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サリエル邸

「着きましたよ起きてください」

 ん?誰かの声が聞こえる……

 しまった!寝てたのか。

 御者の声で目が覚める。

 

「間抜け面して寝おってからに」

 サリエルが呆れた顔してこっちを見ている。

 こいつ先に起きてたのか。

「お前も寝てただろうに!」

「知らんの」

 そう言ってそっぽを向く。

 しらばっくれる気かよこいつ。

 

 馬車から降りると周りには石造りの背の高い建築物が立ち並んでいた。現代で言 う高級住宅街のようなものなのだろうか。

 そして、目の前にあるのがサリエルの屋敷か、周りの建物と比べると地味な印象を受けた。

 

「おかえりなさいませ、サリエル様」

 敷地の中に入ると玄関の扉が開きメイド服姿の女性がにこやかな笑顔で出迎えてくれた。

 彼女がサリエルの言っていたメイドだろうか。

 年齢は16,17歳位と言った所に見える。おしとやかというよりは快活そうな感じだ。

 

「あら、この男性は?」

 メイドは俺の顔を不思議そうにジロジロと見る。

「こやつは異世界から来た客人じゃ。名はコジロウという。伝説のオブギョウ様の生まれ変わりである」

「オブギョウ様の生まれ変わり……中々すごい方を連れてこられましたね」

「気にしないでくれ。こいつが勝手に言ってるだけだ」

「サリエル様をこいつ呼ばわり?!既にかなり仲が宜しいんですね」

「異世界から来たから礼儀を知らんだけじゃよ。別に気にはしておらん」

「そうなんですね、では自己紹介を。この屋敷の使用人チルダと申します。よろしくお願いしますコジロウ様。」

「こっちこそ宜しく。ちなみにコジロウじゃなくて光次郎だから」

 もはや呼び名なんてどうでも良くなっているがとりあえず訂正しておく。

 サリエルを信じ切っているのか元々気にしない性格なのか、特に怪しむ様子もなく俺に満面の笑顔を見せてくれる。いい子そうだなこの子。

 

「なんじゃニヤニヤして。気持ち悪いの」

 そんな顔してたのか俺?!

「いや、メイドなんてメイド喫茶でしか見たこと無かったから珍しくてつい……」

 慌てて言い訳をする。

「メイド喫茶?」

 やべ、思わずメイド喫茶なんて単語を口走ってしまった。

 でも元の世界の女の子ならドン引きでも異世界人相手ならかまわないか。

「メイド服の女の子が給仕してくれる喫茶店だよ。こっちの世界には無いだろうけど」

「そもそも喫茶店というのが分からん」

 喫茶店がそもそも無いのかよ。

「コーヒーとか飲める飲食店だよ」

「コーヒーというのも分からん」

 コーヒーも無いってか。

「コーヒーってのはコーヒー豆が原料の飲み物で、ってコーヒー豆がそもそも無いか」

「よく分からんが酒場みたいな所か?」

「もうそれでいいわ」

 説明しだすとキリがなくなりそうだ。

「酒場の主人がメイドを雇うとは、そっちの酒場は儲かっとるんじゃな」

「いや、もうブームも去ったしそれほど儲かってはないと思うけど……」

 変な勘違いが生まれたがややこしいからもう訂正しないでおこう。

 

「ところでサリエル様、コジロウ様は今晩ここに泊まられるのですか?」

「おおそうじゃ、早速じゃがこやつに部屋を用意してやってくれ。暫くの間ここで住む事になる」

「そうなのですね!かしこまりました。ではお部屋のご用意が出来るまで待合室でお待ち下さい」

 なんだか分からんが嬉しそうな反応だ。

 嫌な顔されるかもと思ってたから全然いいけど。

 

 俺は中に入ってからすぐの待合室に案内される。外から見た感じでは分からなかったが中は結構広かった。天井は高く豪勢な装飾がしてある。流石貴族のお屋敷だ。

 屋敷の中を探索してみたかったが、今は大人しく待っていよう。

 

 数十分くらい待っていただろうか、ノックの後ドアが開きチルダが現れる。

「コジロウ様お部屋のご用意が出来ました」

 用意された部屋はベッドと机があるだけの簡素な部屋だった。

 だが俺にはこれで十分だ。

 突然異世界に召喚されて普通に部屋で寝られるなんて恵まれすぎている。

 

 ふと机の上に見覚えのあるものが置いてある事に気づいた。

 洋室に似合わない和風の箱……

 これ女神から貰った玉手箱じゃねーか。

「何でこれがここに?!」

「あら、こんな物この部屋にありましたっけ?ちゃんと掃除したはずなのに……申し訳ございません。すぐに片付けますね」

 チルダはそそくさとそれを手に取ろうとする。

「いやいい!これは俺のものだから」

 チルダが手に取ろうとする前に急いでそれを取り上げる。

「え、そうなのですか?」

「きっとサリエルが入れ違いで置いておいてくれたんだよ。そうに違いない」

「はぁ、そうですか。まぁコジロウ様の物でしたらかまいませんが」

 女神のことを今話すのは面倒だ。適当に誤魔化しとこう。

 その後、チルダが用意してくれた豪華な夕食を食べた後、部屋に戻りベッドに倒れ込む。

 

 やっとまともに寝られる。

 俺は今幸せを噛みしめていた。

 頭の中では今日の出来事がぐるぐると廻っていた。

 裁判の事、この世界で出会った人たちのこと。

 しかし考えることは一つ、これからの事だ。

 俺はまだこの世界の事を殆ど知らない。

 明日サリエルにでも色々聞いて考えることにしよう。

 そして、そのまま意識が途絶えた。

 

 翌朝チルダに起こされ朝食を食べに食堂へと向う。

 もう既にサリエルは着席していた。

「遅いぞ、コジロウ!」

「待っててくれたのか。すまんな」

「これからはちゃんと自分で起きるのじゃぞ。お主にはやってもらわねばならん事があるからの」

「やってもらうって何を……」


 チリン……チリン……。

 突如何かの音がなった。

「何だ?」。

「あら? お客様ですわ」

 そうやら玄関のベルの音のようだ。

 チルダが食堂から出て行く。

「誰じゃ全くこんな朝早くに」

 早朝から来る客人か……

 余り良い予感がしなかった。

 

「サリエル様大変です!」

 暫くするとチルダが大慌てで食堂に戻ってくる。

「どうしたのじゃ一体」

「国王様からお呼び出しが……!」

「なんじゃと?!」

「お前何かやらかしたのか?」

 ん、待てよ心当たりがあるような……

「コジロウ様あなたもです」

「え、俺も?!」

 悪い予感は的中したようだった。

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