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異世界における10の規定事項  作者: まほろ
規定事項の後の10のエンディング
11/20

①ノーマルエンドあるいはこの世界で最も幸せな家族

廊下を走り抜けて、私はただ一か所を目指していた。迷った子どもが何を一番頼りにするか、それを考えてくれれば私の行動の行く先はすぐにわかるだろう。


「お父様、お母様!」


扉を開けた先でほんの少しだけ驚いてから、すぐに私を受け入れるように広げてくれた腕の中に飛び込む。

いくら私が転生者で、実際の年よりも上だからと言ってもこの世界に生まれてからまだ十五年ということに変わりはない。たった十五年で何がわかる? 何もわからないよ。だから、私は素直にそれを吐露した。


「どうして選ばなくちゃいけないの? どうして? 私は、まだまだ……ずっと家にいたいよ!」


「マリアンヌ……私たちの可愛いマリー」


「大丈夫よ、大丈夫」


両親が私をぎゅっと抱きしめてくれているのがよくわかる。

私はどうして与えられるのかわからない、みんなの求愛よりも無償の家族愛を望んだ。それは、私がまだ子どもだという証拠だろう。でも、それでもいいでしょう? だって私が道を選んでいいんだから。


「焦る必要はないよ。ゆっくり生きよう。そのためなら、どんなことでもしてあげよう」


「家族を引き離すことなんてできないわ。ずっと一緒よ」


両親にしがみついてしゃくり声を上げる私は、二人の腕の温かさに起きたばかりだというのにまどろみかける。


「まっ、これが妥当なところ……そもそもマリアンヌは誰にも恋をしていなかったから」


どこにいても自由に見たい場所の様子を窺うことができる神に覗かれているのを私は感じた。でも、抗議する気にはなれない。まだ、この温もりから抜け出したくなかったからだ。


「良い。そのままで。マリアンヌ、お前の選んだ道は誰にも邪魔はさせない。異世界の魂を持った者に祝福を」


神による祝いの言葉と光が届けられる。私は、こうして家族と共に生きるいつもと同じ生活に戻ることになった。



「綺麗ね」


「二人の方がもっと綺麗だよ」


「もう、お父様ったらいつまでもキザなことを言って……」


燃えるような赤い髪の美女と色素の薄い陽に煌めく銀髪の紳士の間に、ちょうど二人の色を混ぜ合わせたようなピンクブロンドの色を持つ私がいる。

言わずもがな、父と母と私の一家団欒の図だ。

あれから、神の采配のおかげなのか、私たち一家は何の問題もなく国にそして家に戻ることができた。

あれだけの騒ぎを起こしておきながら、何事もなかったかのように話が進んでいった時には神への畏怖がようやく私の中に芽生えた。

私たち家族の後ろにはカミーユは以前くれた言葉通り変わらず護衛として立ってくれている。


「いつも忙しいところを悪いね」


「いいえ、自分が望んだことなので」


父は何度かカミーユに護衛の仕事を辞めても良いと言っていたが、カミーユはそれを受け入れなかった。

王宮騎士としての地位も上がり忙しいはずなのに。


「十年も一緒にいるカミーユはもう家族よ……付き合わせて悪い気もするけど嬉しいわ」


母の言葉に私も同意する。カミーユが望んだ結末とは違うかもしれない、それでも共に静かに過ごしてくれることで私は幸せを感じることができている。


「そういえば、アロン王子は最近ようやく勉学に励むようになったらしい」


「あら、最近こないと思ったら!」


一緒に遊んでいた幼なじみは一足早く成長したらしい。頑張って欲しいと素直に思う。でも私はお父様の言うようにもう少しゆっくり生きようと思う。


「旦那様、手紙を届けに来た使者が……」


「また恐がっているのね、やっぱり番犬ならぬ番ドラゴンは駄目よ」


私の家には今ドラゴンがいる。乙女を得られなくても守ってやると言い出してきかなかったからだ。


「強力な門番過ぎるな」


お父様は苦笑しているけど、手紙を届ける使者の人は気の毒だ。ちなみに主な被害者はレイラの従者と、隣国王の使者だ。

レイラは相変わらずの日常のようで、毎日の手紙は愚痴だらけだ。

隣国王からの手紙もレイラほどではないがよく届く。内容はごく一般的な世間話と妖精を見たなどの電波的なもの。友人として私たちは上手くやっている。

そうそう、忘れていたけど悪魔は私が両親にしがみついたとたんに興醒めしたとどこかへ飛んでいってしまった。私の手元に召喚の小瓶はあるが、もう二度と呼ぶことはないだろう。

ということで悪魔はあまり私に迷惑をかけなかったのだが、悪魔よりたちの悪い奴がいた。


「そういえば、吟遊詩人の噂は消えたわね。可愛いマリアンヌちゃんについてもっと歌って欲しかったわ」


「お母様!」


吟遊詩人テオが歌う麗しきピンクローズのマリアンヌというふざけたタイトルの歌は、しばらく国で大流行した。お母様は気に入っていたみたいだけど、私は恥ずかしすぎて恥ずかしすぎて、しばらく引きこもりになったものだ。


「彼なら海を渡る申請を出していたよ。我が娘の可愛いさを別大陸にまで伝えてくれるなんて嬉しいね」


どうやらお父様も気に入っていたようだ。

別大陸にまで恥を晒すのかと思うと憂鬱になるが、遠い地の話と諦めることにする。いつまで悩んでいても仕方がない。

神がくれたこの平穏を私はとても気に入っている。だから、週に一度神殿で祈りを捧げるようになった。きっとあの異世界の魂フェチは喜んでくれているだろう。

こんなところが私たちの今だ。

以前のような喧騒はなくて、寂しく思う日がいつか来るかもしれない、でも今は……この幸せを噛み締めよう。


「お父様、お母様、ここで家族の絵を描いてもらいましょう。花がとっても綺麗だし、記念になるでしょ?」


「そうね」


「そうだな」


笑い合う私たち三人を見ると幸せな気分になれる。そう評されることを私は誇りに思った。




この国には有名な一枚の絵がある。

残念ながらあまりに古すぎて、どの時代の誰を描いたのかは伝わらなくなってしまった。

それでもその絵の人物たちは幸せそうで、この世で最も幸せな家族の絵として長い、長い時を越え人々に愛され続けている。


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