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事件報告書File.03「死体意気」-1/2

   事件報告書File.03「死体意気」



 一日目。

 ――午後六時四十二分。


「ま、待ってくれ真理亜」

 オレは前を走る彼女の名前を呼んでいた。呼び捨てにするのは始めてかな。でも、そんな余裕が無いのが本音だった。全力疾走! 死体のある自宅マンションから遁走するオレたち。渡辺昴と西原真理亜の二人の姿があった。

「早く! 昴!」

 マンション横の公園内を突っ切って行く。前を走る彼女に必死に付いていった。綺麗なフォームなので、走り慣れた印象だった。帰宅部のオレとは体の鍛え方が違うのか?

 緩やかな坂道を登り切ると、大通りに突き当たる。交通量の多い道路だった。ここでやっと真理亜の足が緩くなる。

「ハァハァ……」

 オレは肩で息をする。平然としている彼女の顔を見上げていた。喉の渇きを覚えて、リュックの横にぶら下げていたペットボトルのお茶を口に含む。ここで、自分がサンダル履きであるのに、今更のように気が付く。どおりで走りにくいワケだ。

「私にも頂戴……」

 真理亜はお茶を奪い取って美味そうに飲み干してしまった。すっかり暑くなってきた五月も上旬。汗も掻いて、喉も渇くらしい。

「オレのお茶……」

 恨めしそうに彼女を見る。

「行きましょ……普通にしてるのよ」

 右隣に並んだ真理亜は、オレの右手を握ってきた。ゆっくりと歩いて行く。

「え?」

 女の子と手を繋いで歩くのは始めてかも知れない。こんな状況でなければだ。隣の真理亜の顔をマジマジと見る。他人から見れば、ありふれた高校生のカップルなのだろう。制服姿の男女が並んでいる。男の方はサンダル履きだが……。

 夢叶わなかった生徒会長西原麻由美とのデート。知らない人間には、彼女本人にしか見えないと思うよ。

 で、向かった先は駅だった。


 ――午後六時五十分。


 神奈川県内の私鉄駅。高架上のホームへと向かう。オレは携帯電話を自動改札の読み取り部分にタッチする。鉄道会社系のICカードが内蔵されているタイプだ。

 真理亜は生徒手帳をタッチする。こちらはICカード型の定期が挟まれているのだった。

「昴!」

 改札を入って直ぐの場所の自販機で、ミネラルウォーターを買っていた。「ピッ」と、電子音がする。こちらでも定期券をタッチしていた。

「ハイッ!」

 水のペットボトルを手渡して来た。オレは空っぽのお茶のボトルを自販機横のゴミ箱に捨てる。


「追っ手は、来てないようね」

 ホームに立つ真理亜は、周囲への目配せを怠らない。各駅停車の電車が来た。大勢が降りていったので、二人仲良く席に座る。ロングシートの中央部分だ。

「どこに行くの?」

 学校へと向かう方向とは逆だった。慣れない感じで落ち着かない。

「私の自宅。それより、お話をしましょう」

 ゆっくりとオレの右肩にもたれかかってきた。乗客の誰も、二人のことは気に留めていない様子だ。

「話……?」

「世間話、他愛の無い会話」

 そう言って、当の本人が黙り込む。彼女にはその手の話は苦手なのだろうか。異常な状況で饒舌に語っていた真理亜の姿は影を潜める。

「そうだ、自宅に向かうって大丈夫なの?」

 彼女の言葉の、肝心な点を聞き逃していた。

「今の時間は、仕事で両親は居ないわ。しばらくは私の部屋に隠れていて」

「うん。わかった」

 何も知らない一般人には、仲の良いカップルの会話に思えるだろう。それも思い切り親密な関係性の……。警察に追われて逃げている二人には見えないだろうな。

 そうだ、その警察だ。刑事は西原麻由美を追っていた。何故だ?

 込み入った話は電車内では出来ない。二人して会話もなく、真っ直ぐに暗い車窓を見つめていた。

「着いたわ……」

 電車は駅のホームに侵入する。立ち上がった真理亜が言った。高級住宅地で有名な駅だ。俺の手を取って仲良く電車から降りる。



 ――午後七時二十九分


「へー」

 オレは圧倒されていた。駅から歩いて十五分の閑静な高級住宅地。その中でも一際豪勢な邸宅だった。立派な門から見える敷地も広大だ。

「入って」

 大仰な鉄門の横、小さなアルミ製の銀色の扉。カードキーを差し込んで開く。

 扉の向こうには異世界が拡がっていた。緩やかな傾斜地一面に、芝生が敷き詰められている。それらを太陽電池で充電された青白い照明群が照らしていた。まるで、テレビで見たハリウッド俳優の豪邸に見える。

 表情を変えない真理亜の顔を見る。彼女は相当なお嬢様なのだな。

「ここよ」

 大きくて豪華な木製の玄関の前を素通りして、隅にある小さな引き戸を開いた。鍵も掛かっていない。勝手口なのだろうか? 

 彼女は明かりのスイッチを押す。細長い廊下があった。内部は質素でコンクリートの打ちっ放しの壁だった。

「この場所はなんなの?」

 率直な疑問を口にする。

「隣の玄関なんて、使うのは年に何回もないわ。広すぎて不便だもの」

 突き当たった。普通のドアだった。真理亜は鍵を差し込む。

「あれ?」

 そう言った彼女は固まる。

「昴、用心して。誰かが居るかも」

「え? どういうこと?」

「鍵が開いてる。でも、明かりが付いてない。両親のどちらかが帰っていれば部屋の明かりが付いてるもの……車も停まっていないし」

 慎重に踏み込む真理亜だった。室内を隅々まで見渡す。入った先は小さな部屋だった。

「この場所は?」

 さっきから質問ばかりだった。

 壁はコンクリート打ちっ放しの六畳程度の部屋。床には灰色のカーペットが敷かれて、ソファーセットが置かれている。窓も無い部屋。左隣にドアがある。

「来客用の控え室」

 そう言って真理亜は、隣のドアを開ける。寒々とした広い空間が拡がる。広大な玄関内部だった。大理石の玄関床には、イタリア製の赤いスポーツカーが停まっていた。完全に調度品扱いだ。間接照明で輝いている。人が踏み入ったら自動的に灯りが点いたのだ。これは警備上も有効な手段だと思う。

 吹き抜けには螺旋階段があった。正直、感嘆する。金持ちの象徴だと感じていた。

「こっち」

 真理亜がゆっくりと階段を登ると、足元にオレンジ色の柔らかい照明が点った。立派すぎる玄関を眺めていたオレは、慌てて追いかける。

「オレの家の総床面積より広い玄関だ」

「そう……」

 庶民の暮らしぶりには関心のない、そんな真理亜お嬢様だった。


 二階に出ると、フロアの中央を真っ直ぐに廊下が走っていた。高級ホテルを思わせる落ち着いた床だった。両側にそれぞれ部屋が並ぶ。六室の一番奥の左側の部屋。カードキーを差し込むと、赤いLEDが緑に変わる。「カチャリ」とロックの解除される音が聞こえた。ホテルそのものだな。

 彼女の部屋なのだろうか?

「入って」

 感情無く真理亜が言った。あまり自慢したくないと云う印象だった。

「えっと……」

 当惑する。目に付いたのは壁に貼られたポスターだった。それも、アニメの絵柄の……ピンク色の髪の毛の女の子。バランスの悪い印象だった。

 落ち着いた色の家具が並ぶ中、原色を多用したポップな絵柄だった。シックな色柄のベッドにも、可愛らしいカラフルな縫いぐるみが並んでいる。掛け布団も可愛らしい模様の柄だった。

「座って……」

 彼女は机から椅子を引き、俺に勧めてきた。スタイリッシュなデザインの椅子だったが、ファンシーなピンクのクッションが乗っている。机の方も、大型のパソコン用ディスプレイが置いてあるが、周囲にはシールが貼られていて可愛らしく装飾されている。

 真理亜の部屋は、主人と同じくバランスを酷く欠いた印象を受けた。

 真理亜はベッドに腰掛けていた。長い髪の毛を手にとって煩わそうに眺める。本当はまとめてしまいたいのだろう。

「こんなに広い家なのに、家政婦さんとかは居ないの?」

 広々とした住居の中に人の気配を感じないのだ。生活感は真理亜の部屋の中にどうにかある。

「そんなの居ないわ……。アノ人達は基本、ケチだもの――」

 アノ人達と言って横を向いた。両親と姉の事だろう。彼女の家族関係には複雑な事情がありそうだ。

「――それよりも、今後の作戦を練りましょう」

 立ち上がった彼女は、出口へと向かってから振り返った。

「作戦?」

 オレが尋ねると大きく頷いた。

「お茶でも用意するわ。昴は、この部屋から出ないでね。でも、部屋の中なら漁ってもいいわよ……私の下着でハァハァするのを許可します」

「するかよ!」

 オレの言葉を聞かずに、部屋を出て行った。横顔は笑っていた。


 一人残されたオレは、大事に胸に抱えていたリュックサックを膝の上で開く。お茶とか言ってたな、一緒に彼女がコンビニで買ってきたパンやお菓子を食べよう。白い袋を取り出し、リュックを床に置く。

「グゥ……」

 腹の虫が主張する。そういえば、夕食はまだだった。真理亜が戻って来るまで待ちきれない。

 袋の中身を机の上に出す。あんパンとカレーパン、動物を模したチョコ菓子にポテトチップ。カッププリンが二つあるが一つはオレが落としてしまったので、カラメルソースがぐちゃぐちゃに混ざってしまっていた。まずは、こちらから片づけよう。

「スプーン……」

 袋の中を漁る。見当たらない、オレの自宅で見たときには有ったのに……。

「リュックの中か?」

 床に置いたリュックを取り上げて、内容物を確認する。よく考えずに放り込んだのが良くなかった。意外な物が、たくさん出てきた。

 通帳と印鑑が入った透明のポーチ。権利書の入った茶封筒。家族三人で写った写真立て。テレビのリモコンまであった……アホすぎるオレ。

 下着の替えもあった。Tシャツ二枚とボクサータイプのパンツが二つ……そして最後に、自己啓発本。表紙をマジマジと眺める。

 『人生に必要なのは問題解決能力と営業力!』

 この本を読んで以来、問題は山積しっぱなしだ。自分ではもう解決出来ない……高校生の手には余ってしまった。無造作に机の上に放る。

「カチャリ」

 部屋のドアがゆっくりと開いた。真理亜が帰って来た。しかし、手ぶらだった。

「ねぇ……昴、来て」

 小声で彼女が呼んだ。しかし、顔が笑っていた。何だ? 何なんだ?

「どうしたの?」

「キッチンに、来て……」

 そう言った彼女は、顔が赤らんでいる。熱があるように見えた。否、興奮してるのだ。深く静かに興奮をしている。鼻の息が荒い。

 真理亜に手を取られて部屋を出た。歩く度に、廊下の足元照明が点灯する。何者かに追い立てられている印象だ。

 廊下を真っ直ぐ歩くと、再び吹き抜けの場所に出る。下は中庭になっていた。二階の渡り廊下を突っ切ると階段が見えた。真理亜に連れられて一階に降りていく。途中に踊り場まである大きな階段だ。高そうな絨毯が敷き詰めてある。

「こっちよ」

 中庭の先、木製の大きな扉の前に立つと、自動で開いた。簡単な宴会を開催できるほどの広さがあった。立派なテーブルと椅子が並ぶ、豪華なダイニングルームだ。

 その奧に灯りの点いたままの部屋がある。ここがキッチンなのだろう。

「待って」

 彼女の指示通り立ち止まる。

「見て」

 中に入れられた。そこには――

「き、君のご両親?」

「うん」

 調理器具が並ぶ棚の間の床に、二人の男女が倒れていた。部屋の中央に頭を向けて、仰向けの状態だった。女の子から両親を紹介された中でも、最悪の部類だろう。

 驚きは少なかった。これも慣れなのだろうか? 異常な状況に麻痺してしまっている。

 細長く、奥行きのある部屋だった。食事会の宴の時は、大勢のシェフが腕を奮うのだろう。


「死んでる……」

 オレはそう言って、一歩踏み込む。父親と思しき男性の胸には包丁が付き立っていた。隣の女性は、腹部を滅多刺しだ。母親なのだろう――姉妹によく似た美人だった。死に顔でも判る。血が床にまで流れ出していた。固まってはいないようだ。

「お湯を沸かすケトルを取りに来たの……」

 真理亜は手を後ろで組んで、恥ずかしそうに言った。はにかんでいる。何故だ?

「君が殺したの?」

 今度は、オレが尋ねる番だ。

「どうして、そう思うの?」

 彼女は、反対に質問してきた。意外な問いだ――という表情だった。

「どうしてって……君にしか出来ない犯行だ。この家は警備が厳重だし、不審者が侵入する余地は無いだろ」

 床の二つの死体を見つめる。殺されて間もない印象だ。触るまでは出来ないが、まだ暖かいのだろう。

「アノ女のカバンには、この家の鍵とセキュリティーカードが入っていた。それを奪った人間なら可能だわ」

「じゃあ、まだ犯人がこの家に潜んでいるかも知れないのか?」

 オレは思った事を口にする。この家の全容は把握していないが、隠れる場所は多々あると思われる。

「そうね、そうね……居るかも知れない!」

 オレの言葉を聞いて頻りに頷いていた。まるで、会いたくてしょうがない命の恩人にでも出会うかのように……。

「それよりも、どうするんだ? 警察に連絡するのか?」

 オレは自分の携帯電話を取り出した。

「待って、ヤッパリこの状況は私たちに不利よね。刑事から逃げ出したばっかりだもの」

 ニヤリと笑って、調理器具の並ぶ棚から湯沸かし用のケトルを取り出し、流しの水道から水を入れる。

「これ」

 ケトルと一緒に、電源コードを手渡して来た。彼女の方は、お盆を用意して食器棚のコーヒーカップを二つ載せた。

「部屋に戻りましょ……」

 肝が据わっている真理亜だった。



「インスタントしか無いの……」

 真理亜の部屋の中央。低いテーブルの上で、電気ケトルのお湯が沸き立っている。

 彼女が机の引き出しから取り出したのは、有名メーカーのインスタントのコーヒースティックだった。ミルクと砂糖もある。二つのカップに入れる。

「カチッ」

 沸騰し、スイッチが切れる音がした。お湯をカップに注ぐ。コーヒーの良い香りがする。

「食べましょう。昴はどっちにする?」

 彼女はあんパンを取ってから、そう言った。残されているのはカレーパンしかない。

 そしてポテトチップの袋を大きく開いて、二人して食べられる様にする。

「ああ……」

 オレは、カレーパンを袋から取り出す。

「どうせだから、半分ずつにしましょう」

 ちぎったあんパンを差し出して来た。そして、オレのカレーパンにかぶりつく。可愛い仕草だと思った。小さな歯形の跡が残る。

「うふふ」

 楽しそうな真理亜だった。

「こんな風に、男の人を招待したのは始めてなの……」

 恥ずかしげに顔を下に向けた。

「招待と言われても……」

 確かに、女性の部屋に入ったのは始めてだったが、こんな状況では……。

 しかし、関係のないご様子で彼女の食欲の方は旺盛だった。半分のあんパンを平らげて、お菓子を美味しそうに食べ続けている。

「昴は、食べないの?」

 言われたオレは、手に持ったカレーパンにかぶりつく。

「間接キスだね。えへへ」

 彼女の歯形の上から噛みついていた。もういいや。一気に食べ尽くす。少し胸焼けがした。ゲップが出そうになる。カップのコーヒーを二口続けて口に含んでいた。

「熱っ……」

 口の中を少しやけどする。

「大丈夫?」

 そう言った真理亜の顔が近づいて来た。

「口の中を舐めてあげようか」

 舌なめずりしている。これじゃ食べられてしまう! そんな恐怖心だった。そういえば彼女とキスした事実を思い出す。ドサクサまぎれだったから、感慨も感激も無かった。

 真理亜の艶やかに輝く唇に、目が釘付けになっていた。これはポテチの油だな。

「そうだ! 刑事だ!」

 オレは疑問点を思い出し、椅子から立ち上がる。

「なに?」

 苛立ちげな彼女だった。

「神奈川県警の刑事が君の姉さんを追っていた。それって、言ってた事と関係あるの?」

 言葉尻を濁す。

「援助交際の事?」

 そうだ。女性の前では、中々口には出しにくい。

「そもそもお姉さん――麻由美さんが――‘ソレ’を行っていたという証拠でもあるの?」

「言ったでしょ、ウチの親はケチだって。月々のお小遣いなんてくれないのよ。欲しい物があったら、書類で申請して許可を得てから始めてお金が貰えるの。多くは、お金じゃなくて現物支給ね。ブランド物の財布なんて記入したら即時に却下されるわ! でも、見栄っ張り……着もしない高い服がいっぱい並んでるわ」

 目を大きく見開いて言った。ベッドの隣のクローゼットを見つめている。色々と苦労してるんだな。

「多分、最初は出来心だったと思うの……。自由に出来るお金が欲しくて、入り込んでから深みにはまった。あのマンションの一室で客を獲っていたみたい。昴の家の真上の階……アノ女はベランダ越しに逃げ込んで殺された。その売春組織を追っていたのが、あの刑事かもね」

 ヤケに詳しいな。

「君も、お姉さんのことを調べていたんだね。違法行為を辞めさせる為に、ウチのマンションに忍び込んだ」

 真理亜は首を捻る。

「そんな仲じゃないわ。そんな義理もない」

 冷淡に言い放っていた。

「じゃあ、何でマンションに入り込んだんだ?」

「あの女に呼び出されたの、本当に勝手な女でしょ。一階エントランスで、訪問した部屋番号を呼び出したのに、反応が無かった。その時に、昴がマンションに入って来るのを目撃したの。私は、慌てて隠れたわ――」

 訥々(とつとつ)と、あの時の事情を語り出した。そうだったのか。

「――で、他の住人が入る時に一緒に紛れ込んだの。最初は不審な顔してたけど、私がニッコリ微笑みかけると、自動ドアを開けて待っていてくれたわ。親切な住人ばかりね」

 皮肉たっぷりに言った。セキュリティはグダグダだ。

「でも、管理人が居るだろ。止められるはずだ」

「お爺さんは、テレビの時代劇の再放送に夢中になっていたわ」

 お喋りな爺さんの顔を思い出す。ゴミの出し方を含めて、オレには色々と口うるさい人なのだが……。勿論、基本はイイ人なんだ。

「じゃあ君は、何でオレの家を訪ねて来たの?」

「目的の部屋は反応無かったから、アノ女が昴君を利用したと考えたの」

 そうか、そうだったのか。てか、真理亜はオレの家の場所を知ってたんだな。

「姉妹して、オレの家の場所を把握していたのか。刑事もオレの家の名字を知っていたし、何者かに利用されているのか?」

 誰かが背後に隠れている。大きな絵図を描いていて、オレたちはその登場人物に過ぎないのだ。嵌められている。犯人役として、オレと真理亜が用意されていた。

 この状況から、どうにか抜け出さなければ……。

「昴の家の場所は知ってたわ……何となく――」

 彼女は言葉尻を濁し、横を向く。

「――ねぇ! 昴。この状況を打破したいと思わない? 私なら出来るわ。信じていて欲しいの」

 潤んだ目で見つめてきた。真っ直ぐにオレを見つめる姿は、生徒会長その人だった。

 頭がクラリとした。世界が揺れた。恐ろしい考えが浮かんでくる。死んだのは麻由美じゃなくて真理亜の方なのかも……。じゃあ、目の前に居る人物はいったい誰だ!

 麻由美が真理亜を殺す理由は……理由は……考えがまとまらない。

「昴! 昴!」

 彼女が、オレの両肩を掴んで揺すってきた。

「ま、真理亜……なのか? 君はいったい誰なんだ?」

 意識がブレて来る。疲れが一気に襲ってきた。

「昴……しっかりして。顔色が悪いわ」

 女の手が伸びてきた。オレが目撃した、青白い死に顔がダブって見える。相手の手を振り払おうと考えた。

 その時、オレの意識が遠のいていった。

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