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月と魔術師と預言者と  作者: カザ縁
2.出会いと別れと再会と
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神聖守護騎士

「残念。お姫様救出失敗」

「うー…あとちょっとだったのに…」


港で小さくなる船を見送る事もなく、レネはすぐに踵を返した。

そのあとを追って街道まで行くとレネは辻馬車に乗り込んだ。

もちろんウルリヒも付いて行ったが、困惑している。


「あ、あの…これからどうするの?」

「何処に向かったか調査。ムカつくなあ、なんか避けられてるみたいで。俺嫌われてる?」


言いながら口調は何故か嬉しそうである。

多分、知っていてやっているのだろうという事かわかる。

船でも聞いた、“レネが来た”という大声。


「有名人なんだね…」

「まーね」

「それでこれから何処に?」


調査と言っても向かっているのは正反対の方向だ。

フォルトゥナートの街へ直行している。


「教会本部。アイツそこに居るだろうし」

「アイツ?」

「ポッポ」


彼がそう呼ぶのはただ一人…アヒムだ。

彼の協力を得るという事だろうか。


「アヒムさんか…」

「極端に頼りないけど小賢しいからなあ」

「でも何度もわたし達を助けてくれたよ」

「ふーん」


興味なさげに呟き前髪を弄ぶ。

彼の髪は明るい金髪で無造作にハネているように見えるが…作っているのだろう。

とことん騎士には見えないが…派手な容姿なので目立つだろう。

しばらくすると馬車はフゥルトゥナートの街の中に入りそのまま教会の前まで走った。

馬車を降りると目の前には…城かと思うほどの大きな建物。

建物の壁面上部には人を象った象がいくつも有りそれは戦っているような風景だった。

しばらく呆気に取られて眺めていると頭を叩かれた。


「アホ面」

「すごい大きい建物だね…」


そのまま前を歩くレネ。

その後を追いかける…なんだか板についてきたような気がする。

広い階段を上がると、大きな開かれた門扉の前には二人の騎士が構えていた。

レネを見て一礼する。

それでも振り向きも止まりもせずにレネは中へと進んだ。


現れた長く広い石造りの廊下は大きく開いた天窓から射す太陽光に包まれていた。

その光を受けて上部に飾られている半透明の絵画が廊下を見守る。

こちらも人物達が何かをしている様子を描いているようだ。

ひとつひとつ眺めていると上の方は物語のようで下の方はまた違うようだった。

ぼやぼや見て歩いているといつの間にかレネの背中が小さくなっていた。

慌てて追いかけるとまた広く大きな階段があらわれ、人々が行き来していた。


「向こうは礼拝堂。オレ達はこっち」


レネは階段を昇らずに階段の脇の狭くなった廊下を進んだ。

関係者以外立ち入り禁止、という雰囲気の扉の中へ易々と入り進む。

教会の中にはびしっとした格好の騎士が幾人かいたが、みな一様にレネに頭を下げた。

もしかして地位が高いのか…それにしてもレネの格好は教会にもそぐわない。

そのままずんずんと薄暗い廊下を進むとドアの前に見慣れた人が立っていた。


「無事でしたか?ウルリヒ君」

「アヒムさん」


にこにこと手を振っていたのはアヒム。

旅していた時よりびしっとした格好をしている。


「ソレってどういう意味?」


薄笑いを浮かべながらアヒムの肩に手を乗せるレネ。

あはは、と誤魔化し笑いをしながらアヒムはウルリヒに近づいてきた。


「エルヴィン君救出は失敗したようですね」

「はい…船で連れてかれちゃいました」


売りに出される動物の如く…。

あの切ない場面は一生忘れそうに無い。


「ええ、知っていますよ。居場所は僕に任せてください」


にこり、と笑うカーディナル。

自分達は何処にも立ち寄らずここまでまっすぐ来たのに、どこでその情報を仕入れたのだろうか。

にこにこと笑うアヒムを見てレネが何故か舌打ちした。


「調子のるなよ。居場所探ってから吐きやがれ」

「わかっていますよ…ホントに君って人は…」


やれやれ、とでも聞こえてきそうな台詞である。



「じゃあ僕はちょっと部屋で籠もらせてもらいますね。エルヴィン君を危険に晒したままではいけませんし…」


彼の言葉の意味はウルリヒにはわからなかった。

困惑しているとアヒムはまたにこり、とウルリヒに微笑みかけた。


「大丈夫ですよ。僕、それなりに頼れますんで」

「お前のそういうところすごいムカつく」


頼れる言葉を直接的に言ったアヒムの台詞に被るようにレネが言った。

この二人はいったいどういう関係なのだろう。

エルヴィンが言うには、アヒムは偉い人らしいが教会内の態度を見るかぎりレネも偉そうである。

同僚…という言葉が一番似合いそうであるが。

ウルリヒがどうでもいい事を考え始めた時だった。


「失礼する」


低く鋭い声が会話を中断させた。

ウルリヒの背後にいつの間にか背の高い騎士が立っていた。

レネとは違い、一目見ただけでわかるとても“騎士然”とした男だった。

ブロンズの髪をびしっとまとめ、服は皺ひとつなく襟から裾まで綺麗に整っている。

その男を見てアヒムはとても慌てた。


「う、ヴィル君…帰ってたのかい」

「今し方。アヒム殿、一体何をなさっているのですか」


厳しい口調で糾弾するように言う騎士。

レネは一瞬顔を歪めたがすぐに口の端を釣り上げた。


「無論、お仕事の話に決まってる」

「レネ…貴様には聞いていない。貴様は謹慎の身だったはずだ」

「謹慎?ああ?そうだったけ?そういえばちょっと前に怖い顔した人がオレにそんな事言ってた気がするなぁ。でも忘れちゃった」


聞いていない、と言いつつ鋭い眼光は完璧にレネを捕らえている。

張り詰めた空気にウルリヒは無意味に緊張した。



「貴様はどれ程聖君に泥を塗れば気が済む…」

「どれほど…?はっ。どんなに泥を塗ったって当の本人はお綺麗なまま。気なんて済むはずないだろう?」

「貴様の愚行など…聖君のご威光の前では塵に等しい」

「じゃあその愚行にいちいち目をつけるのヤメテくれないかなぁ」

「規律に問題が生じる」


二人の言い合いは終わりそうに無い。

ああ言えばこう言う…そんな事をウルリヒはぽかん、と考えた。

そしてポロリと声に出してしまった。


「ケンカするほど仲が良いってこういう事を言うのかな…」

「は?」


反応は二人同時だった。

じろり、と睨みの目がウルリヒに集中してしまった。

二人の鋭い眼光に緊張があふれ出て心臓が口から飛び出しそうだった。

しかしその緊張感を破いたのは砕けるような笑い声だった。


「あっはっははははは!その考えは無かった!この空気で!ウルリヒ君!ナイス!」

「え?いやぁ、それほどでも…」


褒められたので素直に照れた。

うんざりするような口調でレネが言った。


「このボケコンビが…空気が読める本でも買って来いよ」


騎士の顔も少し歪んだ。

そして咳をひとつしたあと厳しい口調で言った。


「アヒム殿。貴殿も貴殿だ。一体レネと何をしているのですか!」

「うひぃ!あ…うん」


叱られて情けない声を出した後アヒムは居住まいを正した。


「怒鳴らないでよ。品性疑われちゃうよ?」

「貴様には言われたくない。少し黙っていろ」


いたずらっぽい笑みを浮かべたレネがさらに何か言おうとしたが制するように騎士が言葉を続けた。


「聖君の許しの無い勝手な行動は如何にカーディナルといえど謹んで頂きたい」

「はぁ…でもですね、人助けなんですよコレって。ホラ、彼のお友達を助けるんです」


肩をポン、と叩かれたウルリヒ。

当然騎士の視線はウルリヒにまっすぐ突き刺さる。


「貴殿は?」

「あ、はじめまして…わたしはウルリヒです」

「ウルリヒ殿か」


言葉の続きをアヒムがつないだ。


「こちらは神聖守護騎士のヴィルフリート君だよ。ウルリヒ君は預言者だそうだ」

「成程。貴殿の友人を助けるとは?」

「はい…わたしの友達のエルヴィンが盗賊に捕まっちゃったんです」

「盗賊…?」


ヴィルフリートはその言葉が引っかかったようでちらり、とレネを見た。


「…成程。貴様はそれを口実に再びあの者達を一網打尽にしようと言うのだな」

「何の事かな」

「ふん。とぼけるな。この事は上申し、しかるべき手を取らせてもらう」

「はぁ?とぼけてるのはどっちかな?こっちは結構一刻を争ってるんですけど。それにさあ…これは枢機卿のご命令なんだから下っ端のオレには逆らえないの、わかる?」


レネの態度からすればとても“ご命令”には思えないが。

ヴィルフリートの目が細められる。



「…この件は聖君に報告させていただく」

「そう?まぁその頃にはもう終わっちゃってるんじゃないかな」

「失礼させてもらう」


レネの言葉が聞こえているのかいないのか、ヴィルフリートは一同を通り過ぎ背中を向けた。


「アヒム殿…すべてを貴殿の思い通りにさせるつもりは無い」

「何の事ですか?」


にこにこ顔のまま首を少し傾げて答えたアヒム。

しかしヴィルフリートは一度もこちらを見る事なく廊下の奥に消えていった。

最後の彼の言葉はあまり理解できなかった。


「…なんかカッコイイ人でしたね」

「ハァ?あんな岩石人間の何処がだよ。お前医者に診てもらったほうがいいぞ?」


本当にほんとうに嫌そうな顔をするレネ。

もしかしてさっきまでのにやにや笑いは作り笑いだったのだろうか。

しかし貫くような瞳や態度はとてもかっこいいように思えた。


「ふぅー。僕はもうハラハラドキドキで変な汗出っ放しですよー。怖いですよ彼。あんまり変な事してると思われたらクビにされちゃいます」


本当に焦ったようで汗を拭きながらまくしたてるアヒム。

ウルリヒのあずかり知れぬような事情があるのだろうな、となんとなく思った。


「じゃあ僕はエルヴィン君の捜索を行いますね」

「はい、よろしくお願いします…」


アヒムはヒラヒラと手を振ってドアの向こうに行った。

見送るよりも早くレネが動き出す。


「何処に行くの?」

「言っただろ。オレは謹慎処分くらってんだからお達しが無い限り動けない」


来たときよりも早足で廊下を歩く。

最早ほぼ走っているようなスピードだ。


「じゃあ家に帰るの?」

「まさか」


速攻で答えていつもの調子で笑うレネ。


「街に遊びに行くんだよ」

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