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異世界における10の規定事項  作者: まほろ
規定事項の後の10のエンディング
19/20

⑨神エンドあるいはこれを人はバッドエンドと呼ぶ

悩み過ぎた私の頭はショートしてしまった。起き抜けすぐに、叫びだす。


「あっー! どうして私がこんな目に合わなくちゃいけないのよ。私もレイラも被害者よ」


誰が悪い? そんなの、わかりきっている。私は勢いのままに部屋を飛び出した。


「わっ、マリアンヌ様? どこへ?」


お世話してくれていた侍女が、走り去ろうとする私に慌てて声をかけてくる。


「……どこへ?」


頭に血が昇っていた私は、冷静になって動きを止める。


「神って、どこにいるの? 王宮の部屋に泊まっているわけないし」


文句を言いたくても、相手がどこにいるかわからない。

私は拍子抜けして、肩を落とす。


「マリアンヌ、呼んだかい?」


声がしたと思い、すぐに顔を上げればそこは天界らしき場所だった。


「呼ばれたようだから、招待した」


目の間には私の出生から関わるすべての元凶である神がいる。


「この、覗き魔!」


私の朝の行動を見張っていたのかと、冷たい視線を投げつける。


「覗いていたわけではなく、神はなんでもわかっているんだが」


「なんでもなんて、余計たちが悪いわ! 本当にありえない、最悪」


私は感情のままに神を罵る。だが、神はそれを落ち着いて受け取っている。


「じゃあ、どうすればいい? 望み通り話を収める算段はつけてやっただろう」


「あんなの、私に決めさせるとかいいながら結局何かは選ばなきゃいけないじゃない! 根本的な解決になってないのよ。最初から全部、正しなさいよ」


趣味なだけで、こんな思いをさせられるなんて迷惑だ。


「もう、してしまったことは直せない」


「何、開き直っているのよ」


私は許せないと神を睨みつける。


「事実なだけだ。どうしようもない」


きっぱりと言い切る神だが、私はこれからのために一つ約束させることを思いつく。


「どうしようもなくはないわ。もう、これ以上被害者を増やさないで!」


「えっー、人の趣味を取り上げるのか?」


こっちがどれだけ迷惑を被っているのかわかった上で、趣味とか言っていると思うと腹立たしさを超えて殺意が生まれる。


「わかったわ! 私が、今神という存在を滅ぼしてあげる。そうすれば、万事解決よ」


私は手を握りしめて拳をつくる。


「そんなこと、できるわけない」


「わからないわ、みんなで力を合わせれば――」


「無理、無理」


神は笑いながら私の前で、手を振った。すると、地上では大きな風が巻き起こる。ちょうど争いを繰り広げていた、多くの兵が簡単に吹き飛んだ。


「じゃあ、どうすれって言うのよ……私たちは振り回されながら生きなきゃいけないの?」


悔しくて、私はボロボロと涙を零す。


「振り回しているわけではない。ただ、神とていつでも神らしく振る舞えない。神とは暇で、孤独だからな」


「だからって、異世界から巻き込むなんてひどい。私たちは、真剣悩んだのに」


「……もう、異世界から魂を連れてきて欲しくないか?」


「当たり前じゃない」


私は、何を今更と眉を寄せる。


「なら、マリアンヌがずっとそばにいてくれればいい」


「はっ?」


考え付きもしなかった返しに私は大きく目を見開く。


「異世界の魂を見て楽しむのは寂しいからだ。だが、マリアンヌがいれば寂しくない。だから、魂はいらない。こんなに神と話ができる娘は他にいない。よしっ、決まりだ!」


「ちょっと、意味わかんないし」


私が慌てても、神の中ではもう決定らしい。


「マリアンヌ、国に戻っても大変なことばかりだ。ごらん、二国は争いを起こすつもりだ」


神が指差すと、私にも地上の様子がよくわかる。

ドラゴンを息子にけしかけたと怒る我が国の王、隣国の方もおかしなものを侵入させて内から侵略しようとしているのではと、疑心暗鬼。

両親とレイラの実家である公爵家は敵陣の真っ只中でまずい立場に立たされている。


「完全に私のせい……」


「マリアンヌが来てくれるなら、これをすべて収めてやってもいい」


「脅し?」


「まさか、あくまで希望だ。でも、神に祈るのにみんな手ぶらではこないぞ」


神も無償ではない。言い分としてはわかるが、納得はできない。でも、それ以上に私のせいで大きな戦が起きそうなことが怖かった。


「どうせ異世界に生まれたのよ。これ以上、どこへ行っても大丈夫。みんなを助けて!」


私は覚悟を決めて神に願う。


「わかった。それでは、後から迎えに行く。心配しなくても、すべては上手くいくぞ」


私は僅かに地上へ戻る時間が与えられた。

降り立った地上では、不穏な空気が漂っていた。




私と両親、それにカミーユにアロン王子。そしてレイラたち公爵家の人たちは、すぐに国へ帰還することになった。ただ、戻ってもどういう扱いを受けるかはわからない。

吟遊詩人も、僻地に住む両親が心配と旅立った。

ゼラフィー王は重臣に逆らえずあたふたと戦を進めることになっている。


「神じゃなくて、ドラゴンや悪魔に頼った方がよかったのかしら」


「何、ファンタジーなこと言っているの? そんないるかいないか怪しい存在に頼るより、自分の力で生き抜くわよ!」


「えっ……レイラだって会ったじゃない」


なんと、私以外の人間はみんなドラゴンも悪魔も記憶から消えてしまっている。もちろん、神が光臨したこともだ。


「あれは、夢?」


「まさか、少し邪魔だったから退場させた」


私にしか聞こえない声――残念ながら神との取引は夢ではなかった。


「じゃあ、どうやってまとめるのよ」


本当に助けてくれる気があるのか、私は空を睨む。


「大丈夫だ。もうすぐ、すべてが上手くいく」


神の言葉を疑いながらも、私たちは馬車に乗り込んだ。





馬車は何台か並列して走っている。その中には、話し合いという名の開戦宣言をするためにゼラフィー王もいる。

重い雰囲気を表すように、天気まで暗い。

ガラガラ、ゴロゴロ

雷と共に激しい雨が馬車を叩きつけるように襲う。

キキッー

それは、カーブのある峠でのこと。

馬車の車輪が滑り、ゼラフィー王が乗る馬車とアロン王子の馬車がぶつかった。外は雨で視界が悪い上に敵国同士の事故のため協力して立て直しを図れていない。


「もう! ちょっと行ってくる」


「危ないです」


「止めなさい!」


たくさんの制止の声がする中、私はまた神の声を聞いた。


「迎えに来た。外へ」


私は声に導かれるように馬車の戸に手をかける。


「ちょっと行ってくるね」


両親やレイラたちに微笑んで、私は飛び出す。最期は笑顔でと決めていた。


「早く、みんなこっちに! 争いなんてやめちゃいな。戦になれば、こんな事故よりもっと凄惨なものになるのよ」


私はありったけの声で呼び掛ける。

まずは、アロン王子とゼラフィー王が支え合って歩き出す。それにつられて一人、また一人とこちらへ向かってくる。


「早く、早く」


私は、なぜか焦ってみんなを呼ぶ。これから何があるのか、わかっていなかったのに。


「マリアンヌ! もう中へ」


「みんな避難した?」


私は確かに誰かが頷いたのを確認した。そして、その瞬間雷が落ちた。



戦が起こりそうだった二国は、王子と王の尽力によって恒久的な和平を結んだ。

だが、誰もがそれを喜ぶことなく喪に服したという。

マリアンヌを知るものたちは、彼女をいつまでも想い空を見上げて感謝するのだった。




「あー、痛くはなかったけど派手すぎよ」


私は天界で死因について文句を付ける。神は、一人じゃなくなったのが嬉しいと私がどんな文句を言っても嬉しそうだ。

それがまた腹立たしくて、私は毎日文句を探している。

神が私を甘やかすのは、罪悪感からのようだがそんなの勝手だ。私は死んでしまったのだから、罪悪感を持つくらいなら殺されたくなかった。

だから、私は今日も文句を紡ぐ。


「これで、許してくれ」


神は私のご機嫌取りに、人々へ祝福を届ける。今や、世界各地に届く祝福はすべて私の力といっても過言ではない。

だからさ、みんな神を敬わないで私と敬えばいいんだよ。そうしたら、いつか私は神をも超える! いつだか言った滅ぼしてやる宣言も実現可能だと思うんだよね。


「でも……わかっちゃったんだよね。ここで一人の孤独が」


ここに来て、私は一人では寂しいだろうなという共感を持ってしまった。だから、神を乗っ取って一人にはなりたくない。


「まだ許さないけど……」


一緒にいるのは許そうと思う。それ以上は……まぁ、後から考えよう。時間はたくさんあるのだから。


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