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初恋は蜜の味だと思ったら大きな間違いだよ?  作者: 櫻木サヱ
私だけじゃない

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8/8

それに気づいたのは、

本当に些細なことだった。


昼休み、教室の隅でスマホを見ていた時。

耳に入ってきた会話。


「悠人ってさ、優しいよね」


「分かる。誰にでも」


その言葉に、

指が止まった。


誰にでも。


聞き流せばいい。

今までなら、そうしていた。


でも、その一言は、

胸の奥に、嫌な形で残った。


「この前もさ、放課後一緒に帰ってたよ」


「え、柚月じゃない子?」


別の名前。

知らない名前。


笑い声。


私は、画面を閉じた。

閉じたのに、

頭の中は、音でいっぱいだった。


放課後、

いつものように通知は来なかった。


それだけで、

不安が増幅する。


今までは、

「来ない日もある」で済ませられたのに。


今日は、理由を探してしまう。


忙しいのかもしれない。

たまたま、かもしれない。


でも、

誰かと一緒にいる姿が、

頭から離れなかった。


翌日。

悠人は、いつも通りだった。


「おはよう」


何事もなかったみたいに、

軽く手を振る。


私は、同じように返すことしかできなかった。


「昨日さ」


言いかけて、やめる。


何を聞くつもりだったんだろう。

誰と帰ったの?

どういう関係?


どれも、

聞ける立場じゃない。


「ん?」


悠人が首を傾げる。


「……なんでもない」


それで終わり。


その距離感が、

急に、怖くなった。


昼休み、紗季が言った。


「ねえ、柚月」


低い声。


「悠人のこと、気になってるでしょ」


一瞬、世界が止まる。


「別に」


反射で否定する。


「否定早すぎ」


ため息混じりに言われて、

逃げ場がなくなる。


「優しい人ほど、気をつけた方がいいよ」


紗季の言葉は、

忠告だった。


でも、その時の私は、

それを「邪魔」に感じてしまった。


「分かってる」


強く言いすぎた声に、

紗季はそれ以上、何も言わなかった。


後悔は、

少し遅れてやってくる。


その夜、

ようやく届いた通知。


『今日、返信遅れてごめん』


それだけ。


理由は、書いてない。


『大丈夫』


送った後、

胸がざわついた。


大丈夫なんて、

思ってない。


『最近、忙しくて』


言い訳みたいな言葉。


それでも、

責める資格はない。


私は、

「私だけじゃない」

その事実に、

少しずつ慣れようとしていた。


慣れなきゃいけない関係を、

続けていること自体が、

もう間違いだったのに。

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