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ソサリア魔導冒険譚  作者: 星乃紅茶
【第六部】 《古代龍と時の翼 編》
172/223

8章 運命の選択、時の翼 6-22

「覚悟、できてるか?」


「もちろんさ」


 ふたりの青年は、それぞれ深海のあおと透けるような赤の瞳を、眼下に広がる光景に向けていた。高熱に揺らめく砂漠、屹立きつりつする結晶体の壁の足もとにうずくまるのは古代龍の居城――。


 なにゆえ『龍』ともあろうものが、五種族の住まうような建築物を造り、あえてその奥に潜んで自分以外の生き物を支配下に置くことを考えのだろうか。酔狂といえばそれまでだろうが、始原から生きている龍のことだ……その行為にも理路整然とした狙いがあるに違いない。


 それを打ち砕くためにも、彼らにはいま為さねばならぬ行動がある。


「できれば、無駄に命を奪いたくない。それが傀儡にされた人間たちであっても」


「同感だ。できるだけその方向で頑張ろうぜ」


 金色の魔導航空機ヴィメリスターは大空へと舞い上がり、古代龍シニスターの居城の正面に回り込んでいた。トルテを侵入路へと送り届けたあと、ちょっと時間はかかったが、リューナの操縦とディアンの魔導の技の連携により、城の外壁にあった対空砲台のほとんどを沈黙させ、待機できる状況も確保した。


 かくして、リューナは操縦をラハンに任せ、ディアンとともに船外に立っているというわけだ。


 背後にそそり立つ紅玉ルビー色の壁を背景に、同じ色に透け輝く宝石めいた優美かつ堅固な城がずっしりと据えられている。背後にある巨大な結晶体は超自然のものであるが、手前に建つ城は明らかにひとの手によるもの。さらわれたエオニアが幽閉されたという部屋までは、この正面門からでないと到達できない。そしてその門には、数え切れぬほどの兵たちが集結しつつある。


「まあよく、あんなにもわらわらと出てくるなぁ」


「ありったけの強化魔法をかけておいたほうが良さそうだね、リューナ」


「そうだな。――おっと、大丈夫だぜディアン。俺には自前の魔法がある」


 自分にまで魔導の技による加護をかけてくれようとするのを制して、リューナは慣れた詠唱を口のなかでつぶやいた。唱え終わると同時に、リューナの体を『倍速ヘイスト』と『倍力インクリーズパワー』の魔法が包み込む。


「魔導の技が使えるのに、君はいつもそのふたつに関してだけは言葉の力で魔法を行使するんだね」


「こればっかりはさ、譲れないんだよな。そうでないとやる気が出なくて」


 続いてリューナは腕先を虚空にすべらせるように動かし、印を結んで魔法陣を具現化させた。白く穏やかな光の渦がふたりを包む。『防護プロテクション』だ。


「知識そのものは僕から学んだはずなのに、力の行使は君のほうが優れている気がするよ。君の魔導の『名』はいったい何だろうね?」


「考えたこともなかったな、それ」


 リューナは首の後ろを掻いた。


 魔導にはそれぞれ属性があり、その種類ごとにきっぱりと区分されている。その区分が『名』となって、得意とするものの魔導の力と専門分野を示すのだ。


「まあ何であれ、使えるものは使うだけだ。さて――行くか!」


 リューナは右腕を眼前にかかげた。左腕でサッと撫でるようにしてから、びゅんと右腕を振り下ろす。魔導特有の青と緑の光が纏わりつくように集ったその腕には、いつの間にかひと振りの長剣が握られていた。長さと重さのあるその剣は、トルテの父テロンより贈られたものだ。


「僕たちが飛び降りたら、すぐにここから離れてください。あとは合図があるまで隠れていて、脱出の機会を待って」


 ディアンが魔導航空機ヴィメリスター内部で操縦桿を握っているラハンに向けて叫んだ。了承したというしるしに、胴体の上にある機外照明が明滅する。


 ふたりは頷き合い、機体を蹴って空中に身を躍らせた。


 ごうごうと耳もとで風が鳴り、乾燥した熱風が体の表面を掠め過ぎる。


 金色の魔導航空機ヴィメリスターはすぐさま空へ戻っていった。リューナとディアンは城の正面門を目指し、着地と同時に全力で駆け走った。


「古代龍も出入りするのか……間近で見るとさらにでっかく感じるぜ」


 リューナは口のなかでつぶやきながら眼をすがめ、横っ飛びに移動した。直前まで走っていた直線上に雷撃が駆け抜ける。軌道を変えない攻撃魔法は避けやすい。


 リューナの走る速度は相当なものだった。魔法の射程距離の端から、撃ってきた兵士たちの只中に飛び込むまでに呼吸を十も数えていない。


 攻城兵器カタパルトからの投石さながらに勢い良く飛び込んできた青年に、兵たちは度肝を抜かれたようだ。列が乱れ、攻撃の態勢が崩れる。リューナは着地の姿勢から背筋を伸ばし、剣を担ぎ上げるように持ち上げてニッと笑った。


「さあ――死にたくないヤツはとっとと逃げやがれッ!!」


 堂々と言い放ってから、剣を振り回す。襲い掛かってきた数人の兵をまとめて薙ぎ払い、腕と武器を損傷させる。戦意を剥き出しにした者たちを蹴りつけるようにしてリューナが空中に飛び上がると、斬りかかろうとして突っ込んだ兵たちが互いにぶつかりあい、床に転がった。


「同士討ちはみっともないぜ。さあさあッ! 道をあけろ!!」


 リューナは長く重々しい剣をことさら大きく振り回し、声を張りあげ、周囲を取り囲んでくる兵たちを牽制した。体を回すついでに腕を空中へと跳ね上げ、緑に輝く魔法陣を頭上に展開する。ゴウ、と烈風が生じ、生じたかと思うとすぐに激しく渦巻く旋風となった。リューナを中心に張り巡らされた風の障壁に、斬りかかろうとした兵たちが弾き飛ばされ、包囲陣の輪の外に放り出される。


 頭上の魔法陣が消え失せると同時にリューナは飛び上がり、眼下の床と周囲の壁や内回廊を見渡した。それでもあとからあとから押しかけるように増える敵の兵たちに辟易へきえきする。無駄な戦いは望みではない。敵の包囲網をぶち壊す良い方法はないか?


 リューナの瞳が見開かれる――入り口からずっと視界に入っていたものに、改めて気づいたのだ。


「イイモノがあったぜ!」


「リューナっ?」


 後続のディアンが驚いて彼の名を呼んだ。奥へ奥へと続く広大な通路を進んでいたリューナが、突然進路を真横に変えて壁側へと走り寄ったからだ。彼はちらりと振り返って言った。


「ディアンはそのまま奥へ進め!」


「わかった!」


 ディアンは彼にそれ以上問うことなく背の翼を広げ、同時に床を蹴った。畳まれていたのが信じられないほどに美しい翼が広がり、力強く羽ばたいた。ふたりは王国末期に王としてともに過ごした、いわば戦友である。新しい土地では幾度となく魔獣や魔竜たちと衝突していた。だから連携を取るため、互いを信頼しているのが常だった。


 天井高い通路内を飛翔するディアンに魔導攻撃の筒が向けられ、炎の魔法が次々と撃ち出される。だが、ディアンは優雅とも呼べる飛行であざやかにすべての攻撃をかわした。


 海の鳥類がおかでは愚鈍な動きであっても水中では高速で泳げるように、飛翔族にとって空を移動することが本来の行動形態である。とてもではないが、反応の鈍い兵たちに追いきれる速さではない。


「飛翔族をみくびってもらっちゃ困るよ」


 ディアンは微笑み、敵の攻撃の合間を狙って空中に静止し、腕先をぐるりと動かした。魔導の準備動作だ。次弾に先んじて彼の魔導の技が具現化される。攻撃魔法ではない、『魔法封印シールオブマジック』だ。


 人造魔導の筒が次々と沈黙していく。


 一方のリューナは一本の柱の基部へと駆け寄っていた。正面入り口の門から両サイドに設置されている飾り柱だ。高さはゆうに四十リール(メートル)を超えている。天井には繋がっていない。天井はさらに遥か高い位置にあった。この正面通路だけでも王都にある荘厳なラートゥル神殿がすっぽり入るほどの規模だということだ。


「逃げないとぺっしゃんこになるぜッ!」


 リューナはあえて大声をあげ、目の前の柱に剣を一閃、ひと振りで基部を派手に斬り砕いた。反対側にも駆け走り、整然と並んでいた柱の根もとを次々と破壊していく。


 入り口から左右に立ち並んでいた飾り柱は、格好の攪乱かくらん材料となった。ズシャアン、ズシャアン、と凄まじい衝撃と轟音を上げ、見事な細工を施された柱が次々と床に倒れていく。


 結晶のような柱が幾万もの欠片に砕け散った。それらが天井から差し込む陽光を受けてきらきらと輝くさまは、いにしえの物語にある幻精界での光景、精霊たちの乱舞のよう。夢のように美しくもあり、滑稽で大掛かりな見世物のようでもあった。悲鳴が乱れ飛び、緑や青、赤の魔法が光を筋を引いてでたらめな方向へ撃ち出されていたからだ。兵たちはすっかり混乱している。


「うっしゃあ、これで最後だぜ!」


 リューナが剣を振りかぶったそのとき。


けてリューナ、火薬だ!」


 頭上を翔けるディアンの鋭い声に、危ういところで床に身を転がし、リューナは銃弾の雨からのがれた。立っていた床が微細なつぶてに容赦なく穿たれ、ボコボコとした穴が無数に開いた。弾けた破片がリューナの腕に当たり、赤い筋をひく。


「チェッ、いよいよ登場かよ」


 リューナは奥歯に力を籠め、ひたと周囲を眺め渡した。


 右に四つ、左に五つか――視力の優れたリューナの広い視野に、銃火器とかいう黒い筒を構えた兵士が見える。ディアンの話では、火薬によって発射される弾丸は魔法の防護障壁でも貫通してくるという。リューナは気を引き締めた――ただひとつとして喰らうわけにはいかないってわけだ……!


「走ってリューナ! この階段の先が広くなっている。そこまで行けば――」


「よっしゃッ!」


 リューナは目の前の低いきざはしを駆け上がった。背後から弾丸が床を抉る、凄まじい音と気配が追ってくる。だがそれが唐突に途切れた。気がつくと、リューナは途方もなく広い空間にたどり着いていた。


「何だよこれ……すっげぇ!」


 シンプルな円形の大広間だが、その規模が凄まじかった。冗談ではなく『千年王宮』の建物がすっぽりと入ってしまいそうだ。リューナは遥かに高い天井を見上げた。張り巡らされたヴェールのような霧のさらに上、ぼんやりと霞む高さに、何かの記号が見える。円形の天井の真ん中に描かれたそれは、魔法陣のようにも見える。


「おそらく、あれの真上に何かあるんだ。ほら見て――下の床にも同じような魔法陣が刻まれている。上から何らかの力を送り込むためのものみたいだけど」


 ディアンが不吉な予感に顔をしかめ、リューナの傍の床に降り立った。


「収束と接続の魔文字が見えるな……あとはさっぱりだ。この広間に魔力マナを集めるつもりなのかな」


「僕にもわからないけれど、警戒しておいたほうがいいね。――リューナ、エオニアとトルテは無事逢えたのかな?」


「ちょっと待て。さっきもう少しだと――うん、よっしゃあッ! 丁度のタイミングだ。いま逢えた。ふたりで待っていると伝えてきた」


 『精神感応テレパシー』からリューナが顔を上げると、ディアンは心の底から安堵した表情になっていた。だがそれも一瞬のこと、すぐに表情は引き締められた。


「行こう!」


 内部構造の地図は、ディアンの頭にも入っている。ディアンに続き、リューナも右奥の通路へと飛び込む。天井は低くないが、先ほどの広間よりは現実的な大きさだ。武器を振り回せるほどの余裕はある。


 しばらく走り進んだところで、ディアンが小声で鋭く言った。


「待ってリューナ! ――火薬のにおいがする。たぶん銃火器をもった人間が……ひい、ふう……うん、十二人はいるね」 


 ディアンと同時にリューナも気づいていた。目の前の角を曲がった先に、息を潜めた大勢の気配がある。カチャ、という微細な金属音までもが耳に届く。間違いない、待ち伏せだ。


「姿をみせた途端、穴ぼこだらけにされちまうってわけか」


「まずいね。目指す部屋まではこの通路でないと到達できない」


 このように狭い通路内では、非常に有効な手段といえる。リューナは唇を噛み、音を立てぬまま舌打ちして腕を下ろした。その手が硬いものに当たる。ポケットに手を突っ込むと魔石があった。すっかり失念していた――役に立たない親父の手紙だ……いや待てよ。リューナはニヤリと笑った。


「ディアン、いちにのさんで飛び込むぞ」


 声をかけると同時に、リューナはその魔石を前に放った。


 カツン、カッカッ……!


 壁に当たった魔石は角を曲がった先に落ち、転がっていったようだ。カラカラと軽い音が響く。いぶかる声が幾つも聞こえた。弾けるような音と光が発せられると同時に、リューナが数えはじめる。


「いち、にの――さん!」


 最後の言葉を叫ぶと同時に剣を構え、リューナは床を蹴った。





「じゃあ――あなたたちは、本に残されていたメッセージを頼りに、友だちのディアンを助けるため未来の世界に飛んだというの?」


「はい。『時間』の魔導士ハイラプラスさんが綴ったメッセージなんです」


 何度も響く轟音と衝撃に、助けに来ているというディアンたちの身を案じたエオニアが涙ぐみはじめたため、トルテはエオニアに別の話題を振っていたのだ。魔導の技で腕に収納しておいた魔法王国の文献を取り出し、見せていたのである。


  古代の 邪悪が 動き出すとき

  野望 荒ぶる水と炎となりて 襲いくる

  打ち砕かれん 心せよ 

  未来に 飛ばされし 翼ある友の救出を

  時の力もつ魔晶石 ふたつの波紋 ふたつの干渉

  携え 発動させよ 時の翼 青のしるしの導きのままに

  忘るるなかれ はかなき願い 我はかなわず


「……難解なメッセージね。まるで謎かけ(リドル)みたい」


「まさにそうなんです。あたしたちの現代で、これは未来を予兆させるものでした。でも……まだ他にひとつ、意味が隠されていると思われるんです」


 トルテは膝をついたままエオニアの手もとにある文献を覗き込み、ハイラプラスの書いた文字を指で指し示しながら言葉を続けた。


「このメッセージの手書き文字、ちょっと変わっているとは思いませんか?」


 トルテの言葉に、エオニアは眼を凝らした。魔導の技を行使することはできなくても、彼女の瞳は魔導士のそれ――魔力マナの流れを視覚的に捉えることができる。エオニアはすぐに頷いた。


「ええ。それぞれの行の最初の文字……何だか光り輝いて見えるわ。いったい何なのかしら」


「魔導の技を行使しつつ、魔文字の要素を練りこんでいるんですわ。『真言語トゥルーワーズ』ではありませんが、強い光を放っています。たぶん、ハイラプラスさんの考えた一種の暗号のようなものだと思います」


「つまり……それだけを拾って読んでみると『古代の野望、打ち砕かれん。未来に時の力もつ魔晶石携え、忘るるなかれ』となるわけね」


「はい。魔導士であるあたしもルシカかあさまも、すぐにこの暗号には気づきました。ハイラプラスさんらしい遣り方ですから、おそらくこのメッセージ通りにしておけば問題ないと思いました。それで出発する前かあさまに相談して、魔晶石を造ってもらったんです。あとはそれをどう使うのか、どんな意味があるのかですが――そちらのほうはまださっぱり」


「リューナくんも魔導士なんでしょう? どうして彼は気づかなかったのかしら」


「ふふっ。それはね――リューナですから!」


 彼の名を口にしたとき、トルテは悪戯っぽくオレンジ色の瞳を煌めかせた。思わずエオニアが微笑する。


「遺跡のなかを歩くとき、あたしが魔力マナの流れで気づいて声をかけても、いっつも、ぜ~んぜん気にせずそのまま進んで、罠を発動させちゃうんですもん。そのあと全部きれいに片付けちゃって、いちいち言わなくても問題ないぜトルテ――なぁんて言っちゃって」


 トルテは冗談めかしてリューナの口真似を交え、楽しそうにくすくすと笑った。次いで、ふと遠くを見る目つきになる。


「それに、リューナには前を真っ直ぐに見ていて欲しいんです。だから細かいところやサポートは、あたしの担当なんです」


「幼なじみかぁ……いいわね」


「はい!」


 幸せそうに頷く少女に、エオニアもつられるように微笑んでいた。





 リューナは躊躇することなく飛び込んだ。


 兵たちは、床に転がったまま発動している魔石に黒い筒の先端を向け、引きつった表情をしている。無理もない――リューナは思う。両眼と口を全開にした中年のおっさんの生首が投影され、凄まじい声を張りあげているのだ。


『こッんの、放蕩息子がああッ!!』


 その魔石は、実家から受け取った手紙であった。新しいものや魔法の仕掛けが大好きなメルゾーンが、立体映像と音声を展開する魔石にメッセージを記憶させて送りつけてきたものだ。トルテはその仕掛け魔法にいたく感激していたが――リューナも父親に感謝したくなった。サンキュー親父!


 るように硬直している兵たちに同情を覚えつつも、リューナは彼らを容赦なく蹴散らしていった。慌てた兵の数人がリューナに向けて発砲したが、定まらぬ狙いでは当たるはずもない。リューナはあざやかな剣さばきで銃を縦真っ二つにし、相手の腹を柄で突いて昏倒させ、床に手をついたときには思い切り脚を跳ね上げて顎を蹴った。


 ディアンの『停止ストップ』や『眠り(スリープ)』の魔法陣も次々と具現化され、たいした時間もかからないうちにふたりの周囲はすっかり静かになっていた。ただひとつの騒音を除いては。


「しかし……何なんだい、これは」


 ディアンが幾分乱れた目つきで魔石を注視している。慌てたリューナは親友の目の前で無意味に腕を振り回し、その背を奥の通路へと押しやった。


「き、気にしないでくれ。それより早く奥へ急ごうぜッ!」


 眼が離せなくなったらしい友人に、リューナは自ら言葉通りに行動した。さっさと背を向けてその場をあとにしたのである。我に返ったディアンがリューナの背中を追う。


 目指す部屋は、すぐそこにあった。リューナが剣を一閃、かけられていた鎖ごと重たげな錠を切断する。ガシャンと響いたその音に、部屋のなかからふたり分の物音と気配がした。


 扉を引き開けたリューナは脇に寄り、翼ある親友を先に通した。ディアンは安堵のため息を洩らし、部屋のなかに駆け走っていった。


「エオニア!」


「ディアン!」


 ディアンは泣きじゃくるエオニアを抱きしめ、懸命に宥めていた。


 その光景を見て嬉しそうに微笑んだリューナに、部屋のなかで待っていたもうひとりの少女が歩み寄る。首を傾げるようにして深海の色の瞳を見上げ、トルテはにっこりと微笑んだ。心から安堵しているようなオレンジ色の瞳が優しげに細められている。


「お疲れさま、リューナ」


「ああ。トルテもよくがんばったな」


 言葉とともにトルテを自分の胸に引き寄せ、リューナ自身も安堵のため息を洩らした。眼を合わせたふたりは、にっこりと微笑みあい、友人たちの嬉しそうな様子を見守った。



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