コアラ争い2
「両者共にこのゴールデンコアラが自らのペットであると主張するのじゃな」
サリエルが冒頭で読み上げた訴状でこの裁判の内容が把握できた。
どうやらこの二人はどちらがこのゴールデンコアラの飼い主であるかということについて争っているらしい。
「こいつは僕の家の近くに住んでいました。だからまだ小さい頃から知っています。今も昔も一緒に遊んでたんです。」
裁判はジェイルの主張から始まっていた。
「勝手に住み着いてただけで飼ってたって訳じゃねーだろうが」
タスクはツッコミを入れる。
「たまに餌もあげていた! 僕のペットのようなものだ!」
ジェイルは声を張り上げて主張する。
「その割には懐いてる感じがしないの」
「そんな事はないさ。ねぇゆうかりん」
コアラは男の言葉無視して相変わらずむしゃむしゃとユーカリの葉のようなもの貪っている。
「ゆかりんはシャイだなあ」
ゆうかりんとはジェイルがゴールデンコアラにつけた名前らしい。
「ゴールデンコアラは人に懐かないことで有名です」
「へぇそうなのか」
「まあ良いわ。でタスクの方じゃがお主も飼っていた訳ではなかろう」
「こいつは俺が保護したんだよ。森の中で傷ついてたからな。手当てして怪我が治るまでこれから大事に飼ってやろうかって思ってたらこいつが自分のもんだと言いがかりをつけてきたんだ」
「嘘つけ! ゆうかりんを狩ろうとしてたんだろ! お前が大きな斧で斬りかかろうとしているとこを俺ははっきり見たんだ!」
ジェイルは怒りを顕にしていた。
「お主はその場面を見てタスクがゴールデンコアラを狩ろうとしていると思ったわけじゃな」
「そうです。森の方で爆発音が聞こえて、僕が急いで駆けつけると傷ついたゆうかりんと斧を持ったタスクが立っていた。」
「斧は木を切るために持っていっただけだぜ。」
「斧には血がついておらんかったようじゃが」
「魔法で攻撃したんだ! 周囲が黒焦げになってた」
「おいおい俺は魔法なんて使えねぇよ」
「じゃあ爆弾とかアイテムを使ったんだ!」
「さっきから全部お前の想像じゃねーか。証拠出せ証拠」
こんな感じで話は平行線である。
それはそうとさっきからあくびが止まらない。そういえば俺は寝てたのにいきなり起こされたんだよな。
だんだんと意識が朦朧としてくる。一眠りしようかと思った矢先、頭の中に大きな音が鳴り響いた。
サリエルが右手に持った木槌を叩いたのだ。
「お互い引かぬようなのでそろそろ決着を付けたいと思う」
そろそろサリエルの判決が見られるのか。
「これから行う裁きは伝説の判事オブギョウサマが行ったとされるものじゃ。ではお主らよそのゴールデンコアラの両隣に立て!」
タスクはゴールデンコアラの左手側に、ジェイドは右手側に立った。
「よし立ったな……ではタスクはコアラの左手を持ちジェイドは右手を持て! 両手でな」
二人は言われるがままにコアラの左右の手を両手で持
つ。
「そしてそのまま引っ張るのじゃ! それで勝った方をコアラの飼い主とする!」
「はぁ~?!」
「何だって?!」
法廷の中がざわめいた。
というかこれって有名な大岡裁きのまんまじゃねーか。この流れでまさかとは思ってたが……
「そ、そんな力比べだなんて……」
「俺はいいぜ。やってやろうじゃねーか」
タスクは自信満々だ。そりゃそうだ元冒険者だけあって腕には自信があるだろう。
ジェイルに比べたらどちらが力が強いか一目瞭然だ。
「つべこべ言うな! では両者始め!」
合図と同時に二人はコアラを引っ張り合う。
そのまんまの流れだとコアラが痛がって、それを見て先に手を話した方を飼い主と認める判決を言い渡すんだろうけど……
「く、こいつぴくりともしねぇっ」
「はぁ……はぁ……」
二人とも思いっきり本気を出して腕を引っ張っている。
だがコアラは全く動じていない。
「いつになったら痛がるのじゃ……?」
そんな台詞をサリエルはポツリと漏らした。
やっぱりそれを狙ってたのか。
「これ決着つくのかよ……」
「ナカハマ様、コアラの腕を見てください」
「うわっすごい筋肉」
「ゴールデンコアラは大人しいですが強靭なパワーを持っています」
「やめじゃやめー!!」
サリエルが叫び、二人は引っ張るのをやめた。
それと同時にその場にへたれこだ。
「ここでひとまず休廷とする!」