こたつの中から
一人暮らしを始めて、最初の冬。
帰ったら、こたつの中から手が飛び出していた。
ピアノを弾くように、あるいはキーボードを打つように軽く握られた十本の指。肘から先しか見えないが、なんとなく若い男の手だと感じた。触ってみようと思っておそるおそる、そのに指を伸ばそうとしたら「手」はさっとこたつの中に引っ込んでいってしまった。
文字通り「手を引いた」な、と思った。
また別の日。帰ったら、こたつの中から足が飛び出していた。
黒いタイツを履いた、ほっそりとしていて色っぽい足だった。その美脚っぷりに、思わず見とれていたら「足」はこちらを蹴飛ばすように跳ね上がりすっとこたつの中に引っ込んでいってしまった。
「足」に足蹴にされたような気がした。
それからまた、数日が経った頃。帰ったら、こたつの中からおっさんが飛び出していた。
仰向けに寝転んだ、見知らぬおっさんだった。おっさんはこちらを見ることもなく、すっとスライドするようにこたつの中に引っ込んでいってしまった。
――いや、ちょっと待てぇっ!
手、足までなら幽霊や怪異の類としてまだ納得できる。だが! がっつりおっさんが出てきたらさすがに気になる! っていうか勝手に人のこたつを使うな! 火事になったらどーする!
怒りのままに布団をめくり、中を覗き込む。
すると――こたつの中に並んでいた老若男女の首が、一斉にこちらを向いた。
大勢の視線を浴びて、咄嗟にさっと布団を閉じる。
……とりあえず、別の暖房器具を買おう。
冬だというのに、だらだら冷や汗をかきながらそう思った。




