10、ハッピーエンドはこれからだ
他国の王宮に集まった個性的なメンバー。
神はすべてお見通しらしく、しっかりとゼラフィー王もこの場に呼ばれている。
「どういうことよ、あれが神? 私を巻き込まないでよ」
「もう遅いわよ。私だけが神に目をつけられるとか、絶対嫌よ」
小声で言い合いをする。それすらも平和に感じられて嬉しいと感じている私がいる。何せ、さっきまでの状況は異常すぎた。
「まぁ、まだ何も解決していないんだけど……」
これから話し合いが行われるのだが、無事に済むと思っている程私はお気楽ではない。
「解決しそうなだけいいじゃない……私なんて、周りで暗殺合戦が行われていて気が安らがないわ」
レイラをとりまく男たちは血の気が多いらしい。
「でも人じゃん」
「そう、ドラゴンに悪魔に神……マリアンヌの方はバラエティに富んでいるわね」
私たちはとことん変なものに好かれる性質らしい。これが、神の言う異世界の魂のせいなのだろうか。
「それでは、これからそれぞれマリアンヌへの想いを伝えるのだ」
重々しく口を開いた神から出たのは、一人一人告白させる方式だった。
恋愛バラエティーじゃないんだから、こんなの恥ずかしすぎて無理! 大体、これって助けてくれてることになるの?
「なんだ? 不満そうだな。自分で選べるようにしてやったのだ、感謝しろ。あのままだと、お前は確実に最悪な道に進んでいたぞ」
バッドエンドってこと? それは嫌だけど、だからってこれを受け入れるのとは違う気がする。
そんな私の心中とは裏腹に、勝手に告白大会は進んでいく。
「では、出会った順にするか」
「俺か……」
カミーユも参戦する気あるんだ……そりゃ、好意は薄々感じていたけど一歩引いていたからと私は少しだけ驚く。
たくさんの男どもに好かれる美少女と言えば、天然鈍感で人の気持ちにも鈍いというのがお決まりでそのためフラグを量さんするのが特徴だ。
だが、私もレイラも鈍感ではない。
心の平穏のためにあえて知らない振りを通しているが、このおかしな好意は嫌という程感じている。
でも、結局それは逃げでしかない。
望まなくても、不自然でも、確かにそこに人の気持ちは存在する(若干人じゃないものもいるが)。
「向き合う時が来たのかな……」
私は決意を持って個性的な男たち一人一人を見つめる。
転生者ではなく、マリアンヌという一人の女性として私は彼らをどう見るのか。この告白を聞くことはこれからの私にとって重要なことだ。
「わかったようだな。それでは、騎士カミーユからはじめろ」
「俺は護衛です。望まれるなら、いつまでもマリアンヌ様を守ります」
いつもと変わらない真面目な騎士だった。
「次は僕だ! 小さい頃からずっと一緒だっただろ。僕のはじめての友人……喧嘩も礼儀も仲直りの仕方、遊び方、教えるだけ教えていなくなるなんて許さない」
意地悪も友人として認めてくれている証と、私はずいぶん前からわかっていた。
「ちょっと、これ一人一人やるわけ? 疲れちゃうわよ、せめて椅子でも用意しなさい」
レイラは私が疲れていることを察してくれた。ドラゴン退治に悪魔とスカイダイビング、疲れる要素は多々あった。
「気が利かなくて悪かった。こちらに椅子を」
「かしこまりました、ゼラフィー様」
侍女に命じたゼラフィー王は、私が椅子に座るのを待ってから口を開く。
「ドラゴン退治に自ら出かけるとは……それほでまでに結婚を望んでいないことはわかった」
王は以前より落ち着いたようだ。
「それはよかったです」
「だが、この気持ちを取り下げることはできない。私がビビッときたのだから間違いはないはず。私と共にあるのはあなただけだと、妖精たちも言っている。それを理解してもらえるまで待つ。もちろ
ん、ドラゴンうんぬんの話はなかったことでいい」
落ち着いたとはいえ、やはりおかしな電波を受信しているようだ。しかも妖精などとさらりと言っているあたりさらに磨きがかかっている。
「我に乙女を差し向けたのはお前か、感謝するぞ」
まさかドラゴンまで参戦することになるとは思わなかった王は渋い顔をする。
「乙女よ、ドラゴンの愛情は深い。我を眠りから覚まし一人にする気か?」
ここにきて、まさかの捨てられた子犬作戦! 私は少しだけ動揺してしまう。
「ドラゴンなんて、お腹が空いたら起きて寝てを繰り返すんだろ。乙女とか口実に過ぎないんだぜ。みんなずるいもんだが悪魔はその点欲望に忠実でわかりやすいもんだぜ。俺様を呼び出した主人にこ
の世の楽しみ方を教えてやる」
色気ただ漏れの悪魔の言葉に私のさっきまでの同情心が消されていく。
「楽しみ、それは与えるものではないですよ。私なら、目いっぱい感じさせられます」
「へぇ~、悪魔より優れていると?」
悪魔と吟遊詩人は二人で妖しげなムードを作り出している。
「もちろん。マリアンヌのことなら隅から隅まで、一日中でも歌い続けられます」
一日中歌われたら、私は恥ずかしく外に出られない。
「こちらの気持ちを現すような薄桃色の髪は女神をも驚かせ~」
「そうか! マリアンヌを女神にすればよいのか」
吟遊詩人のせいで神が余計なことを思いついたようだ。
「ちょっと、結局自分の思い通りにする気!」
私が神を睨み付ければ、ばつの悪そうな顔が返ってくる。
「少しの希望だ。いいだろう? 私も参戦すると表明したのだし。どちらにしろ選ぶのはマリアンヌだ」
「選ぶのは私……私は平凡に平穏に生きたいだけで……」
「ならそう願えばいい。すべてはマリアンヌの意志のまま……神である私が保証しよう」
ようやく神が神らしく威厳たっぷりに発言する。
「さぁ、主張は終わった。あとは一日考えるがいい」神の言葉と共に、私は深い眠りについた。
夢の中で私は普通の女の子だった。
劇的に愛し愛された訳でもなく結婚し、家事に追われそれについて感謝はなかった。
想われるって平凡なことじゃなかったんだ……。
気付いたとき、私はまた別の場所にいた。
光だけの何もない明るいだけの空間で声が響いてくる。
「十個のエンディングが揃いました。さぁ、未来に向かって進んでください」
「十個のエンディング?」私の問いに声は答えてくれる気はないらしい。
私は何を求めている?
普通って何?
平凡って?
わからない……でも心のままに動いてみよう。
そう決めたところで私は目を覚ます。
これからどうするか。
私はしばらく考えて部屋を出た。
ここまでが共通ルートです
この後、10ルートに分岐します




