④友情エンドあるいは限りなく百合に近い花たち
これはまた別の話
同じような苦労をした者たちが身を寄せ合って励ましあう。
いつの時代も、女性とは逞しい。そんな風に思える女たちの友情の話。
目が覚めて、昨日のことを落ち着いて考えられるようになった私がまず思ったことは一つだ。
「冗談じゃないわよ!」
こんなところで、私の平穏な人生という目標が破られてたまるか。
私はとにかく味方のところへと、迷いなく友の元へ走った。
「レイラ!」
「マリアンヌ、大丈夫だった?」
私がレイラの部屋の扉を開ければ、来るのはわかっていたというように出迎えられる。
「大丈夫だけど大丈夫じゃない!」
「そうね……とりあえず、作戦会議といきましょう」
私たちは敵陣の中で、まずは腹ごしらえと朝食を食べながら今後について話し合った。
「どうして私たちはこんな目にあわなきゃいけないのかしら」
「本当、何が運命よ」
私たちはティーカップを片手にヒートアップしていく。
「誰とも運命なんて繋がっていないわよ!」
「本当……誰とも……そっか、そうよね」
私は急に思いついてしまった。それに、レイラは不思議そうに首を傾げてくる。
「何? どうしたの?」
「私、考え付いちゃった! このおかしな運命を終わらせる方法」
「もったいぶらないで早く教えなさい」
レイラが膝を叩いて私を急かす。
「うん、あのね……別の運命を先に作っちゃえばいいんだよ! 幸い、神は選んだ道に文句は言わないって言っているし」
「運命を作る? それって……私たち二人が救われる道かもしれないわ!」
私たちが目指す場所は一緒。ただ一つ平穏な暮らしなのだ。けれど、このままではいつまでたってもそれは訪れそうにない。
大体、どうして好きでもない者たちを選ばなくてはいけない? この選択肢からして間違っているのだ。
「あぁ、考えてきたら腹が立ってきたわ! レイラ、そっちがいいなら私は決行するわよ」
「もちろん、私も乗ったわ」
私とレイラは手を取り合って、自らの運命を切り開くことにした。
王宮の広間には、私の返事を聞こうとすでに男たちが待っていた。ついでに、レイラの血気盛んな取り巻きたちも雁首揃えて立っている。これはこちらにとっても好都合。みんなまとめて、この結を知ってもらおう。
「私、考えました……そして、わかったんです。私が本当に誰を想っているか。どうして、ここにいる人達の想いに応えられないか」
ざわめきが広間で起こる。
それもそのはず、私の言い方では想い人はここにいないと言っているようなものだ。だが、本当はここにいる。ただ、誰も想像していない人物なだけだ。
「レイラ! 私はずっとレイラといたい」
「ほ、本当なの? マリアンヌ! 私もよ」
ちょっと芝居臭いのは仕方がない。だって私もレイラも学芸会以来の演技なんだから。
それでも、衝撃的な発言の方に注目がいき、私たちの多少違和感のある演技には誰も気が付かなかった。
神はもしかしたら気が付いたかもしれないけど、私の選んだ道に邪魔はしないのは本当らしい。
茫然とする男どもを前に、私とレイラは手を取り合う。
私たちの計画は大成功。これは、私たちが誤解を受けるというリスクを負うものだがそんなの痛くも痒くもない。
「マリアンヌ様はレイラ様と仲がよろしかったですからね……」
「はっ? どういうことだ? マリアンヌとレイラ?」
ほとんど動揺を見せないカミーユに対してアロン王子は何が起こったかわからず慌てている。
「女装か……」
「いけません、王!」
相変わらず天然ぶりを発揮するゼラフィー王に、従者が的確なつっこみを入れる。
「女型をとることもできるが……なるつもりはない」
ドラゴンの発言には私はぎょっとしたが、出された結論に胸を撫で下ろす。
「つまんないの。なんか白けた」
悪魔はさすが気まぐれで、呼びだしたのが私ということを忘れて勝手にどこかへ去ってしまう。
「う~ん、このような話になるとは……想像もつかなかった。まだまだ未熟者ということですね。創作意欲が高まりますよ」
詩人は私たちを題材にした詩を作ると張り切りだした。
私の周りは大分すっきりした。同じようにレイラの取り巻きたちも分散したようだ。
「作戦成功だね」
私とレイラは顔を見合わせて小さく頷き合った。
国に無事帰り着いた私たち一向は、またいつもと変わらない日々を過ごすことができていた。変わったことと言えば、私とレイラの仲が一層深まったことだ。だが、これも必然。何せ、前世の記憶を持つ……絶対的にわかりあえる、友よりも深い存在なのだ。
そんな私たちのことは、吟遊詩人が迷惑にも広めた詩のおかげであちこちに知られることとなる。
それに対して色々な声はあるが、いつの間にか私たちを題材にした本が流行り、少女同士の淡い恋が流行るようになった。
私とレイラはこの頃にはすっかり逞しくなっていて、勝手に儲けられるのは面白くないわねと言い出す始末だ。
「私たちの話なんだから……」
本人が書いた方が食いつきはいい、後は巷で流行っているものからどういう傾向のものが好まれるのか分析し、サービス精神たっぷりに書き上げた。
「どうせなら、この勢いで他の事業もはじめない?」
はじめはちょっとしたお遊びだったのが、どんどん本格化していく。
女性の娯楽がまだ少ない時代、私たちの異世界の知識が遺憾なく発揮された。
「新しいカフェには行った?」
「もちろん、最近は夜の営業もはじまったそうよ」
「まぁ、夜!」
「えぇ、意中の男性とのデートで使うらしいわ」
街を歩けば、女性たちが生き生きとお喋りに講じている。
「レイラ、みんな楽しんでくれているわね。次は……」
「そうねぇ、ファッションにも進出する?」
私とレイラは今日も楽しく仕事をする。気付けは、私たちに求婚してきた男たちも諦めて結婚していった。
これで、一応私たちの計画は完了となるはずだった。けれど、私とレイラは手を取り合うのを止めず、ビジネスを展開させ実に自由に生きた。
暖かな日差しが差し込む午後、ロッキングチェアに揺られて昼寝をする小さな影が二つある。
「ねぇ、マリアンヌ。ずっと聞きたいことがあったの」
「なぁに?」
少しだけしわがれた、それでも可愛らしい声が囁くように交わされる。
「好きな人、できなかった? 私に付き合ってここまできちゃったんじゃない?」
「好きな人? いるわよ」
ごく当たり前のような返事に、年をとったレイラは悲しそうな顔をする。
「言わなくてもわかっていると思ったの……でも、伝わってなかったみたいね。だから、今言うわ。大好きよ、レイラ。一緒にいられて本当によかった」
「マリアンヌ……それ、本当? 私もよ、私もずっとそう思っていた」
異世界に転生したマリアンヌとレイラが出会ったことは、彼女たちが誰かと結ばれるよりよほど運命的だ。その運命に二人は感謝していた。
「また、きっと会えると思うの」
「そうだね、また……」
二人はロッキングチェアに揺られながら、また新たに出会う日の夢を見た。