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転生の条件

作者: 七支

一発ネタです。

「すまん」

靄がかかったような白い空間で、金髪碧眼の美青年が言った。

なんかこれどっかのラノベで読んだぞ、と思っていると、私が黙っているのをいいことに美青年は言葉を尽くして言い訳をしてきた。

美青年は世界の管理者――いわゆる神様で、それってなんだかすごく難しくて面倒くさくて忙しい職業らしく、日本の就労事情的に言うと「残業続きで疲れてるところに要領のいい同僚に細かい作業を押し付けられて、ちょっと眠気に誘われて手元が狂ってしまった」ということだ。

その結果運命がちょっぴり狂い、現実世界では運転者の軽いむちうち症程度の自損事故のはずが、歩道を歩いていた私にぶつかる死亡事故となってしまった、ということだ。

彼の権限では時間は戻せないから私を生き返らせることはできないけど、お詫びに次の人生は現在の記憶持越しの上、好きな世界を選ばせてくれるとのこと。

どっかで読んだような話だけど、でもまさか自分に降りかかるとは思ってもみなかった出来事だ。

ていうか、この美形のせいで死んだっていうのに怒りとか恨みとか浮かんでこない。死んじゃったから感情が希薄になったのか、それとも相手が直視出来ない美形だからか。

「じゃあ、ありがちなところで、魔法がある世界をお願いします」

「叶えよう。……他に希望はないか」

感情が希薄になった、の線は違ったな。とても強い欲求を自分の中に感じて美形をチラチラと盗み見る。綺麗だ。この顔なら許す。体型も細くもなく太くもゴツくもなく。多分脱いだらすごい系だね。萌ゆる。

殺されても許しちゃう程の美形ってお得だなあ。人生楽勝じゃないだろうか。いや、人生じゃなくて神生か?

「希望、聞いてもらえるんですか?」

「できる限りはな。魔法世界に行くなら、桁外れの魔力でもつけてやろうか」

自分の落ち度を悔いるような眉間の皺も素敵だ。美しすぎて自分とどうにかなって欲しいとは思わないけれど、見ているだけで色々潤ってしまう。――いや、奇麗事はよそう。見ているだけでは収まらない欲が、私の中に確かにある。

「別にそれは普通でいいです。それより、聞いてもらえるんですね? 二言はありませんね?」

視線に熱意を込めてにじり寄ると、美青年は一歩後ずさった。逃げる暇を与えず、たたみかける。先程からこの胸を焦がす強い強いただ一つの欲求。

「じゃあ、あなたのことモデルにしてBL小説書いていいですか? ていうか、書きます! とりあえず、仕事押しつけてきた同僚のスペック教えて下さい!」

「……」

だって、ぽかんと口を開けた表情さえ、見たこともない美青年だよ! しかも世界の管理者なんて肩書きで、ハードワークのせいでお疲れモードな眉間の皺も色っぽく、その上、同僚に押し付けられた仕事を断れないヘタレで、さらにミスって私を死なせちゃったりするドジっ子属性まで持ってるんだよ! 萌えだよ! 創作意欲が泉のように湧き出るよ!

この滾りをぶつけずにはいられない! 誰かある! 我がノートPCを持て! この際、紙と鉛筆でもいい!

内心を押し隠し、両手を胸の前で組んで、上目遣いにねえねえおねがい攻撃をすると、美青年は長い沈黙の後血を吐くような声を絞り出した。


「……鬼畜攻なら、許す」


なんだ、詳しいんじゃん! アンタも好きねえ!

仕事を押しつけておいて心配する同僚にアレコレ世話焼かれる愛され受と思ったけど、もちろん鬼畜攻でもいけますよ。銀縁眼鏡似合うよきっと! 大丈夫! 安心して全部任せておいて! ていうか、そのせりふだと、鬼畜攻めの相手役にしてもいいって取っちゃうよ? 取っちゃうね? いいね? 書いちゃうね?

うふふふふふふふふ!


一点の曇りもない笑顔を浮かべて、私は転生されるべく、白い靄に飲み込まれた。

中世レベルのファンタジー世界に転生した主人公は、BL小説を書くために安価で高品質のパルプ紙を発明し、活版印刷の技術を広めます。

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