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処刑台帰りの下級書記官は、死簿に載らない死を読む 〜辺境州で消される名前を紙と印で取り戻す〜  作者: ねむりネコ


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Episode 049: 正確すぎる分類

 マレナの仕事は、分類だ。


 封緘係という役目は目立たない。前庭で怒鳴ることもなければ、施療院で血を拭うこともない。だが分類の線を引く人間は、列の外側から一番深く人の行き先を決める。


 そのことを、アシュレイは側柵列の記録をまとめている最中に思い知った。


 マレナが持ってきた補助帳には、今日扱った札の仮区分が細かく並んでいた。配給遅延。施療継続候補。停留再配分候補。埋葬前照合可能性。封緘待ち。


 問題は、その細かさが現場のためではなく、切り分けのために使われていることだった。


「分類が正確すぎる」


 アシュレイが言うと、マレナは静かに肩をすくめた。


「それ、褒め言葉じゃないのは分かる」


「現場が助かる分類じゃありません」


「うん」


 彼女は否定しなかった。


「助けるための分類なら、施療か配給に寄せる。これは違う。あとで別勘定へ送る時に、言い逃れしやすい分類」


 そこまで自分で言えるなら、もう十分だった。


 帳面の見出しは綺麗だ。整っていて、よく出来ている。だが綺麗すぎる分類ほど危ない。人はそんなに綺麗に分かれないからだ。熱がある者は空腹でもあり、配給遅延の被害者であり、停留再配分の候補にされることもある。


 それを一つの枠へ押し込む時、必ず誰かの必要が削られる。


 セルマが補助帳を覗き込み、険しい顔になった。


「この子、施療継続候補になってない」


「でも昨日、熱があった」


「熱だけじゃなく、粥も足りてない。うちなら継続対象にする」


 マレナは薄く息を吐いた。


「封緘側では、熱が高くても配給優先に落とすことがある」


「なんで」


「施療継続にすると、外配り札や補記がついて面倒だから」


 面倒。

 その一語が一番正確だった。邪悪な美学ではない。現場を楽にするための小さな手抜きが、人を別の死へ押す。大きな悪意だけを敵にしていると、この種の腐りは見落とす。


 リーゼは帳面の端を指で叩いた。


「じゃあこの分類、正確なんじゃなくて都合がいいだけだね」


 マレナは目を伏せた。


「そう」


「あんた、今までそれをしてきた」


「してきた」


 返事はあまりに早かった。言い訳しないのは潔いが、同時に重い。自分の手がどこに触れていたかを分かった上で言っている声音だった。


 アシュレイは補助帳の中で、同じ子が日によって別区分へ落ちている箇所を探した。あった。二日前は施療継続候補、今日は配給遅延優先、明日は停留再配分候補。


 状態が変わったのではない。分類側の都合が変わっただけだ。


 《死簿照覧》が、その箇所へ冷たく光を返す。


 必要の分類ではない。

 処理の都合。

 責任の分散。


 言葉にすれば簡単だ。だが、その簡単さが恐ろしい。どの列も少しずつ正しく見える。施療へ回す理由もある。配給へ回す理由もある。停留へ落とす理屈も作れる。だからこそ、人は抵抗しづらい。全部が少しずつ本当だからだ。


 グラムは帳面を閉じ、短く言った。


「なら、こっちも分類を取り返すしかない」


「ええ」


 アシュレイは頷く。


「必要で分ける。都合ではなく」


 マレナが顔を上げた。


「そんな分類、帳面にできる?」


 難しい問いだった。


 必要は揺れる。人は一つの欄へ収まらない。だが、だからと言って都合のいい箱へ押し込んでいい理由にはならない。


「できます」


 アシュレイは答えた。


「少なくとも、今よりましな線にはできます」


 その日、彼は新しい欄の下書きを作った。


 熱。粥。寝床。同行者。戻り先。


 きれいな官庁帳面にはならない。けれど、現場で人を消しにくい分類なら、そういう欄になるはずだった。


 正確すぎる分類は、人を助けない。

 助ける分類は、少し泥臭い。


 そこを間違えると、帳面は一瞬で刃に戻る。


 アシュレイはそのことを、マレナの補助帳から逆に学び始めていた。

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