Episode 056: 戻せない列
名前を戻せる列と、戻せない列がある。
その違いが帳面のどこで決まるのか、アシュレイはまだ完全には掴めていなかった。
翌朝、停留小屋の前にできた列は短かった。
短いのに、空気は重い。列が長ければ、少なくともまだ待つ余地がある。短いということは、そもそも並ぶ資格が剥がされ始めているということでもある。
セルマが外へ出てきた時、彼女は最初に人数ではなく足元を見た。
並んでいる者の靴の泥、裾の濡れ、持っている器の古さ。施療の人間は、顔色と同じくらい、そこを見る。
「少ない」
「少なすぎます」
アシュレイも同意した。
昨日までなら、少なくとも施療継続と配給差し戻しの境目で足止めされた者がもっといたはずだ。今朝はそれが見えない。減ったのではない。並べなくなったのだ。
《死簿照覧》が、停留再配分の線ではなく、境門外待機の古い線を薄く浮かべた。
懐かしいという言い方はおかしい。だが、処刑台帰りにこの辺境へ落とされた直後、アシュレイが最初に見たのは、外へ押し出される者の列だった。
戻っている。
向こうは閉じた札束で中の処理を隠すだけでは飽き足らず、並ぶ前の段階で人を外へ逃がし始めている。
グラムが門の方角から来た。
頬に冷気で赤みが差し、外套の裾が濡れている。外列を見てきた顔だ。
「門の外に二列」
「理由は」
「片方は通行待ち。片方は戻れと言われた連中だ」
「戻れ?」
「正式な列では扱えない、だと」
正式な列では扱えない。
要するに、戻せない列だ。
制度の内側に残すには面倒で、死なせた責任もまだ負いたくない。だから外へ押し、寒さと時間に削らせる。
アシュレイは門外へ向かった。
そこには確かに二列あった。ひとつは荷馬と通行札を持つ普通の列。もう一つは、札を持っていても扱われず、行き先も曖昧な者の列だ。
後者の列には、昨日施療院裏口で見た女がいた。子を抱いている。顔色は昨日より悪い。食当証は切れたが、継続する線へ戻れていないのだ。
「どうしてこちらへ」
問うと、女は疲れきった声で答えた。
「停留小屋は今は違うって。外で待って、次の指示を聞けって」
「誰が」
「黒い袖の人」
黒い袖。
監督局の補助係だろう。名前を出さず、判断だけを落としていく手合いだ。
列の老人が咳き込み、地面へ膝をついた。
セルマがすぐ駆け寄る。だが施療院まで連れて戻せるかどうかは別だ。戻しても、正式な継続列でないなら、また押し出される。
アシュレイは列全体を見渡した。
十一人。
うち四人が施療継続経験あり。
配給差し戻し経験ありは七人。
そして五人が、閉じた札束の番号帯と一致している。
戻せない列ではない。
戻されない列だ。
その違いを理解した瞬間、怒りより先に寒気が来た。
人は、戻せないと聞かされると諦める。だが本当は、戻す仕組みを使う気がないだけだ。向こうは「不可能」ではなく「不採用」をやっている。
「グラム」
「なんだ」
「門外待機の根拠札はありますか」
「見せなかった」
だろうと思った。
札があるなら見せる。見せないのは、正面から根拠を作れないからだ。
リーゼも来ていた。埋葬側の布札を抱えている。
「この列、嫌な匂いがする」
「どんな」
「死んでから扱うつもりの匂い」
彼女は冗談ではなく言った。
埋葬の人間は、そういう順番の気配に鋭い。生きているうちに正規の列へ戻さない人間は、死んだ後の整理だけを楽にしたい側から見れば都合がいい。
アシュレイは女の子を見た。
熱で目が潤み、頬はまだ赤い。食当証を切っただけでは、この列から救えなかった。昨日の細い勝ちが無駄だったわけではない。だが、向こうが一段深く列を切り替えれば、同じ手では足りない。
列を戻すには、列の正体を書かなければならない。
待機列ではない。仮置き列でもない。
通常照会から外された人間を、責任の曖昧な寒さの中へ置いておくための列だ。
「セルマ、ここで診るしかない」
「分かってる」
彼女は薬箱を開きながら答えた。
「でも診るだけじゃ戻らない」
「ええ」
アシュレイは頷いた。
今必要なのは施療でも配給でもない。その前の権限だ。誰を列の内側と見なすかを決める紙。そこへ触れない限り、戻せない列は、何度でも作られる。
彼は門柱の脇へ寄り、こすれた木板を見た。
新しい掲示はない。根拠札もない。なのに列だけがある。こういう時は、紙の外で回っている指示を疑うべきだ。
戻せない列。
その名前は、向こうが付けたものではない。アシュレイが仮にそう呼んでいるだけだ。だが名前を付けると、見えるものがある。
列は自然にできたのではない。作られた。作られたなら、作った手順がある。
そして手順があるなら、どこかに紙がある。
その確信だけを持って、彼は門外の冷えた土を見下ろした。
ここへ立たされている十一人を、一人ずつ憐れむだけでは足りない。
列の名前を変えた紙まで辿らなければ、明日もまた同じ土の上に、別の十一人が立つ。




