1人目⑤ 楠 さゆり:語り手→楠 さゆり
深い海の中。
ゆっくりと、ゆっくりと沈んでいく。
にじんだ太陽が、水面で揺らぐ。
手を伸ばしたら届きそうだ。
でも、届かない。だって私は深い海の中。
不思議と苦しくはなかった。
寧ろこんなに心地よいのは初めてかもしれない。
ぷかぷかと沈む。
ゆらゆらとたゆたう。
もう、いいんじゃないかな。
私は、頑張ったんじゃないかな。
自然と両目から流れた涙が、あぶくとなって上に昇る。
どこからか大きな亀が2匹やってきて、私の涙をパクリと食べた。
亀たちが私の周りをぐるぐると回る。
彼らは私の背中を押そうとするけど、私はそれを受け入れなかった。
ーありがとう
もう疲れてしまったのだ。
彼らにさよならを告げると、私はまた深く深く海の底へと沈んでいく。
後悔がないと言えば嘘になる。
秋穂と作ってたヌイグルミの”熊太郎”はまだ完成してないし、
大好きな本条くんに、好きって伝えてないし、
秋穂に、直接ごめんって謝れていない。
そしてお母さん、お父さんごめんなさい。
私はなんて親不孝な娘なんでしょう。
こんな私を許してね。
”彼”がすべてを終わらせてくれる。
私は始まり。
ただの、始まり。
私は怪物。
怪物が4人。
天使が4人。
天使を殺すには、槍が必要。
私が、その槍となるのだ。