6話/業ノ星
「…業は巡る。今、私は彼の背負った業を貰ったのさ。」
黒い炎を纏った女が言う。
「お前が…業星か?」
「いかにも、いかにも。私が業星さ。」
「何しに来やがった?」
「別に?ただ死にそうだった友達から業を徴収しに来ただけさ。」
「業は巡る。私がたった一度引き金を引いただけで、多くの亜人を殺した者が死んだ。まぁ、イドは残念だったけどね。」
業星は飄々とした態度で語る。まるで人の死を語っているとは思えないほどに。
「君は瀕死の獣を飼っているみたいだけど…。生憎今日は、"他人の大切なものを壊す"業を愉しみたい気分じゃないんでね。」
「…。」
「今日は英雄になりたい気分なのさ。英雄とは業を背負う者だからね。今日の所は勘弁してあげるよ。」
「…話を。話を聞いてくれないか?」
「良いの?君の飼う獣は、そろそろ死んじゃいそうだけど…。」
ハントの顔色が変わる。
「業が巡る限り、きっとまた会えるさ。またその時に会おう。」
そう言うと業星は、建物の屋根を飛び移りながら姿を消した。
「…あ。」
ハントは呆然と、業星の消えた方向を見つめていた。
そして。
サンゲンとローラの顔を思い出し、駆け出した。
「…あ、ハントさん。」
「どうだ?2人の容態は?」
「2人共に緊急の処置を施したんですが…。サンゲンさんが…。」
「サンゲンがどうしたって?」
「…こんな事言うのも憚られるんですが、本来死んでいてもおかしくない傷なんです。でも、こうして息をしていて…。」
ハントがサンゲンを見る。
脳が一部露出するほどの傷を負っている。それにも関わらず、息はローラよりも安定していた。
「…これは、どういう事なんだ?」
「分かりません…。何せ馬人族自体、知られていることが少ないので…。」
「…とにかく、ギルド支部に連れて行くぞ。」
ギルド支部、医療室。
再び訪れたこの部屋は、一時騒然としていた。
何せ、どう見ても死んでいる患者が、目を覚ましたのだから。
「ううん…ここはどこであるか?あの者たちは…。」
「…あ、目ぇ覚ました。」
「はっ!ハント君!一体あの者たちはどうなったのでありますか!」
「安心しろ、両方ぶっ殺してやったから。」
「あぁ…そうなのであるか…。」
「私は少し疲れたのである。少し、もう少し寝たいのである…ぐう。」
そうして再び眠りに落ちたサンゲン。
「一体なんなんだ、こいつは…。」
数十日後、ローラとサンゲン、ハントの傷は回復し、再びギルド支部に集結した。
「いや、おかしくない?明らかに私より傷深かったよね?なんで私より先に立ち直ってるのよ…。」
「知らないのであるか?馬人族は傷の治癒も早いのである!」
「聞いたこと無いわよ、そんなの…。」
「まぁまぁ、とにかく。みんなまた集まれてよかったじゃないですか。」
「まーた民家崩したとかで、報酬は減ったけどな。そいつも治療代で吹っ飛んだしよ。はぁ…。」
ハルトは帳簿に治療代を書き込みながら、暗い顔をする。
「僕がもっと、しっかりしていれば。」
「あ?なんか言ったか?」
「いやいや、なんでもありませんよ。」
ハルトは取り繕ったような明るい顔をした。
「さて、治ったってんならさっそく次の依頼だ。当面の方針として、俺らは業星を追う事にした。」
「ん?それはまたなんででしょう?」
「あいつが引き金になってる重大事案は多くてだな。現に今受けられる依頼は亜人絡みばっかりだ。」
「へぇ、そうなんですね…。」
「…私らは、一緒に行動しない方が良いんじゃない?また足を引っ張ってしまうかも。」
ローラが俯く。
「いや、ここんところギルド支部周辺でもそういう事案が起きてんだ。ほっとくのは逆に危ねぇだろうよ。」
「…それに。こんな事案を片付けられんなら、あいつも安心するだろうからな。」
「む?"あいつ"とは誰の事であろうか?」
「あぁいや。何でもねぇよ。」
「ん~?何でもないでは済まさせませんよ~?」
ハルトがにやりと笑う。
「いやいやいや、何でだよ?」
「だってハントさんが僕ら以外の誰かを意識するなんて初めてじゃないですか。それに、もっと貴方の事を知りたいですし。」
「それは私もなのである!」
ハルトとサンゲンがハントを問い詰める。
「だーもううるせぇな!あーっと、そう家族!家族の事だよ!」
「「家族?」」
「俺には置いて来た妹がいんだよ。危険とは無縁の大都市に住んでるな。」
「へぇ…。」
「じゃあ、今まで汚れ仕事とされる依頼ばかり受けていたのも?」
「あぁ。妹を養う為だ。あいつは良い奴なんだが、少々欲張りでな。兄として、金は稼いでやらねぇと。」
「すごいであるな!私には家族がいないから分からないのであるが!」
「…僕も、ですけどね。」
「あっ…。」
場が静まり返る。ローラが本のページをめくる音だけが静かに響く。
「…私は。」
サンゲンが口を開いた。
「私は、記憶喪失というやつなのである。家族の記憶も、何もなく。気づけば森で寝転がっていたのである…。」
「…へぇ、道理で人工浮遊大陸の件を知らなかったわけね。」
「僕は、家族が盗賊に殺されて。僕がみんなを救えなくて…。」
「…マジかよ。大丈夫なのか?」
「いえ、その後人生の師とも呼べるお方に出会ったので、大丈夫です。ただ、僕のような人が少しでも減ればいいので…。」
空気はますます暗くなる。
「…さぁ!過去を振り返るのは一旦やめにしようぞ!」
サンゲンが明るく言った。暗い空気に光明を差すように。
「今は業星、という者をひっ捕らえる事に集中し!前を向いて歩もうではないか!」
「…あぁ、そうだな。」
「僕も賛成です。」
「私も。」
こうしてサンゲンのおかげで、再びチームは前を向いた。
「さて、次の依頼は…。」
「失礼する。ハント・レイダーとそのチームメンバーだな?」
聞き慣れない声が響いた。
「どなたでありまするか?」
「私はギルド支部長のクレヴ・シュートと申します。皆さんに受けてもらいたい依頼があり、参りました。」
「あぁ、支部長サマが俺らに何の用だよ?」
「先ほどハントさんが業星と接触した、との連絡を受けたのですが…」
「そうなのであるか!?」
「あぁ、いや、まぁな…。」
「業星本人と接触したメンバーと言うのは大変貴重です。ギルドとしても、業星の存在には悩まされておりまして…。」
「そこでです。業星と深く関わりを持つ人物の存在を突き止めました。その人物を捕縛し、尋問を行っていただきたいのです。」
「…捕縛する上に尋問だぁ?面倒な任務を寄越すなぁ。」
「その代わり、報酬は弾みます。それに現時点でギルドが掴んでいる業星に関する情報も提供しましょう。これでどうですか?」
「…ちっ、面倒だな…。」
「どうします、ハントさん?回復したばかりですし、また交戦が考えられる任務に挑むのは…。」
「…分かった。受けよう。その任務。」
「…えっ?」
「業星、あいつとはさっさと話したい事があるんでな。できるだけ早くだ。」
ハントはどこか憔悴の見える表情で話す。
「あ、あの…大丈夫であるか…?」
「大丈夫に決まってんだろ。とにかく引き受けた、その任務。」
「…ご協力、感謝します。」
そう言うと、支部長は去り際に、
「…業星と何かギルドに不利な交渉をした場合、出て行ってもらいますからね?」
睨みつけるように、釘を刺す。
(…さっさと、業星を見つけねぇと。でないとあいつが…あの野郎が安心できねぇだろうからな。)
ハントは拳を握りしめ、心の中でそう誓った。




