当たり前
それから、連絡は自然に続いた。
おはよう、も。
おやすみ、も。
必ずあるわけじゃない。
でも、どちらかが思い出したように送る。
授業の愚痴。
テストの話。
特に意味のない写真。
毎日じゃない。
だからこそ、途切れない。
その曖昧さが、ちょうどよかった。
気づけば、悠人の名前は
スマホの上の「いつもあるもの」になっていた。
朝、目が覚めて最初に確認する通知。
寝る前に、最後に見る画面。
いつの間にか、
いない時間の方が、落ち着かなくなっていた。
「ねえ、最近楽しそうじゃない?」
紗季に言われて、
私は一瞬だけ言葉に詰まった。
「そう見える?」
「うん。なんか、柔らかい」
その表現が、妙に刺さる。
柔らかい、なんて。
私はずっと、角を立てないように生きてきただけなのに。
「別に、何もないよ」
また、それだ。
同じ否定を繰り返すたびに、
自分の中で何かがズレていくのが分かる。
昼休み、スマホが震える。
『今日、部活ない?』
『ないよ』
『じゃあ、少し話せる?』
それだけで、心臓が跳ねた。
話す。
ただ話すだけ。
なのに、
断る理由が、見つからない。
放課後、校舎裏。
人通りの少ない場所。
「ありがと、来てくれて」
悠人は、いつもと変わらない顔で言った。
「急に呼び出してごめん」
「大丈夫」
そう答えながら、
この場所を選んだ意味を、
考えないようにした。
「柚月と話すの、楽でさ」
また、その言葉。
楽。
落ち着く。
一緒にいていい。
どれも、
好きとは違う。
でも、拒めない。
「なんで?」
気づいたら、そう聞いていた。
「なんで、私?」
一瞬、悠人が困ったように笑う。
「理由いる?」
その答えが、すべてだった。
理由のない近さ。
名前のない関係。
私は、それ以上聞かなかった。
聞けなかった。
聞いてしまったら、
答えが出てしまう気がしたから。
別れ際、
悠人はいつも通り手を振った。
触れない。
抱きしめない。
何も越えない。
なのに、
胸の奥は、完全に持っていかれていた。
帰り道、
スマホを握りしめながら、
私ははっきり自覚していた。
これはもう、
「少し」じゃない。
「当たり前」になった時点で、
もう逃げ道はなかった。
それでも、
彼は何も言わない。
私は、何も聞かない。
この関係は、
曖昧なまま、
優しい顔で続いていく。
壊れる準備を、
全部整えたまま。




