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役者の揃わない舞台。  作者: 尻尾
第一章 
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第一章 1  『アクシデントは物語の始まり』

「カイト、今日ってセストン家の調査か?」

「あぁ、はい。そうですけど。なんかありました?」

「何もないんだけどさぁ、」



コルンさんの何にもないんだけどさぁ、は大抵何かあったときに出る。

例えば、奥さんに怒られて落ち込んでるときだとか、クトさんの大切にしていたコップを割ったときだとか、

そして決まって、その後はあぁだこうだと意味のない言葉をたくさん言ってから、どうしようか、どうしたらいいと思う、だ。

今回は何をやったのか、めんどくさいが続き促す。意味のない言葉をたくさん聴くのはもっとめんどくさいし、何より酸素の無駄だ。



「で、資料の整理をしろと」

「しかたないだろー?!嫁さんの誕生日なんだよ、今日!」

「だから、自分の代わりに仕事をしろと、、ふざけないでください」

「ふざけてない真面目だ!」



なんでこんな人が、上司なんだろうと思う。

そりゃぁ、いい人ではあるけれど。

ばかだな、と思う日が多くなるほど最難関と謳われる国家試験の難易度を疑ってしまう。

本当にこの人が全教科で百点をたたき出した人なのか。疑いたくなる。



「じゃあ、オレが話つけてくるんで、コルンさんは資料整理してて下さい」

「嫌だ!!何でかあいつお前のことすっごく気に入ってるから、いーやーだ!!」

「...大の大人が何言ってるんですか...」



はぁ、と小さく息を吐く。

クトさん帰ってこないかな、オレ一人でこの人どうにもできないんだけど。

噂をすれば何とやらで来てくれれば何の問題もないのに、世の中そんなに甘くはないわけで、遅れて登場するヒーローのように現れることなんてなく、

とりあえず、調査に出なくちゃいけないタイムリミットまで時間を稼いだ。















小刻みに揺れる車体と、車内で流れる持ち主の趣味であろう耳を心地よくたたくバラードが、寝不足の体にはいい毒だ。

漏れ出そうになった、あくびをかみ締めながら、運転席で話している相手の話に耳を傾ける。



「カイト、えらいよなぁ。僕なら室長の話適応に流しちゃうよ」

「シュウが適当なだけだろ。他の人だって同じ反応してるって。結局本人に仕事してもらってるし」

「ひどいなぁ、その言い方。いやいや、お前は優しいんだよ」

「…そんなことねぇよ」



次左な、といいながら二番に入り始めたバラードから、首都局が放送しているラジオに切り替えた。はいよ、と返事が返ってくる。

丁度今さっきまで車内で流していた曲をBGMにやさしそうな声の女性と明るいイメージを持つ声の男性がなにやら話している。

この曲、有名だったんだと驚きながら、座席に体重をかけた。



『もうすぐ国家試験の季節ですね。倍率も難易度も高いんですよね』

『本当に一握りの人間しか合格できないくらいには難しいですね。あぁ、誇張ではなく』

『えっ、そんなに難しいんですか?!』



本当に驚いた声を出した女性に、そんなにですよ、と男性が言う。笑いながら言っているのが聞いているだけのこちらにも伝わってくる。

二年前の今頃を思い出す。


試験四日前だ。


詰め込める単語やら用語を、ただ単に単純に記憶しただけじゃ覚えないからと何かしらゲームやら小説に関連付けて覚えようとしていたのが今は懐かしい。

隣に居るやつがニヤニヤとうれしそうにしているが、無視だ無視。



『合格した人間が国に大きくかかわる役割を担いますから、難易度が高いのは仕方ないことだと思いますよ』

『そうですよね..国を預けるんですもんね。そういえば、公務第一課-所謂、公務員の仕事についた場合色々規則が厳しいと聞きましたけど、ほんとなんですか?』

『本当ですよ。元々国家職自体がかなり規則が厳しいんですけど、その中でも、公務一課は御三家や旧大名家の調査を主な活動内容としてますから』

『あぁ、なるほど。あの名家は国の法律の中でもグレーゾーンに居ますからね』



その言葉が聞こえたすぐ後、いきなりCMが始まった。

いつもなら、『このあと、何分後に…』と言っているのにそれが無かったところをみると、どうやらいつもよりも会話が白熱していたらしい。

グレーゾーンね、なんて苦笑いしながら小さくこぼせば、その声を拾ったのか、はたまたタイミングよく思いついたのがその話題だったのか、

これから行くのも、御三家だか旧大名家だよな?

とさっきまで、ニヤニヤしていたやつが視線は変わらず前に向けて、言葉だけ投げてきた。



「あぁ、確か御三家だったと思うけど」

「確かって何だよ」

「シュウだって、どっちだかわかんない言い方だったろ。毎年変わるやつなんか覚え切れてねぇよ」

「…でも、去年のは覚えてるんだろ?」



そう言われて、まぁな、と歯切れ悪く零す。

年が変わったばかりで、

しかも最近はなんでかしらないけど、コルンさんやら、はたまた違う部署の室長やらから膨大な量の、仕事の手順や、資料の場所、各家々の当主の癖や短所、色々な事の、いろいろな場面に関係する知識、常識、意識の持ち方、情報、そのすべてを詰め込まれ、整理し、自分の力にしろと要求される。

そんなキャパオーバーを起こしそうな頭の中に、毎年とある実施調査によって変わる各大名家の順位表なんて詰め込む余裕は微塵もなかった。

と、言い訳にしかならないであろう言葉を並べる。自分自身に言い訳なんてしてどうすんだって話になってしまうんだけど。


でも知ってないと、やばいな。



「次、ケーキ屋の横、右。すぐ左」

「はいはい。どうしてそんなん覚えてんだよ?まだ数回しか行ってないんだろ」

「…コルンさんに覚えさせられた」

「うわ、部下に道順覚えさせるとか…」



そういえば、あの人方向音痴だっけ、と言ったシュウに、適当に返事をしながら、端末で国家情報課に自分のIDを使ってアクセスする。


えっと、大名家、実施調査、っと。


キーワードで検索をかけ、それでも数多く引っかかったため、単語を増やす。

大名家関連の実施調査が多いのは有名な話だが、それでも実施調査をやっている側のオレでも、ヒット件数には驚いた。

どんなに単語数を増やしても、百件という表示制限件数を切ることはない。

これは、あれだ、正式な名前入れないと、出てこないやつだ。



「次は?どこ曲がればいいんだ?」



小さく呟きながら打ち込んで、検索結果を見る。ヒット件数一件。安堵のため息が漏れる。

外れていたらどうしようと思いながら打ち込んだ名称は合っていたみたいだ。


『各大名家所得額実施調査』、調査するのはその名の通り極東・日本と呼ばれるこの国の全国各地に存在する、江戸時代から続く名家でありその土地で権力を握っている大名家。

大名家なんて仰々しい名前を彼らが今でも掲げられるのは、江戸時代が終わるときに作られた法律の生ぬるさゆえだったりするのだけど、今はそんな話はどうでもよくて、その大名家の年間でどのくらいの額をどうやって稼いだのか、その詳細を書面と当主からのはなしを聞きながらまとめて、且つ何ゆえか順位表にまとめられたのが、現在の実施調査票だ。

そして上位三家を御三家なんて呼び方をする。


ただの実施調査だと政府は言うけれど、実のところ、大名家、その中でも特に御三家が、持ちえる権力でなにやら変なことをしないように、牽制しその兆候がないかどうか調べるためのもんなんだろうなぁ、なんて俺は軽く思っている。真意はどうだか知らないけど。


とまぁ、何字熟語だよってくらい長々しい漢字の羅列は基本、仕事仲間とかは「大名家バトル」だとか妙な言い方をしているし、

室長であるコルンさんだって「今年のいつものやつ」っていっているし、それを指す言葉は聴いても正式名称なんて聞くことはそうそうない。



「なぁ、次は?」



開いたファイルを全部読む余裕なんて、今のオレにはないから、とりあえずセストン家の順位とそのほかの家にざっと目を通す。

セストン家は相変わらず総合第二位、去年と変わらず御三家。

一位は…古株の神宮寺家だ。この順番でいくと、三位は最近伸びてきた佐久間家か、前回はぎりぎり三位を守りきったレイアルト家だな。

と思いながら、セストン家の調査の詳細を流し読みしていれば、隣から、かなりの強さで肩をたたかれる。というか、体当たりに近い。



「…おいって」

「え、なんだよ」

「次は?」

「次?」



とりあえず、という感じで道なりに進んでいる車のフロントガラスを自分で道順ぐらい覚えろよな、と思いながら見やる。

さっき言ったケーキ屋から確実に一キロ、目的地であるセストン家からは二キロ半くらいは離れている蕎麦屋が視界に入った。

あぁ、これはまずいことになった、とオレの冷静な部分が呟く。

頭をフル回転させて、最短距離をたたき出す。



約束の時間まで後十分でたどり着くかは、ほぼ運任せだった。

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