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7月20日 その⑦ 異世界人が迷子

 ガリ、ガリ、ゴリ……、ゴクン!

 必死にアメを噛み砕き、一思いに飲み下す音が聞こえてくる。

 中古のハッカアメはシオンの口にねじ込んでやった。


 それにしても百貨店までの道のりが遠い、というか、いつもより時間が掛かる。


「ひどいです!白くて硬くてベトッとしたものを無理矢理お口に入れるなんて!」


 右から左へ抗議を受け流し、さっさと歩けと促す。

 抗議を無視された異世界人は人通りの多い道は歩き慣れないのか、対向から歩いてくる人をあたふたと不器用に避けながら俺の後を付いてくる。

 ちょこまか動く銀髪ジャージ赤白帽姿のシオンは行き交う人々に物珍しく映るようで、やたらと注目を浴びている。

 

 しまった、地味な服を選んだつもりなのに逆に目立ってしまっている。

 やはり早急に服を揃える必要があるようだ。




「うわあうわあうわああ!なんて煌びやか!ここがお店ですか!?」

「百貨店だ、あんまりキョロキョロするなよ」


 随分時間が掛かったが、やっと目的地である百貨店に着いた。

 俺が住むこの町で最も大きく、大概の物は揃う、地元で一番人気のショッピングセンターだ。

 今日ここで買うべきものは


・シオンの外出用の服、3~4着程度。

・下着も同程度、ブラは不要だろう。

・シオンの日用品、歯ブラシとかいろいろ、使い方を教えてやらないとな。

・あとは一週間分の食材


 ……くらいか?

 それにしても、今日はかなりの出費を覚悟しなければならないな。

 生活費は海外を飛び回っている両親が毎月口座に振り込んでくれるが、その金額は贅沢が出来るほどではない。

 

 買い物を始める前に、一応財布の中身を確認しとくか。


 いち、に、さん、よん枚……、こんだけあれば足りるよな?


 さて、何から買いに行くか。食べ物は後でいいか、早く買っても痛むだけだし。

 日用品は食材と同じ場所に売ってるから、これも後だな。

 となると、服と下着を先に買いに行けばいいってことだ。


「シオン、まず服買いに……」



 ……って、あれ?


 さっきまで俺の横で辺りをキョロキョロしてたシオンがいつの間にかいなくなっていた。

 大方、好奇心に負けてどこかをウロウロしているんだろう、まったく小さい子供かあいつは!


 どこに行ったのか、今日シオンには服を買いに行くと伝えている、となると服屋の方に行ったか?


 あいつも女の子だし、オシャレに興味を持っても不思議じゃない。





 ……いねえ!


 服を扱っている店は大体まわったが姿が見当たらない。

 店員さんにも『赤白帽の銀髪ジャージ』が来ていないか聞いてみたが首を横に振るばかりだ。

 

 もしかして、下着の店の方に行ったか?


 くっ、確認に行くべきだとは思うが、男ひとりで女性ものの下着の店に入るのは勇気がいる。

 どのくらい勇気が必要かというと、チート能力を持たないごく普通のレベル1の勇者が、誰一人として仲間を連れず隣町を目指すくらい勇気がいる。

 いやいや、これは勇気ではなく、もはや無謀だな。

 ということは、女の子のパンツ屋に男子高生が単騎突撃する行為も無謀ということに!?

 

 俺が真剣に悩んでいると……。


 ピーンポーンパーンポーーーン。


「インフォーメイションセンターより、迷子のお知らせを致します。赤のジャージの上下をお召しになられ、赤白帽をウル〇ラマン被りされた13才の女の子をお預かりしています。お心当たりのあられるお方は至急、インフォーメイションセンターまでお越しください」


 ピ~ンポ~ンパーンポ~~~ン。


「……いた」






「うわああああああああああん、ゾウダあああああああああっ……!」


 インフォーメイションセンターで保護されていた異世界人が、俺の姿を見つけ飛び付いてくる。


「ちょ、ハナをつけるな!」

「だってだって! 気づいたら一人になってて! 怖かったんだもんっ」


 なにがもんっ! だ、まったく心配掛けさせやがって。

 あと、その帽子の被り方はやめろ。

 泣きついてくるシオンを宥めていると、シオンを預かってくれていたインフォーメイションのお姉さんが何かを手に持ち近づいてくる。


「あの、お客様、こちらお忘れですよ?」


 手に持っているのは様々な食べ物の数々、量はどれも少ない。


「あの……、これって?」

「そちらのお嬢様がお持ちになられていた、その……、試食品かと……」


 こいつ、食べ物の臭いに釣られて食品コーナーで試食品を漁っていたのか。

 オシャレより食い気、必死になってファッションショップを探し回っていた自分が恥ずかしい。

 お姉さんから両手に抱えるほどの試食品を受け取り、ドヤ顔で俺に向き直る。


「これ全部タダで貰えました! すごいでしょう!」

「お、おう……」


 試食品をうまそうにパクつくシオン、しばらく眺めていたが俺に分けてくれる気はないようだ。

 ほんと、食いものに対してイジ汚いというか何というか……。



 インフォーメイションセンターを後にした俺たちは再び服屋を目指して歩き出す。

 その途中で、隣をちょこちょこ歩いているシオンの赤白帽の被り方を何度も正しているのだが、すぐにウル〇ラマン被りに戻してしまう。曰く、この被り方の方がカッコいいとのこと。


「その恰好は、この世界の英雄の一人のコスプレだぞ」

「本当ですか!? なら、なおさらやめられません!」


 ……目立ってほしくないのだが。


 こいつは万が一、何かに巻き込まれたとき身元を証明するものがない、警察に補導なんてされた日にはなんて説明すればいいのやら、最悪、俺も何かの罪に問われる可能性すらある。

 俺の心配をよそに、英雄という言葉に気をよくしたシオンがいろいろポーズをとっている。


 違う違う、その恰好でポーズをとるならこうだ、右手を前に出し肘を曲げる、そして左手をクロスするように添えるんだ、そうそう、そんな感じだ、いいぞ~。




 って、なにやってんだ俺は……。


出そうと思えば光線すら出せる……!

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