表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋は蜜の味だと思ったら大きな間違いだよ?  作者: 櫻木サヱ
勘違いは、優しい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/8

通知

その日の夜、スマホを置いたまま、私は何度も画面を見ていた。


何かを待っているわけじゃない。

そう思おうとしているのに、

手は無意識にスマホの位置を確認している。


お風呂に入っても、

ドライヤーをかけていても、

画面が光る気配に、神経だけが先に反応する。


……馬鹿みたい。


ベッドに腰を下ろして、深く息をついた。

今日は、ただ隣を歩いただけだ。

それだけ。


そう、言い切ろうとした瞬間。


通知音が鳴った。


心臓が、はっきりと跳ねた。


画面に表示された名前を見て、

一瞬、息をするのを忘れる。


悠人。


指が震えるのを、誤魔化すようにスマホを握り直す。


『さっき言い忘れてたけど、今日ありがと』


たったそれだけの文章。

スタンプも、絵文字もない。


それなのに、

胸の奥が、じんと熱くなった。


『ううん、こちらこそ』


送信ボタンを押すまでに、

数秒、悩んだ。


早すぎないかな。

重くないかな。

変じゃないかな。


送ってしまえば、

取り消せないのに。


でも、画面はすぐに切り替わった。


『今、何してる?』


質問。


それだけで、

距離が一段、近づいた気がした。


『家だよ』


『そっか。俺も』


それだけのやりとり。

会話と呼ぶには、あまりにも短い。


なのに、

画面を閉じる気になれなかった。


沈黙が続く。

数分。

たったそれだけなのに、長く感じる。


『柚月ってさ』


名前が出るだけで、

胸がざわつく。


『あんまり自分のこと話さないよね』


どう返せばいいか、分からなくなった。


話さないわけじゃない。

話すほどのことが、ないだけだ。


……そう思ってきた。


『そうかな』


『うん。でも、そこがいい』


指が止まった。


いい、って。

それは、褒め言葉なのか、

ただの印象なのか。


『静かなところ、落ち着く』


まただ。


安心させる言葉。

でも、何も決めない言葉。


『ありがと』


それしか返せない自分が、少し悔しかった。


しばらくして、

『そろそろ寝る』

というメッセージが届いた。


『おやすみ』


『おやすみ』


画面を閉じても、

余韻だけが残った。


通知音が鳴らない世界が、

急に静かすぎる。


天井を見つめながら、

私はスマホを胸に抱えた。


連絡先を知っただけ。

言葉を少し交わしただけ。


それだけで、

一日の輪郭が、こんなにも変わる。


怖い。

でも、少し嬉しい。


この気持ちを、

まだ名前で呼びたくなかった。


「大丈夫」


誰に聞かせるでもなく、呟く。


これは、ただのやりとり。

ただの通知。


そう言い聞かせながら、

私はその夜、

スマホを手放せないまま眠った。


勘違いは、

音もなく、深く潜り込んでくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ