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最後の砦

白髪の女との決着は一瞬であった。

銃を降ろした彼女が見せた隙に的確な一撃を入れる、それでお終いであった。

気絶した彼女を背負い、太郎はとりあえず帰路に着いた。漬物石に聞きたいことは山ほどあった。

「何人の願いを聞いた?」

それは約9ヶ月ともに過ごした存在にかける言葉ではない。半分脅迫のような問いであった。

「まあまあそう怒らないで、正式に私たちからこのことを伝えるのは今日に設定されていたんだから」

「誰に設定されていたんだ?」

「私がこの地球で生まれたと思うかい?つまりそういうことだよ」

ほとんど表情というものがない太郎も、この時ばかりは苦い顔をしていた。

漬物石がまた語り始めた。

「話を戻そう。私が願いを聞いた人数、人数と言っていいかはわからないが、全部で12人。2032年の各月に1人ずつ聞き入れたんだ」

「つまり私は」

「言わなくてもわかるよ。つまりお前さんは4番目だ。あらためてよろしくね、Fourth」

Fourthと呼ばれたことに太郎は腹が立った。囚人や被験体として見られているような気がしてならなかったのだ。

「願いを聞いたのはなぜなんだ」

「それはあとで教えるよ」

漬物石の答えは気にしていなかった。なんとなく見当がついていたからだ。劣等種に力を与えた結果がどうなるのか、それが知りたいだけなんだろう。

気を取り直して太郎は漬物石から聞きだせることを聞いておこうと思った。それを感じたのか、漬物石は自分の方から説明を始めようとした。

漬物石はいつにもなく、太郎からわざわざ分離して姿を見せた。

その内容は今年で20歳を迎える太郎にとって壮大すぎるものであった。


「あらためまして、私の名前はケトス。この地球にやってきたことに、実は理由なんてないんだ。ただ純粋に願いを叶えてあげたかった、ただそれだけのことなんだよ。でもさ、ただ願いを聞いてあげるのもつまらないと思って、お前さんたちが遠慮しないように、お前さんたちの心を読んで本当の願いを上から三つ叶えてあげることにしたんだ。Fourthも不思議だっただろう。会った瞬間に自分の願いがぺらぺらと言語化されるなんてね。それでここからが注意点。この力は願った人が死んだとしても消えません。間違ってほしくはないんだけど、この力はお前さんだけに与えたわけじゃない。お前さんたち人類に与えた力なんだ。ただし、願いで得た力のオンオフは力の所有者にそれぞれ任せます。力を管理する人間は必要だからね。では、人類の繁栄を願って!Good luck!」

テレビのアナウンサーのように役割を果たしたと言わんばかりのケトスは、去り際のセリフを言い終えるなり顔が曇った。彼の体は半透明になっていた。

「メインバッテリーが0%になりました。予備電力に移行します」

無機質なアナウンスが流れ、ケトスは太郎の目を真剣に見つめた。

「ここからはお前さんだけに教えるおまけ情報だ。よく聞いてくれ。私は地球に思い入れなんか何もないし、正直どうでもいいと思ってた。でもな、お前の心を覗かせてもらったら情が生まれてしまってな。ああっもう時間がない。手短に行くぞ。お前さん以外の11人、これは私が考えた純粋さの基準を元に選んだんだが、これが大失敗だ。お前さんの最後の願い、それが最後の砦となって辛うじて他の11人の願いの暴走を食い止めているんだ。もう一回言い直すと、お前さんの願いが消えてしまえば人類はあっという間に滅びる。これを教えたからどうしてほしいってわけでもない。私はただこの星の周辺で力をばら撒いて自害しようとしただけだからな。でもこれは本当だ。最後にお前に出会えてよかったよ」

太郎は何も言わなかった。別れが悲しいわけではない。むしろ太郎にとってはここからが始まりなのだから。

「それじゃあ、神の幸運でまた会おう!」

そう言ってケトスは消えた。聞き入っていた太郎の足は途中で止まってしまっていた。背中の女の重みだけが、太郎と現実を繋ぐ命綱だった。

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