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1話 ありえない奴と会話してんじゃね?俺。

 5月26日。外はこの季節に似合わない濃霧だ。

 俺は部屋を出て、いつも通り誰もいないリビングに行き、いつも通り朝飯を作り、いつも通り一人で食べる。

 いつも通りポストを見に行くと封筒が届いている。中身はどうせいつも通り、十万円。

 ――そう、いつも通り。

 俺の親は女の子が欲しかったらしく、生まれてから可愛がりもせず俺が中学二年くらいの時に夫婦で海外に引っ越して行った。

 それから四年間、こうして一ヶ月に一度、十万円を家に送ってくるのだ。高校の保護者説明会にも来なかったし、入学式にも来なかった。どうやら自分等のせいで俺が死ぬのは面倒だと思っているからお金だけ送っているらしい。都合の良い奴等だ。

「さて、今日は何すっかな……」

 誰に届くはずもない独り言が部屋に木霊する。

 俺は高校生だが学校に行っていない、いわゆる不登校。しかも引きこもり。

 ……とは言っても俺の場合は事情があるわけではなく、外に出る必要性を感じないから家にいるだけだ。世の中大抵の物ならネットショッピングで手に入るし散歩なんてしている暇があったらネトゲをやっていた方がよっぽど時間を有効活用していると思う――のだが。

「……なんだこれ。」

 俺の手にあるのは町内会からの手紙。

 それによるとこの地区の住人は五年に一度、住人登録の更新をしなくてはならないらしい。

「めんどくせぇな……」

 まぁ、行くしかないか。





 とりあえず着替えなどを済ませて、出かける準備は整った。

「んじゃ、行ってくるぜマイハニー」

 ……と、今日も可愛く俺のパソコンのデスクトップを演じてくれている現在俺の中で一番可愛いと思う二次元キャラ『佐々木マドカ』に(パソコンの画面に)キスをして、玄関に向かい家を――

「……気持ち悪っ」

 出ようとしたらあらぬ方向から声がとんでくる。

 慌ててその方向を見ると、黒いワンピースに身を包んだ変わった髪……薄紫色のロングヘアーの少女が キッチンに腰掛けて足をぶらぶらさせながら若干引き気味の目でこちらを見ている。

「今どきの男子って画面にキスする趣味あんの?うっわー、引くわぁ……」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!ち、違うから!!そんな趣味じゃないから!!」

 少女の言葉に慌てて否定するも時すでに遅し。完全に軽蔑の目で見られてしまっている。

 ……ここまで来てやっと俺の頭は活動を再開し、とある事実に気づく。

「つーかお前の方こそ勝手に人の家入りやがって!!不法侵入で警察呼ぶぞ!!」

「ふぇ?……あぁ、ここ君の家なんだ。良いところだね」

 俺の訴えに全くペースを崩さずに応える少女。

「つーか誰だお前」

「ん?あー……僕?僕は……まぁ、『死神』とでも名乗っておこうか?」

「……不法侵入した上に厨二病かよ」

 女の子なのに一人称が『僕』なのはまだ良いとしてネットのユーザーネームとかではなくこういう場で『死神』と名乗るということは、かなり重度の厨二病なのか……?

「いやそうじゃなくて、本当にそういう……まぁいいや。君に伝える事があってね」

 すると『死神』はキッチンから飛び降り、俺にぐいっと顔を近づけこう言った。

「――君、今日凶運だね」

「……は?」

 突然の言葉に俺は思考が停止した。

 そして気づく。

「……ダジャレ?」

「さあ、どうだろうね?それじゃ、ばいばーい!!」

 俺が瞬きした瞬間に『死神』は消えていた。

「まぁ、いっか」

 あまりにも現実離れした出来事だったし、俺はもしかしたら一瞬夢でも見ていたのかもしれない。

 とりあえず考えてもわからないんだから行くか。





 歩き始めて10分。あと少しで町内会の本部?に到着する……あれ?

 パトカーのサイレンの音がする。どっかで事故でもあったのだろうか。

「は……?」

 目の前にあるのは俺に向かってくる白い車。運転手の暴力団っぽい男が目を見開いて何かを叫んでいる。その直後。

 視界が宙を舞い、とてつもない衝撃が俺の体を襲った。つまり俺、湊水(そうすい) ナツキは――



 ――死んだのだ。






 目が覚めると俺はどこまでも続く闇の中にいた。

 真っ暗だから『目が覚めた』という表現も間違ってるかもしれないが。

「何だここ……地獄か?想像していたのと大分ちがうが……」

 あ、声は出るのか。というか俺が想像していた地獄はもっと重い雰囲気で……

「地獄じゃないよ」

 どこからか声が聞こえた。

 驚いた俺が周りを見回すと――

「死神!?」

「やぁーっとお目覚めだね?」

 にやにやと笑いながら死神は告げる。

 ただし、以前会った時とは明らかに違うモノがあった。

 ――鎌だ。黒と白と赤で模様や装飾がされてある大鎌。

「お前の厨二病もついに末期か……」

「いや、本物だよ?試しに……」

 俺の言葉にそう応えると少女は俺の首に鎌の刃を回し、あくまでも楽しそうにこう言った。

「――切ってみる?」

 その一言に首筋を汗がつたう。返事をしたいが体が動かない。どうする、どうする、ドウスル!?

 ……しばらくの沈黙。それを破ったのは死神の方だった。

「なーんてね!!冗談だよ。君は僕のお気に入りだし、既に死んでるし」

 鎌から解放され、全身の力が抜ける。

 一見するとただのかわいい少女だが、あの時の威圧感というか圧力は半端ではなかった。つーか死にそうだった。

 ――まぁ、もう死んでるのか。

 ん?そうするといくつか疑問が浮かんでくる。

「い、いくつか質問したいんけどいいか?」

「うん、かまわないよ」

 未だに地面に手をついてぜぇぜぇと息をしている俺を不思議そうに見つめる死神。

「まず、俺は死んだんだよな?」

「それは間違いない事実。警察に追われていた車にはね飛ばされて電柱に頭を強打した事によるショック死だよ」

 そんな死因だったのかよ。どうせ死ぬならもう少しかっこいい死に方がよかったな……

「じゃあ、ここはどこだ?」

「んー……っとねぇ、僕の仕事場って言えばいいかな?」

「仕事場?」

 こんな所で仕事するのか……

「死んだ人の魂ってのはここを必ず通るようになってるんだ。ねぇ、今日一日で何人の人が死んだか……わかる?」

「は?……えと、1000人くらい……か?」

 そんな縁起でもない事調べたことがないから、あてずっぽうで答えてみる。

「ぶっぶー!!不正解!!正解は――」

 すると死神は薄く笑みを浮かべて

「百万人、でしたぁ!!」

「ひ、百万人!?」

 一日そんなに死んでいたら人口減ってくだけなんじゃないか……?

「とは言ってもね、君のいた『通常世界』以外の世界も入れた死亡者数だから、わからないのも無理ないかな」

「はぁ?」

 通常世界やら何やらと意味のわからない単語に首をかしげる。

「君が元いた世界が『通常世界』んで、ここが『死境の狭間』だよ。色々な世界で死んだ人がここを通って成仏するんだけど、僕が生きてた時のことを見て気に入った人だけ呼び止めてるんだ」

「よくわからんが、つまり……俺がお前に気に入られてるってこと?」

「うん、今日は二人。君とあともう一人」

 だめだ……話が全然わからん。

「んで?俺はこれからどうなるんだ?」

「霊界で、旅をしてもらう」

「はぁ?」

 死神の急な話にすっとんきょうな声をあげる。

「だからね、成仏しないで霊界で幽霊として旅をしてもらうんだよ」

 いやいやいや、なんでだよ

「君は僕の命令には逆らえないんだよ?」

「いやいやいや、それもなんでだよ」

「もし、僕の命令を断ったらその時は君を成仏させて話はおしまい」

 っ……無理ゲーだ。断ったら人生グッバイとか、どうしろっていうんだよ。

「さぁ、生きか死か。君はどっち?」

 にやりと笑みを浮かべながら俺の顔を覗きこんでくる死神。

「そんなの決まってんだろ」

 終わるか旅をするかって言ったら――


「――面白そうな方をとるだろ」


 正直、旅をすることが楽しいかなんてわからない。それでもここで人生終わるよりずっとマシだと思う。

「君がその選択をしてくれてよかったよ。それで、旅の目的だけど霊界で幽霊として旅しろって言ったけど、霊界には下から幽霊、精霊、妖精の順番でまぁ格差はないけど階級っぽいのがあるんだよ。それで、幽霊がなんか色々して精霊達に認められたり僕が大丈夫だと判断したら精霊になれるんだよ。精霊はよほど良い功績を残さないと妖精にはなれない」

「それじゃあ、俺は精霊になれば良いのか?」

 精霊ってもっとかわいい女の子とかのイメージあったんだけど、俺が精霊になるって……考えるほど気持ち悪い。

「まぁ、一応そうしておくけど自由に気楽に旅してよ」

 気楽って……まぁいっか。

「じゃあ、時間だ。二度目の人生楽しんできなよ!!」

「えっ、ちょ……!!」

 急な展開についていけない俺。

 その直後、急激に意識が遠退いてゆく。

「あ、そうそう。幽霊の状態で死ぬと成仏しちゃうから、気をつけてね〜」

その言葉を最後に、俺の意識は――


――消えた。





--to be continued--


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