ドッペルゲンガー
「豊佳、火曜日あんた見たよ」
土曜の夕方、今この塾で唯一制服を着ている子に言われた。
「え、マジ? どこで?」
「小倉。うちのアパートの近く。何してたの?」
おかしい。私は二週間前にドームに行って以来、福岡市どころか博多区からも出ていないはずだ。
「私じゃないよ。もしかしたらドッペルゲンガーかもね」
冗談のつもりでそう言った。彼女も見間違いだと結論付けた。ところが今度はコンビニから帰ってきた子がこう言った。
「そういえば豊佳さ、水曜日うちの近くにいなかった?」
「え? それどの辺?」
「折尾駅のホームだけど」
小倉の次は折尾か。私のドッペルゲンガーは鹿児島本線を下ってきているらしい。あれ? それなら次は……。
「ねえ佳子、おととい私を見なかった?」
赤間駅から来てる佳子に聞いてみる。
「え、おととい? 直方に行ってたんじゃないの? りっちゃんから聞いたよ」
直方? さてはドッペルゲンガー、福北ゆたか線に乗り換えたな?
「じゃ昨日は飯塚あたりかな」
そんなことを言っていると、パンの袋を捨てようと席を立った男子が私を見た。
「あ。真岡さん、けさ吉塚で見かけたけど何してたの?」
「特急のってんじゃねえよ!」
ついそんな声が出た。ごめんね驚かせて。
「吉塚ってもう隣の駅じゃん。やばいよ、もし本当にドッペルゲンガーだったらどうしよ〜」
今更ながら恐怖が襲ってきた。みんなも冗談では済まされなさそうな空気を出してくる。後ろでドアが開いた。先生だ。
「ちょっと今いい? 今日から新しい人が増えるから、紹介しておきます」
良すぎるタイミングに心の中で悲鳴を上げる私。
思い切って後ろを振り向く。
「うっ」
その新入りさんは私の顔を見るなり倒れた。
「あっ! ちょっと大丈夫? いま救急車呼ぶから!」
先生が職員室に戻っていく。その隙に彼女の顔を覗いてみた。私と瓜二つだった。
「そっか。ドッペルゲンガーは私のほうだったんだ」