第2話 疑惑から確信へ
アライオルが来なくなって、四ヶ月。
魔女にとっては一瞬でも、ラカにとっては長すぎる時間。
胸の奥に生まれた小さな違和感は、
やがて“疑い”へと形を変えていく。
信じたい。
でも、信じきれない。
これは、ラカが初めて“恋の痛み”を知る物語。
そして、疑惑が確信へと変わる瞬間。
・⋯━☞ラカの家☜━⋯・
「……そう言えば、アラったらもう四ヶ月は
来てくれていないわね……」
アライオルが最後にラカに会いに来たのは四ヶ月前。
人族の感覚でいうところの約一週間ほどであろうか。
流石に一週間(四ヶ月)も会えなかったら寂しくなる。
ラカがちょうどそう思っていた頃だった。
「ラカ!」
「アラ?! どうしちゃったの?
もう……ふんふん……四ヶ月も会ってないわ」
(ふんふんと、指折り数えるラカ)
「そ、そうだよね うん すまない……」
「……? 何かあったの?」
「ん!……いや、別に何も無いよ?」
「……そお?」
「……あ、ああ」
このときラカは、アライオルに対して、
これまで300年以上生きてきたなかでも、
未だかつてないほどに、心に乱れを感じた。
そして、その、言葉では言い表せられない
モヤモヤした不安な気持ちは現実のものとなる。
••✼••次の日の朝••✼••
「アラ? アラー! どこー?」
翌朝ラカは、アライオルの姿を探した。
だが、アライオルの姿はどこにも無かった。
「……変ね?
いつもなら4〜5日は居てくれるのに……」
ラカは、アライオルの痕跡を探った。
アライオルの温もり、香り、残存魔力。
どれも、朝早くには家を出たと示している。
「大丈夫! ラカ、大丈夫よ!
アラを信じなさい!」
ラカは、自分にそう言い聞かせた。
季節が三度巡り、景色も移り変わり、
花は枯れ、木の葉も枯れ落ち……
やがて、一年が過ぎた。
信じたい。でも、信じきれない。
信じるには、あまりに長い。
当然ながら、アライオルの温もりも、
香りも、魔力さえも、完全に消え去っていた。
「アラ……どうして?」
ラカの胸の中でのモヤモヤが、
いつしかどうにも抑えられないほどになっていた。
「まだ、間に合うかもしれない……」
ガタン!……パタパタッ……
ラカは、らしくなく慌てて家を出た。
・⋯━☞最寄りの町上空☜━⋯・
ラカは、家からほど遠くなく離れた町の上空へ、
箒に乗ってやって来た。
一応、念の為に「認識阻害魔法」を施して。
ヒュウゥウゥ……
「見えてないわよね? 誰にも見付からないかしら?
もし見つかったら、アラを探すどころじゃないもの」
ラカは、この国では大変有名な大魔女であるため、
一目見たいと近寄る人が多い。
なので、下手に姿を晒したなら、人々が寄り集まり、
アライオルを探すどころではなくなる。
幸い、空を飛ぶラカにきづく人はいないようだ。
「!……近いわね」
その時、ビン!と感じた魔力。
それこそが、アライオルの魔力であった。
アライオルが近くにいるのは間違いなかった。
「そうだったわ! 気配を消さなきゃ……」
シュウゥウゥ……
ラカは、魔力を抑える。
ラカの言う「気配を消す」というのは、
魔女にとっては、「魔力を抑える」ことである。
魔女同士なら、互いの魔力を感じることが可能。
つまり、アライオルにもラカの存在を
察知するのは、容易いということであった。
「……ん? 人族の女?
あんな、年端もいかない娘なんかと……」
見ると、アライオルは人族の女性と、
二人だけになっている。
年齢としては、28~30歳くらいだろうか。
ラカの言う「年端もいかない」とは、
たいがいは年齢の幼い場合に使うはず。
だが、ラカは大魔女である。
そんなラカにしてみれば、二十数年しか生きていない
人族の女性相手にすれば、そう表現するのも頷ける。
このときラカの中で、何かが「プツリ」と弾けた!
「辛抱の糸が切れた」音だったのだ。
ラカは、魔力を隠すのも忘れて、
二人の側へ降り立った。
シュタッ!
「アライオル!」
「「?!……」」
「その娘は、だれ?」
「ラカ!!……」
「ま、魔女まさ?!」
「貴女は、黙ってて」
「!……はい」
このときのラカは、人族の女性からすれば、
それは恐ろしく見えただろう。
怒りで髪は舞い上がり、赤い瞳は見る者を震えさせ、
放たれる膨大な魔力は、魔力の微小な人族でさえも、
圧迫感を感じるほどであった。
だが、そのとき!
「ラカ! 待ってくれ!
話を!……話を聞いてくれ!」
「この状況で、何を話すと言うのかしら?」
「!!……だ、だから、その……」
そう言って、アライオルは人族の女性を見る。
「アライオル……いいの」
「いや、しかし……」
「私にはもう残された時間が無いの……」
「ングッ……」
「?……」
そう言うと、人族の女性は、アライオルの袖を
ギュッと掴み、目に涙を浮かべた。
「ふぅん……何か訳がありそうね?
聞かせてくれるかしら?
うぅん! 私には聞く資格がある
そして貴女には、話す責任がある」
「!……は、はい」
「君……」
人族の女性は、とある下級貴族の娘らしい。
彼女の父親である子爵の統治する地は貧しく、
上級貴族との政略結婚にて、
投資してもらうしか、
今この時を乗り切ることが難しいとのこと。
彼女は、元々侯爵家へ嫁いだ過去があるが、
その侯爵が運悪く事故死してしまい、
弟が跡を継いだのだが、元々妻子持ちの侯爵の弟。
彼女は侯爵家を追い出されてしまったそうだ。
その時に助けてくれたのが、アライオルなのだとか。
アライオルの計らいで、侯爵の愛人としても
受け入れる話にもなったのだそうだ。
大魔女アライオルが間に入れば、
侯爵とはいえども、無闇に無視はできない。
でももう、無理だった。
彼女にはもう、そんな心にゆとりなど無かった。
そんな過去もあり、彼女の年齢からして遅い婚姻だが、
他に解決策が無いのだそうだ。
なので、この一年後には、伯爵家へ嫁ぐらしい。
人間の貴族社会では、よくある話である。
だが……
「あらそうなの?
でも、死ぬわけではないわよね?」
「「えっ?……」」
「私、てっきり貴女の話の冒頭からして、
貴女が不治の病か何かで、
死んじゃうんだと思ったわ!」
「!……そんな、魔女さま……」
「ラカ! なんてことを!?」
「なら、好きにしなさいなっ!
どのみち、私たちは魔女、そして貴女は人間……
同じ時間を生きられない存在なのよ?
たかが一年待つくらい、どうってことないわ!」
「ラカ……君という人は」
「……」
ラカは、わざとそう言ったのだ。
ラカの胸の奥が、刃が刺さるように痛む。
なぜ、心にも無いことを言ってしまったのか。
本当は、今すぐ戻って来てほしい。
「行かないで」と言いたかった。
でも……
本当は、とても心優しい魔女ラカ。
そんな心無い言葉が、本気なはずがない。
普段のアライオルだったなら、
ラカの気持ちにすぐに気づいたであろうが、
この状況のなか、ラカの本当の気持ちに、
寄り添う余裕などは、
今のアライオルには無かったのだった。
読んでくださり、ありがとうございます。
ラカの胸に生まれた小さな不安は、
もう隠しきれないほど大きくなってしまいました。
信じたい気持ちと、
信じられない現実。
アライオルの変化に、
ラカはどう向き合っていくのか。
次回、二人の距離はさらに揺れ動きます。
よければ、続きを見守ってください。
アラーオルの名は
「愛ゆえの嘘(A Lie out of Love)」
⬇
ア ラー アウト オブ ラブ
⬇
略して、アライオル




