表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界における10の規定事項  作者: まほろ
10の規定事項
4/20

4、ライバルはいずれ仲間に

「また、こんなものをつけて。引っ張られたいのだろう」


「痛っ……また来たんですか。ロードさんを呼びますよ!」


私の頭のリボンを引っ張って遊ぶアロン王子に、冷静に返す。過剰な反応は相手を喜ばせるだけだと知っている。


「せっかく撒いてきたのに、なぜロードを呼ぶ」


「なぜって、あなた様を連れ帰ってくれるからですよ」


リボンがなくなったせいで、バラバラにほどけてしまった髪を適当に流しながら私はため息をつく。伸ばし続けた髪は腰あたりまできていて、リボンがないと正直邪魔だ。


「僕は、マリアンヌが寂しがっていると思ってわざわざ構いに来てやっているのだぞ」


「そうですか、私は一向に寂しくないのでおかえり頂いて大丈夫ですよ」


冷めてしまった紅茶を一気に飲みほして、私は扉へと視線を移す。


「カミーユ、戻って早々悪いのだけど――」


「構いません」


十年以上傍にいれば、相手がいくら優秀な騎士でも気配は読めるものらしい。マリアンヌはカミーユが帰ってくればすぐに気が付くことができた。


「僕は構う。どうしてこいつと一緒に帰らなくてはいけない! 大体二十五にもなっていつまで見習いの世話をする家にいるつもりだ」


「騎士であると同時に、この家に雇われた護衛でもありますから」


カミーユは美少年から見事な美青年に成長した。そうそう、私も十五歳まで成長したことを言い忘れていた。

この十年、うっかり知りあってしまった王子は相変わらず子どもっぽくて私に突っかかってくるし、年をとっても美貌はそのままの両親は益々親ばかになるし、変態は多いしで色々大変だったが、カミーユが立派な騎士に成長したことだけはめでたいことだ。


「騎士だけで十分暮らしていけるだろう! さっさとこの家から出て行けばいいのに」


「出て行くのはアロン王子ですよ。それではごきげんよう」


私と王子の仁義なき戦いの内容は年を重ねるごとに変化していった。力で勝てていたのは最初の一~二年、それからはあっという間に背丈も抜かれ私に勝ち目はなくなった。

アロン王子は初めこそ、これまでの恨みとばかりに私を攻撃してきたが圧倒的に自分が有利だと理解するとすぐに飽きたらしく小さな嫌がらせをして口げんかをする日々に変わった。

か弱い乙女に攻撃するような非人道的な人間に成長しなかったのは幸いだが、ここまで付き纏われる関係になったのは私の本意ではない。王子と知り合いとかお決まりすぎて、そしてさらに厄介事がおまけでついてくるようなものだ。


「さぁ、行きましょうか」


「くそ~、覚えていろよ。マリアンヌ」


いくら成長したとはいえ、カミーユには敵わないアロン王子が部屋から去っていく。

こんな感じが、十五歳になった私の日常だ。



さて、十五歳にもなると色々と面倒なイベントが発生してくる。


「マリアンヌ、今度の夜会だが――」


「あら、次は私と一緒に公爵夫人のお茶会に行くのよ」


父と母が色んなところへ引っ張り出そうとするから、私は結構疲れている。まぁ、お呼ばれのたびに護衛として着いてくるカミーユの方が仕事もあって大変なんだろうけど。

彼を思いやって護衛を変えるという提案もしたのだけど、あっさりと断られた。勢いのある侯爵家との関わりと給金は失くしたくないものなのかな?

そういう大人の事情はあまり口を出さない方がいいだろう。カミーユみたいな美形に「へっへ、金が欲しいんですぜ」なんて言われたくないしね。だから、私は黙って彼を護衛として採用し続けている。



「公爵夫人との茶会か……そこには、マリアンヌと年近いお嬢さんがいたな」


「えぇ、マリアンヌにもそういう友達がいた方がいいでしょう?」


「……なら、今回は譲ろう」


「大好きよ、あなた」


娘の前でも仲が良いのはいいが、私の予定を勝手に決めるのは止めて欲しい。年近い女の子って親友になるか、虐められるかどちらかのパターンだと思うんだ。親友パターンならいいけど、世の中そう上手くはいかないことを私は知っている。


「あの~、私少し疲れが――」


「それは大変! 子どもは早く寝なくっちゃ。今から予防すれば、大丈夫。お茶会には間に合うわ」


なんだか、早く寝ろってところに比重が置かれているのは気のせい……ではない。はいはい、どうせ夫婦でイチャコラしたいんでしょう。


「おやすみなさい」


ここで私が口応えしてもいいことなんて一つもない。ものわかりがいい私はとぼとぼと部屋に戻る。こうなったら、意地でも親友ルートに突入してやる!


そこで、私は作戦を考えてみた。


「名付けて、仲良し☆親友大作戦!」


ネーミングセンスがないのは置いておいて、これはとても重要な作戦だ。なにしろ、今後の私の生活がかかっているのだから。


「ここはやっぱりプレゼント~」


私は手先が器用なのを生かして、自ら染めたハンカチに刺繍なんぞを施してみる。後は可愛い小物を渡した相手をいきなり嫌うような横暴な人物が相手ではないことを祈るばかりだ。


「ねぇ、カミーユは公爵令嬢を知っている?」


「そうですね、噂程度なら」


部屋に静かに控えているカミーユに私は尋ねてみる。


「それって、どんなの?」


「少々変わり者との噂もあるものの、大抵は美人だとかそういうくだらない噂ですよ」


男同士の情報交換は大切だと思うよ、それなのにカミーユはくだらないとか言っちゃって。さぞかし世の男は不愉快だろうなと思う。でも、それよりも気になることがある。


「美人なの!?」


「はぁ、あくまで噂ですが」


これは嫌な設定がきた。

親友と言えば儚いキャラ、敵と言えば美人キャラと私の頭の中ではイメージが出来上がっている。


「どうしよう……どうしよう。これも捨てられるかも」


「どうしたのですか? もしかして、マリアンヌ様より美しいかもと悩んでいらっしゃるのですか?」


私ってカミーユから見たら自意識過剰な女に映っているのだろうか?


「私より綺麗とかどうでもいいし。むしろたくさんいるでしょ。私は、公爵令嬢と仲良くなれるかを気にしているの」


「どうでもいい! ……まぁ、そうですね。そんな人いないでしょうし。仲良くはなれますよ、きっと。マリアンヌ様からプレゼントを貰えれば幸せになれますから」


カミーユはいつだったか私があげた、手作りのブローチを掲げて見せてくる。未だに正装時でも身につけているので、カミーユの美的センスは悪いのかもしれない。


「とにかく穏便に済ませるわ。女ほど怖いものもいないからね……」


私はハンカチの刺繍を丁寧に仕上げて、対面の日を待った。



そして、あっという間にお茶会当日。


「ようこそ、今日は楽しんで行ってちょうだい」


さすが由緒正しい公爵家、私の家も立派だけどそれよりもすごい。

広い庭には、白い石でできた優雅な噴水がありその周りを美しい花々が囲んでいる。沸き上がる水の横を通り過ぎ、薔薇のアーチをくぐった先には意匠を凝らした彫刻が美しいテーブルとイスが置かれ、お茶会の準備が整えられている。


「本日はお招きありがとうございます。娘もこんな素晴らしいお茶会に出席できて喜んでいますわ」


「そう言ってもらえると嬉しいわ。わたくしの娘も出席できれば良い話相手になったのですけど、急なお客さんに対応しているの。ごめんなさいね」


「いいえ……」


むしろ、会わなくていいならラッキーです。とは口が裂けても言えないのでしおらしくしている。カミーユがそんな私を見て首を傾げている。さすが十年も共にいたので、私が心から残念に思っていないことに感付いたようだ。


「仲良くなりたかったのでは?」そんな目で見つめてくるが、私は気が付かない振りをして無視を決め込む。


「でも、お客さんと言っても友人だしもしかしたらここに来るかもしれないわ。だって……ふふふっ」


公爵夫人はカミーユの方をちらりと見て笑う。

人妻キラーか……違うな、娘がカミーユのファンなのだろう。これで敵キャラの可能性が高くなった。でも、いざって時のカミーユという盾を手に入れたから即危険ってこともないか。

私はもしもの時を想定しつつ、お茶会をつつがなく過ごす。


「お母様! 侯爵家の令嬢が来ているって本当!」


「まぁ、行儀が悪いわよ。レイラ」


乱入者は金髪巻き毛のゴージャス美人、ついでも胸が大きい。走ってきたため整わない息で上下させている胸が羨ましいくらいある。


「マリアンヌってあなた?」


切れ長の目に見つめられて、私は警戒しながら頷く。


「ちょっと、一緒に来てくれないかしら?」


これはいわゆる呼び出しって言うやつ? 私はカミーユを差しだそうか本気で悩む。


「大丈夫です。守りますから」


カミーユが私を背中に隠す。一瞬公爵令嬢レイラの恐ろしく冷たい目線がぶつかってくる。カミーユ、守るとは逆効果よ!


「護衛も一緒で構いませんから。ねぇ、お母様いいでしょう? 若い者同士の方が楽しいわ」


「そうね、マリアンヌさんがよければ」


こう言われて断ることはできない。私はすたすたと先を歩くレイラの後ろを着いて歩くことになる。


「ここで。護衛の方はちょっと待っていてくれる?」


「それは――」


「大丈夫、何もできませんよ」


私は手を引っ張られて部屋に連れ込まれる。


バタン


扉を閉まる音とカミーユの心配そうな表情が同時に聞こえて見えた。


「あなたには悪いけど、少しだけ邪魔をしないでもらえる?」


「邪魔?」


私が一体人様の家でどんな邪魔をするのか、意味がわからない。


「……だって、あなた護衛の恋路の邪魔をしているのでしょう? 美少女意地悪キャラってよくあるパターンよね」


「えっ……今、なんて?」


とっても重要なことを私は今聞いてしまったかもしれない。


「あっ、なんでもないの。とにかく、護衛と私の友人の話が終わるまでここにいてくれればいいの」


「なんでもないわけない! 美少女意地悪キャラにパターンって……あなた、何者? カミーユと話したいならいくらでもどうぞ。私はあなたと話したい!」


私は思いっきり身を乗り出して問い詰める。


「どうでもいいって……あなた、護衛はいいの?」


「いいです、いいです。それよりも話を――」


「あ、あなたは誰ですか? 護衛の仕事がありますので……」


部屋の外ではカミーユの声の困った声が聞こえてくる。


「話って何を聞きたいの?」


「どうして私が美少女意地悪キャラだと思ったのですか? それは……私があなたを美人敵キャラと考えていたのと関係ありますか?」


直球勝負だったが、相手は息を飲んだ。これは、もしかしたらもしかするかもしれない。


「…………美人で敵、それってテンプレ」


「そう! でも私たちはそんなんじゃない!」


「わかるの? いらないフラグがぼこぼこ立って、妙に顔の整った奴ばかりが近寄ってくるの」


「わかります。私は平凡に慎ましく生きたいのに、いらない設定ばかりがくっついてくる」


私たちは手を握りあって、お互いの悩みを語り合った。


「ノー・モア・美形!」


部屋での声が重なったと同時に、廊下でカミーユの叫びが聞こえた気がした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ