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メメントモリ

作者: 葵陽

定期更新作、六作目。


いつもお読みいただいている方、がいらっしゃるかはわかりませんが

ありがとうございます。


続き物をと考えています。

 僕はいわゆる、「外交官」だ。外国人と交渉し、母国へ利益を持ち帰るのが仕事。その仕事にやりがいと誇りを感じつつも仕事で会う連中は紳士淑女であるとは限らず、中には話の通じない野蛮な人種もいるので辟易している。最近は少し、転職も考えている。


 

 わが祖国は世界の国土約7割を支配し高度な文明と植民国からの潤沢な資源供給により、揺りかごの赤ん坊から棺桶の老人まで満たされた生活を約束されている。無論、町に浮浪者など一人もいない。


 万民皆優しく健やかに、その生終わるるまで。

 僕も仕事を引退したのちには妻子や孫に囲まれた、安穏とした人生が待っている。

 

 ただひとつこの仕事の危険性をお話しするならば、出先で殉職する可能性もあるということだ。

 帝国の支配下にない、というのはそれだけで「野蛮な国」である。祖国の6歳児は必ず教師から教えられる。


 外交官である以上、交渉国に無用な偏見を抱くことはしてはならない。だが、これは僕の体験から語る「蛮族」の話、客観的事実だ。

 

 先日遭った奴らは出会い頭、僕の鼻面に武器を突き付け族長の前に膝を折らせた。交渉上まず必要なものは相手との対等な立場なのだが、膝を折らされ床に頭を擦り付けられながら思ったのは「死」だった。

幸いにも族長と言われる人は寛大な人物だったようだが、その周りにいる者たちはまさに「野蛮」である。その国の族長は皺だらけの顔に真白いひげをたくわえた老人だった。

結果僕と族長の交渉は決裂、蛮族はやはり蛮族だった。

交渉の場から一年も立たないうちに帝国との武力衝突が起きその国は大敗、わが祖国の領地と相成ったわけである。

 

 あの族長は最初の武力衝突で亡くなったらしい。悲しいわけではない、彼らは蛮族だった。でも僕は「あなたの国の支配下にはならない」、と悲しそうな眼でそう言った族長の顔が忘れられない。

 

 戦争を失くす為にはすべてが同じ国になれば良い、そうお考えになる我らの皇帝は正しいと思っているし、その考えに沿ってこれからも仕事をするけれど。

 

 幼子が、国同士のイザコザに全く関係のない幼子がその国同士の戦で命を落とす理由を問いたい。敵国民だったから、「彼女」は全身に火傷を負って苦しみながら死ななければならなかったのだろうか。

 そんな、惨い死に方をする必要があった理由とは。

 非難をしたいわけではない、理由が知りたい、ただ純粋に、殺した側の人間へ。




 


 僕はいわゆる、「外交官」だ。外国人と交渉し、母国へ利益を持ち帰るのが仕事。その仕事にやりがいと誇りを感じつつも仕事で会う連中は紳士淑女であるとは限らず、中には話の通じない野蛮な人種もいるので辟易している。最近は少し、転職も考えている。


 

 本日交渉に赴いたのは、ワシュウという国だった。その国の言葉では「和州」と書く。

 文字の形が美しいと思う。帝国で使われている文字は見慣れているせいもあって芸術的美しさは感じない。ワシュウが我が帝国の植民地となれば、この美しい文字も消えてしまうのだろうか。それが少し、惜しくも感じる。

 

 ワシュウという国は数十の島々で構成されており、本島は崖と山に囲まれている。

 その島の姿はまるで、外敵から国民を守るように出来ているようだった。

 外交の要となる港を除いてネズミ返しのような崖がぐるりと島の外を、白く剣山のように尖った山々が島の中を囲む。

 聳え立つ山々は、登山が可能な標高ではないそうだ。山の五合目から上は、特殊なマスクがなければ呼吸すら困難だという。

 幸か不幸か島国であることと、その地形のおかげで今までどの国の支配も受けてはいなかった。数多くの外国人がワシュウへ入国しようと試みたが、運よくネズミ返しを突破したとしても山を踏破することは叶わなかったらしい。ワシュウへの不法入国者は今のところゼロだ。

 ワシュウは「オカミ」と呼ばれる王を有している、と書かれている資料もあるが「オカミ」は王ではなく単なる祭司の長であり、対外的首長に過ぎないというのが事実だ。

 事実がどうあれ、僕が会うべきは「オカミ」であることに変わりはないが。


 


 ワシュウの港に船を停泊させて早三日が経った。「オカミ」に謁見するのは、許可が様々必要なようだ。こういう待たせる国はまだマシな方だろう、いきなり此方の命を狙われることもあるのだから。

もし、ワシュウを植民化するならば「オカミ」の求心力は必要だろう。「オカミ」が拒否すればまた、領土とするだけ。その場合「オカミ」は弑す必要が出てくるのだろう。

 もし「オカミ」を弑し、ワシュウの国民が抑えようもなく反抗してきたらまた「子供」が死ぬのだろうか。

 

そんなことを考えていると、執務室の扉が三回音を立てた。

「アジール外交官、ワシュウの使者がいらっしゃいました。」

「わかりました、こちらにお通ししてください。」





「長らくお待たせを致して申し訳のしようもありません。私は主上オカミの近衛を務めております、三島みしま あさひと申します。この度はお会いできて光栄で御座います、使者殿。」


 ワシュウの使者とは女人にょにんであった。

 なめられているのか、果たしてその真意はなんなのだろうか。


「こちらこそお会いできて光栄です、ミスミシマ。

早速で申し訳ないがオカミへの謁見、どのようになりましたかお聞きしても。」


 近衛を務めている、と言う割に軽装の彼女は「では、」と口を開く。

「二日後の正午にお会いしたいとご回答が御座いました。我が陛下は是非とも使者殿のお話を拝聴したい、と。つきましては二日後、不肖ながらわたくしがお迎えにあがります。」




 随分と穏やかな女人だと、ミスミシマには良い印象をいだいていた。彼女が守るオカミも、彼女のように穏やかであったらと思うほどに。

 

 その時すでに、僕の後頭部をライフルの銃口が狙っていたとは思いもよらず。


定期更新六作目。

お読みいただきありがとうございます。


拙い作品ばかりで申し訳ないです。が、真剣に書いてはいますので

よろしくお願いいたします。

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