ん? えらいあっさり白状したな……、もう少し抵抗するかと思ったが。
シオンは俺と目線を合わせず、顔を赤らめたままさらに続ける。
「形は……、ヒモで結ぶやつです……」
「!?」
ヒモパンだと!? ちょ……、マジで!? 予想外の回答が返ってきた。
こいつ、13才だよな……、もっと子供っぽいパンツを選ぶとばかりに思っていたが、まさか、よりにもよってヒモパンとは……。
だが、ここで動揺を見せるわけにはいかない、ここで動揺すれば俺が子供っぽく見えてしまう、冷静に冷静に……!
「他に買ったのは、おしりがこう、Tの字になってる……」
Tバックだと!?
なんでそんなに布地が少ないパンツばっかり選ぶんだコイツは!?
ひゃっほうっ! みなぎってきた……!!
……いや、まてまて! 冷静に……!
まさか、布地が少ないパンツが異世界人には普通なのか?
……あり得る、シオンがいた元の世界が、よくある剣と魔法の中世風だとすると布は貴重品かもしれない。
ならば、下着ごときには必要最低限の布地しか使わず、必然的にヒモパンやTバックのような極小面積パンツが生み出されるという事に……。
間違いない、この仮説が正しければシオンがヒモだのTだのけしからんパンツを選んでもなんら不思議ではない、だって故郷のパンツと似たようなものを選んだだけなのだから!
ってことはアレか、俺は洗濯のたびにヒモTとコンニチワするってことか。
くっそ、しょうがねえな、全部優しく手洗いしてやろう……!
家に帰ったらすぐに女性用下着の手洗いの仕方をネットで検索しようと考えていると、シオンが何か言いたそうにモジモジしている、まさか、まだ過激なパンツがあるとでもいうのか?
「あの、下着のことでまだお話が……」
期待と興奮で口元がニヤケそうだ、だが『ごっこ』とはいえ魔王役を演じている以上、情けない姿を晒す訳にはいかない。
「ほう、まだ何か隠していたか、下着のことは包み隠さずすべて話すのだ」
「は、はい……えっと」
緊張しているのだろうか、シオンが乾いた唇を舌でペロっと舐める。
そんな可愛らしい仕草にドキドキしながら次の言葉を待つ俺こと魔王様。
「は、恥ずかしいから、耳元で……、屈んでいただけますか?」
「う、うむ」
恥ずかしいだと?
今までのやり取りも相当恥ずかしいと思うが、さらに過激なパンツを暴露する気か!?
屈んだ俺の両肩にシオンが手を置いて湿った唇を耳元に近づける、朝シャンのいい香りで鼻がスライムのようにとろけそうだ。
……さあ、次はどんなパンツだ? 私を喜ばしてみせろ!!
「……うそです」
「なに……?」
「ヒモも、T字も買ってません、ぜ~んぶ普通のパンツです」
「!!??」
「見事に騙されましたね、ま・お・う・さ・ま」
「な、なんだと……」
絶望のあまり膝から崩れ落ちてしまった、俺は、ヒモT達を優しく手洗いする幻想を見せられてたってことか……。
「マインドブレイク!」
「!?」
シオンの右手人差し指が俺の額にピっと触れる、な、何をした!?
「マインドブレイクは心の隙間に魔力を圧入し精神崩壊へと追い込む魔法、命拾いしましたね、私のマジックポイントが足りなくて!」
膝をついて座り込んだ俺にまるでザコモンスターを見るかのように見下してくるシオン、……そう、いつでも倒せると蔑む冷たい視線だ。
絶望、屈辱、そしてドス黒い悔しさが胸中を支配する。
許すまじ、男の純粋な下心を踏みにじるとは……。
だが、ここで心が折れてはダメだ。
この魔法使いは、この俺を絶望の淵に突き落とした気でいるが、実はそうではない、希望はまだあるのだからなあ!
ふははははははは……!
「あ、そうそう、下着は自分で洗いますので指一本触れないでくださいね」
「あ、はい……」
希望なんて、なかった……。
私のパンツの戦闘力は50万です。