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女装剤(呪の章)  作者: 嬉々ゆう


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7/8

第7話 噂

リーフ村を訪れたラカの耳に、

ある“噂”が届く。


アライオルの名。

ナロライの名。

そして、旅人が語る“男性大魔女”の話。


信じたい気持ちと、

信じたくない現実。


ラカがずっと目をそらしてきた“真実”が、

静かに姿を現し始める。


第7話――噂は、時に真実より残酷。



 ・⋯━☞リーフ村☜━⋯・


 ・⋯━☞畑の中☜━⋯・


「そうね! だいぶ良くなったわ!」


「ありがとう! 魔女さま!」


「いえいえ」



 この日ラカは、最寄りの村にいた。

 この村は、かつては数件の小屋が並ぶ程度の、

 本当に小さな集落だった。

 

 元々は、故郷をなんらかの理由で追われ、

 流れ着いた者たちが集まり、

 肩を寄せ合い暮らしていた。

 土地は荒れ、川はせき止められ、人が暮らすには

 あまりにも過酷な環境ではあったが、ラカが来てから

 この集落は村へと発展。


 魔法薬の材料となる、

 「甘い美の生る甘い木」が植えられ、

 資源の無いこの地で、資源の代わりとなる

 「白野菜」の畑が耕され、今では数十人からなる

 そこそこな村となっていた。

 そして、アライオルの住む村でもあった。


 ラカは、この村に「魔法薬(ポーション)の精製」を広め、

 ポーションの売上で生計を立てるよう計らう。

 その甲斐あって、今ではラカの手も必要ないほどに、

 人々は暮らせるまでになっていた。


 今日は、ちょっと様子見のつもりで来たラカ。

 そんなラカに、ある「噂」が耳に入る。



「えっ?!……それ、本当なの?」


「ああ。たまぁ~にこの村にも来る行商人なんだが、

 その娘の名前が確かぁ……ナロライだったな」


「本当?! その人、今はどこに?!」


「ええ? ああ、この今朝方に村を出て行ったさ!」


「!!……まだ遠くへは行ってないかもしれない」


「ううん? その、ナロライがどうかしたのかい?」 


「昔、ちょっとね!」


「知り合いだったのかい?」


「いえ、名前だけ知ってるだけよ」


「……そうかい?」



 村人の男性は、ラカの言葉にただ「?」だった。

 それに、ラカもそれ以上はナロライとの関係は、

 何も語らなかった。



「あの……それと……その、ナロライって人、

 誰か男性を連れていなかったかしら?」


「男性? さぁ……いなかったんじゃないか?」


「……そう」


「なにしろナロライは、

 もう結婚して子供もいるからな」


「!……そうなの?! その相手は、魔女?」


「いやあ、人だったさ!」


「そう……じゃあ、彼じゃないのね」


「うん? なんだい?」


「え、あ、うぅん! なんでもないわ!」


「……?」



 どうやらナロライは、

 既にアライオルとは別れているようだ。

 そして、他の人族の男性と結婚したようだった。

 子供も、いるとのこと。

 そういえば、もうあれからもう8年が経つ。

 ホッとしたような、残念なようなラカだった。


 と、その時だった。



「おお、魔女さま! いらしてたんですね!」


「!……村長さん こんにちは」


「ああ、こんにちは

 いつも、ありがとうございます。

 あの頃の魔女さまを思い出すと、

 今の元気な魔女さまは嘘のようですな」


「……」



 村長が、そんなことを言う。

 「あの頃」と言うのは、ラカの元婚約者の

 「アライオル」のことであろう。

 この、村長は気遣ってのことなのか、

 それとも、まったくの無神経なのか。


 ところが、ラカにとって一番知りたい情報が、

 村長の口から飛び出す。



「そう言えば、旅人からこんな話を聞きましたよ」


「何かしら?」


「アライオルの噂ですな!」


「ええっ! アラの噂ですって?!」


「ううむ まあ、噂じゃからの?

 下手に魔女さまの耳に入れていいものかと……」


「話して! どんな些細なことでもいいの!」


「……そうですか? では……」



 村長の話は、こうだった。


 これまで、村へやって来る旅人たちは、

 かつては、この村に住んでいた男性大魔女、

 アライオルの噂をよくしていたという。


 所詮は、そんな旅人たちも他人事である。

 平気で噂をばら蒔いては、根掘り葉掘り聞く。

 なかには、「死んだ」という噂まであったらしい。


 当然、そんな噂もラカの耳にも入るのは必然。

 でもラカは、そんな噂など信じなかった。

 だって、ラカには微かながら感じていたから。

 たとえ、どこから漂うのか分からなくても。

 

 そう。アライオルの魔力を……


 村長の言う「旅人」というのは、実は間違いで、

 ある行商人の護衛として雇われた冒険者が、

 男性大魔女に会ったという話であった。

 ただ、かつての面影はなく、

 ひどく憔悴していたと言う。

 少し言葉も交わしたというが、

 殆どが行商人のナロライが、男性大魔女の代わりに

 話をしてくれていたとのこと。

 

 ナロライの話では……

 

 彼、男性大魔女は、魔女だけが罹患する病、

 「魔女喰らい」におかされていた。

 その魔女喰らいに罹患する前には、

 彼にも婚約者がいたそうだが、

 魔女喰らいとは、魔女にだけかかる病。

 もし、婚約者と同じ空間に居座れば、

 その相手の魔女にも、感染するのを恐れた。

 そして、婚約者から離れることを決意した……

 との話しだったそうだ。



「そんな……嘘……でしょ……」


「うぬ? どうしたのかね魔女さま?」


「はっ!……い、いえ! なんでもないの!」


「……そうですか?」


「あの……私、ちょっと用事を思い出したので、

 今日はこれで失礼するわね!」


「「えっ?!……魔女さま?」」



 突然、そう言って箒に乗って去っていくラカ。

 その瞳は、うっすらと涙に濡れていたように見えた。



 ・⋯━☞ラカの家☜━⋯・


「どうして……アラ……」



 ラカは、家のベッドで枕に顔を埋め、

 外に声が漏れないように、

 初めて大声で泣いた。




「どうして言ってくれなかったのぉ?!

 どうしてぇ!! アラ!! どうしてぇ!!」



 魔女は、涙を見せないもの。


 この日、ラカは一晩中泣いた。

 声が枯れるまで、涙が枯れるまで……


 でも、その涙を見た者は、一人もいなかった。





読んでくださり、ありがとうございます。


ラカが初めて“涙”を見せた回でした。


アライオルが姿を消した理由。

ラカを守るために離れたという事実。

そして、ラカが知らなかった“本当の痛み”。


噂はただの噂ではなく、

ラカの心を深く刺す真実だった。


次回、ラカはこの真実とどう向き合うのか。

物語は、さらに深い感情へと進んでいきます。

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