鳴動”ハジマリノオハナシ
もし仮に世界において優劣の判断が顔において極端に判断されてる世界があるとするならば貴方はどうするだろう。 人の第一印象の約55%が顔で決まると言われているが、この世界において顔というのは言わば持って生まれた才能といっても過言ではない。
この神霊という存在と人が共存する神霊都市 『エクス=フィリア』においては。
神霊とは思っている通り神話に出てくる神々の化身だ。この世界には神霊の加護によって人々は魔法が使えるし、そして神霊と更新する資質をもち、神霊を可視化できる者たちは『神霊使い』としてこの目の前にある門をくぐるのだ。
その名も『聖フィリア学園』 神霊使いとなった若き才能の卵たちを育成するエクス=フィリアにおいては唯一の育成教育機関だ。入学条件は神霊使いといての資質である神霊を可視化出来ること。だが、完全実力主義のこの学園において優劣はこの門をくぐった時から区別される。
「次! 受験番号030前に!」
試験管のはっきりと通る声によって次の入学者は前へと進み、とあるものの前へと立つ。
身長は平均よりも少し高めで体格な中肉中背。髪はスポーツをしているのは短く整えられており、顔のパーツも過不足なく整っている。例えるならクラスの中で二番手あたりのグループにいそうな人だった。
「この水晶に移る自分の顔を結果が出るまで眺めるように」
これこそ、学園において生徒の優劣を決めるとある魔道具 『crystalkey』だかその姿は水晶ではなく女性である。
「離してもいいぞ。 君の総合判定結果はーー」
「うーん。なんか普通って言葉が似合いそうな顔ね。良くもなく悪くもないからCじゃない?」
「ありがとうございました!」
これこそが優劣を決めるとされる所以である。神霊やまたその眷属である精霊は自分のパートナーのことを能力や血筋ではなく全て顔で判断する。
勿論性格も含まれるのだが先程から何回も言ってる通り、ただえさえ、私たちも人の第一印象の約55%を顔で判断しているのを神霊の使い魔である精霊でさえも約70%、神霊はなんと80%の割合で判断するのだ。つまり、生まれつきの才能である『顔』というものはこの世界において絶対的な優劣を生み出す。
ちなみにこれは6段階評価で判断され、今の人はそのうちのちょうど真ん中。そもそも資質のある人自体が少ない神霊使いにおいて標準というとは十分に喜べる結果だろう。判定を終えた生徒は満足といった様子でその門をくぐり抜けていっていた。
「次!受験番号031 前に!」
そう言われて挨拶をし前に立った人は、身長は平均だが体格は肥満体。髪はボサボサに伸ばしており、膨れ上がったタラコのような唇。そしてブツブツとニキビが出来ており、肌の手入れがまともにされてないのがはっきりとわかるようだった。
後ろの方ではひそひそと「ねぇ、あれって」「ええっ。絶対あれはEでしょ」と55%の人にでさえ最下位判定を受けている。ならば80%の人はーー
「うわぁ〜あんた良くそんな顔でこのもんを潜ろうと思ったわね。そんな顔ならいっそ神霊が見えるということを隠して一般人として生きて言った方がいいんじゃない?」
「ぐっ……」
「あらあら、私に刃向かう気? いいけどあなた死ぬわよ」
凄まじい遠慮のえの文字もない発言に何も言い返せないままただ恥に身を震わせ下を向き悶えるその姿は他の人にとっては嘲笑の対象だったらしい。現に後ろからはくすくすと笑い声が聞こえてきていた。
「時間がもったいないでその辺にしておいてください。では、この水晶に映る自分の顔を結果が出るまで眺めるように」
試験官の辛辣な対応。一言フォローもあってもいいのではと思うがその対応は正に「こんなのを相手にする時間がもったいない」と言っているようなそんな感じだった。
「それなら、あなた水晶に顔を映さなくていいわよ。どうせあなたの結果なんてE一択だから」
「いい加減にしろぉぉぉぉぉ!!」
あまりのその一言に今まで肩を震わせ我慢していたその男は全身を怒りに任せ、爪が食い込み血が出るほど握りしめていた拳を精霊へと振るう。だがーー
「へぇ、いい度胸じゃない。死になさい」
ズバァン!!と空気が破裂したような音が辺りに響くとさっきまで精霊に殴りかかろうとしていた男は精霊の白く華奢なその腕で頰を殴り抜かられていた。 せめてもの情けなのか吹き飛ばないように胸倉を掴まれていたおかげで吹き飛んで壁に激突とまではいかなかったが、失神状態で目は白目を剥き、鼻と口からは血が流れていた。
あまりのむごすぎる仕打ち。数々の暴言では飽き足らず刃向かうものに対するその冒涜は終わることはない。 失神状態の男の顔面に精霊は柔かな笑みを浮かべ拳をもう一度握りしめる。
「そうね。私がこの手で貴方の顔を矯正してあげるわ、運良ければイケメンになれるかもねっ!!」
その言葉とともに振り抜かれる一撃。これを喰らえばもう命すら危うくなるというのに誰も止めようとしない。むしろその光景を他の人たちは「ブサイクの分際で刃向かうのがいけない」と言っているかのような空気。
無論、自分もその一人だと思っていた。
自分も他の人と同じように「ブサイクのくせに刃向かうからだよ。プークスクス」と言っているのだと思っていた。
そうこれはたまたまだったのだ。たまたま俺の受験番号が032でちょうど今朝テレビをつけたら録画していた『魔法少女 パステルみかん』がエラーで録画できていなくてご機嫌斜めだっただけなんだ。
俺は何故か、今現に拳を振りかざしている精霊の元へと駆け出して
胸倉を掴まれている男を蹴飛ばして解放し
そしてその精霊に思いっきり渾身の右フックを振り抜いた
「………………あっ」
自分が何をしたかを正確に理解した時はすでに遅かった。目の前には精霊を殴ったという俺に対する驚きの顔を浮かべている群衆と、蹴飛ばした力が強すぎたのか泡を吹いて倒れているあの男とーーー
人間に殴られたことになぜか笑みを浮かべている精霊の姿だった。
「へぇ、そう。私、殴られたんだ。本当、今年の新入生はいい度胸してるじゃない」
(で、ですよねぇ〜)
心では返事できていても、思わず何も言えずに苦笑いを浮かべるしかコミュ障の自分には出来なかった。
「どう?お礼と言ってはなんだけど積極的な貴方のアプローチを受けて私と今度一緒に血みどろのダンスパーティーでもーー」
その時の俺はどうも血迷っていたみたいだ。 やはり『魔法少女 パステルみかん』の『はじけろ!ポッピンシャワー』という闇落ちしたワルイコダーを善人に戻すほどの癒し能力があるその技を今朝聞けなかったからだろう。そこで俺はとんでもないことを口走ってしまった。 俺の目線は彼女の顔から下に落ちていって……
「はあっ? まな板になんて興味ねぇんだよ」
ビギッ!と平静を保っていた彼女の限界なのか、明らかに聞こえてはいけない、てか聞きたくなかった音と共に、今までなんとか笑顔を保っていた精霊の顔に青筋が浮かび上がる。その状況に俺の全身の神経という神経が警告を鳴らして……
「死になーーー」
「風よ! 吹き荒れよ《フロウ》!!」
咄嗟になけなしの命を守るために防御の体制をとり
「さいっ!!!!!!」
かのロ〇〇ト団よろしく、はたまた、ば〇き〇マンのように空の彼方へ吹き飛んでいった。
拝啓、クソババア。お元気でしょうか?
貴方は私に日頃から「人は神霊の加護のおかげで生かされ、今日まで発展してきた。
だから、人は神霊様に感謝し、そして崇めなければならない。ましてはその神霊様に対して殴るだなんて御法度だよ!!」なんてことを常日頃から俺に言い聞かせてたくせに、自分の神霊には酷い仕打ちを繰り返していましたよね。
何故かと聞いたらいつも貴方は「こいつは神霊じゃないんだよ、こいつはただのゴミムシさね」と言っていましたね。 どうやら、貴方の弟子は貴方と同じことをしでかしたみたいです。そんな訳で空の上から最後の遺言をお伝えしたいと思います。
「お供えには『魔法少女 パステルみかん』のコンプリートブルーレイボックスをお願いしま………」
そんな、最後の遺言を残している時に頭の中をよぎったのはあの、異常なまでに興奮し仲間と抱き合った夜。俺らはチャットで同志たちと何に興奮した………!?
残念なことにパステルみかんは今現在、刻一刻とクライマックスストーリーが進み、残すところも少なくなってきている。嬉しさ反面、悲しさ反面で一つ一つを噛み締めながら見ている俺らに感動を与えてくれたのはーー
「魔法少女 パステルみかんの二期を見るまで死ぬ訳にいくかぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そう、魔法少女 パステルみかん二期制作決定だ。
地面はこうしている間にも近づいている。おそらくこの高さでまともに命が助かるとは思ってはいない。 唯一の頼みは、
「あの湖にチャンスをかける!」
周りを森林に囲まれ、空から見ないと見つからないんじゃないかと思えるほどに小さな湖。あの湖が、本当に湖でなく、ただの水たまりなら俺はあの世への片道切符を手に入れてしまうことになる。
なんとか、姿勢を変えて湖の真上に体が来るように移動し、余った魔力を指先一点に集中する。
「3………2………1……」
自分の人差し指が水面に触れるか触れないかの刹那を見分け、俺は全力で叫んだ。
「風よ、収束にここに集え!我は汝の枷を解き放つ者なりーー《エアロ:エイム》!!」
指先に収束したさっきの風とは違い、一つの風の塊となった風は一時的な重力とは逆方向のエネルギーとなって、体を減速させるとともに盛大に水しぶきをたてた。
余談だが、『:エイム』とは、魔法に付与する形で使用する付与術式だ。
この世界における魔法のルーツはこの世界を護る五大神霊に関連し、『火・水・風・光・闇』の五属性からなる。
それぞれの特性を話すと長くなるのでそれはまた別の機会にと言うわけだが、おまけに風の魔法の特徴を言うとおそらくほとんどの人が「攻撃する手段がない使えなくてもさして問題のないもの」と答えるだろう。
バシャァァァァン!!!
辺りにバカみたいに水しぶきを立てて飛び込んだが、意外と飛び込んだ泉は深くて怪我も無かったのだが、水面から顔を出した時、俺は目の前に広がるその光景に言葉を失った。
深影の森の中にまるでそこだけがぽっかりと何かが埋め込まれた感覚を覚える。 周りは木々で生い茂り影すら入らないはずなのに、この空間だけは太陽が燦々と照りつけ、赤や桃、黄色、青といった色とりどりの花々が生き生きと咲き誇る。
そして、一人のこの世の人とは思えない白いワンピースを着た美少女。
髪は光に照らされその一本一本が輝きを放つ金髪。だが何故か顔は見ることはできなかった。目に水が入ったのか、ただその少女が眩しすぎて直視することはできなかった。
「………あ、あの。ここは?」
ヲタクにはデフォルト装備といっても過言ではないコミュ症を遺憾なく発揮し、なんとか震えた声で少女に話しかけてみる。
(やばいやばい、なんでさっきはあの精霊話せたのにこんなにここではコミュ症発揮してるんだ!? 絶対気持ち悪いと思われた!!)
「ご、ごめんなさい、こんなキモい悪い話し方で」
ここでもテンパってしまったと凹みながらも、ちらっと彼女の方を見るが、なんとか見えた口元には何故か驚きの表情が浮かんでいた。何故、驚きの表情を見せたのか分からず、ぼっと立ちすくんでいると、彼女は俺の方にそっと近寄ってきた。
「ちょっ! 一体!? 近い、近いです!!」
彼女の白魚のように白く、キュッと細い腕が俺の首の後ろへと回り込み、彼女のぷくっとした唇が近づいてーー
(まさかこの展開は俗にいうフラグが立ったというやつか!来たぞきたぞ!!ついに俺の時代が………)
『ガチャッ』
「…………?」
首元を触ると明らかにたやすく外れなさそうな頑丈そうなチョーカー
「あのーまさかこれってよくある『徐々に首を締めていって挙げ句の果てに人の命を奪う呪いのチョーカー』とかじゃないで…す……よね?」
少女は口に指を当てて、少し悩んだ様子を見せるが、にこやかな笑みを浮かべてこう返した。
「…………♪ (ピース)」
「フラグがへし折れタァァァァァ!!!」
バキィィィ!と音を立てて俺のリア充フラグか破壊される音が脳裏に響く。
衝撃の真実に崩れ落ちた俺の肩にそっと添えられた励ましの手。 まさかと思って見上げた先にはーー
「………!!(グーサイン)」
「チクショォォォ!!どうせ非リアですよ、どうせ呪いのアイテムを運ぶ死霊に殺される運命だよ畜生!!」
「…………(プクゥ〜!!)」
膨れた彼女の頬と何故か怒っているな感じの彼女の様子にに可愛いな見とれていると、追い打ちをかけるように、徐々に薄くなっていく俺の体。
「えっ、まさか、もう効果発揮してきたんですか?えっ嘘?嘘でしょ!?」
「………(プイッ!)」
「わぁーー!怒らせてごめんなさい!!謝りますから、許して、許してくださいって!」
ペコペコと頭を下げて許しを請う間にも刻一刻と薄くなる俺の体。いよいよここまでかと思った時聞こえた、透き通った声。
「待ってるね」
顔は相変わらず見えなかったが、なんとか見えるその唇は今度は笑顔につづまれていた。
そして視界は白く染まるーーーーー
曖昧な意識が徐々に朝日が差し込めるように明確になる。
「ここは、正門前か?」
何故か先程吹き飛ばされた正門前へと戻ってきた俺。だが、そこにはもう受験生の姿はなかった。
「あれぇ? もしかしてさっきの私に歯向かってきたゴミ虫じゃない?」
「確か受験番号032 の方でしたね。どうします?一応試験しますか?」
事務的な試験官の対応と、忘れるはずのない明らかに神経に触ってくるクソイキリ野郎のリア充気取りの女の声。
「そうね。イメチェンなのか首に悪趣味なチョーカーまでつけて帰ってきたことだしね」
「このチョーカーは飛ばされた先で謎の少女につけられたんですよ」
俺の発言にまな板は一瞬目を丸めた後、ゲラゲラと馬鹿さが滲みでるような嘲笑を返してきた。
「ギャハハッ! 何々?とことん嫌われてるわねあんた。もしかしたら神霊である私の下僕である精霊が貴方に私を殴った仕返しをしてくれたのね? ええっ、きっとそうだわ!」
(嫌、あんた俺思い切り殴った時点であれはどう考えても仕返しだろ?)
すると、事務官が時計をちらりちらりと確認しながら、まな板が丁度笑い終わったタイミングで話しかける。
「もうそろそろ入学式が始まりますので、やるなら早めにしたほうがいいかと。何かと時間がかかりますので」
「いいえ、その心配はないわ。だってこの私に真っ向から歯向かってくる人間だもの!
032……私はこの番号を2度と忘れることは無いわ!!」
「へぇ、そいつはどうも。それで試験結果は?」
もういいから早くしてくれねぇかな。と明らかに面倒臭さが滲み出てる俺に突如、まな板は俺の前髪を片手で掴み、その醜悪な顔を近づけて、こう言い放った。
(注:世間一般では整っているのかもしれないが、主人公の独断の補正によりえげつない醜悪な顔に見えます)
「人のゴミ箱。又の名を豚小屋。たくさんのあだ名をつけられているけど、通称は『星屑』ことFクラスよ」
考えていた通りの結果に動揺することすらできず、ぼーっとしていた俺にニヤニヤとさも「まさか、と思ったんでしょ? 残念貴方の人生は私の手によって終わらせられたのよ」と言わんばかりの嘲笑で挑発してくるまな板。
「そんなわけで、名前。名前教えなさいよ」
「はっ?なんで貴方に名前を教える必要がっ!?」
もはや人体機能を超越した、宙転かかと落としを決められ悶絶する俺。
「入学者登録、入学者を登録するのに貴方の名が必要なのよ。登録手続きはもう終わってしまったから、仕方なく私がやってあげるのよ!感謝しなさい!!」
「………バナ」
「はっきり言いなさいよね!時間ないんですけど?」
最後までイライラさせてくれるやつだな。畜生!こうなったら全力で叫んでやる!!
「俺の名は 星屑組 橘 結城 だ!覚えておけ!!」
こうして俺ことユウキ=タチバナの学園生活は幕を上げる
そしてこの物語は運命に抗いし少年と彼の同志たちの愛するバカでアホでブサイクで最高な奴らの軌跡と祝宴の物語ーー
この愛するブサイク共に祝宴あれ!!を
読んでいただきありがとうございますw
この作品は「もし、顔で社会の優劣が判断されるファンタジー世界にブサイクのレッテルを貼られた主人公がいたらどうなるんだろ?」とか馬鹿みたいなことを思いついたのがきっかけだったりしますww
色々至らない点もたくさんあると思いますが、是非あなたの休みのひと時に少しでもお力添えになれるような作品になれるよう頑張るので、是非このバカでブサイクで最高の奴らの物語にお付き合いください