4話/業
「ハント君!おはようなのである!!!」
「うるせぇ!まだ4時だぞ!?」
「む?馬人族ではもう寝坊まである時間帯であるが…。」
「あはは、僕らは人間とエルフですからね…。」
ローラは無言で枕を頭に被った。
チームを結成して寮を借りてから、数日が経った。
朝一番から騒がしい声が響く。
勝手に家計簿をつけ始めたハルト、
本を大量に買っては椅子を占領して読み耽るローラ、
そしてこうしてリンゴを齧りながら朝起こしに来るサンゲン…。
はっきり言って、調子が狂うなんてものではなかった。
「はぁ…。」
「あ、溜息。」
「共同生活を開始してから20回目ですね!」
「数えてんじゃねぇ!」
家事をしながら大声で答える。
「それに今日は初仕事の日だろ、気ぐらいちったぁ引き締めろ!」
「あはは、引き締めてますよ。あ、ここリンゴ代抜けてる…。」
「うむ!もひろんひひしへていふほへはる!」
「…。」
調子どころか気が狂いそうだった。
「とにかく、今日受けるのは連続亜人殺傷事案の犯人を対処すること。いいな?」
「にしても、なんで初めからそんな任務を受けたんですか?簡単な任務からでもいいのに…。」
「それも一理ある、が。そもそも俺ぁ一人でやるつもりなんだ。最悪お前らは見てるだけでもいいんだぜ?」
「む、そうはいかないのである!亜人の殺傷など…許せないであるからな。」
「それを言うなら僕だって!人殺しなんて許せませんよ。」
「…私はそこまで興味ないけど、チームとして仕事しない訳にはいかないわ。」
「…まぁ、こうなるだろうな。」
そうして21回目の溜息を吐いた。
ハルトがまた正の字を書き足す。
初仕事の時間がやってきた。
「サンゲン、リンゴは置いていけ。」
「む、しかし非常食として…。」
「いいから置いてけ。」
ハントはサンゲンを諫めながら支度を整える。
(…待ってろよ。こいつが上手くいけば…)
誰にも聞こえぬよう、ハントは心の中で呟いた。
「むむ…寂れた町であるな…。」
「ま、こんなもんだろ。数年前に開発が止まってるからな。」
現場は寂れた、貧しい町だった。人通りも少なく、建物も古びている。
「とにかくここには亜人のみを標的とする殺人鬼が潜んでやがる。亜人のお前らがいる以上、常に集団行動で行くぞ。」
「分かったのである!/はーい。」
「…ちなみに一個、聞いておくんだけど。」
「何だ?」
「まさかエルフの私をチームに入れたのって、囮にするつもりで入れたんじゃないわよね?」
「ま、まさか私のことも…!」
「んな訳ねぇよ。最悪俺一人で片づけようとしてた事案だからな。」
「ふーん…。」
「それなら良かったのである!」
「やっぱりハントさんって、周りから思われてるより悪い人じゃないですよね?」
「…どうだっていいさ。」
町の中央に向かいながら雑談を交わす四人。
「へぇ、あいつらが自由にしていい奴ら?」
「おい、狙えるのはあの獣人とエルフだけだ。忘れんなよ?」
「はいはい、分かってるっての。」
…不穏な会話を埋めてしまうほどに。
「よし、まずは聞き込み開始だ。ローラは俺と、サンゲン、お前はハルトと行け。二手に分かれるぞ。」
「あれ、分かれるんですか?危なさそうですけど…。」
「安心しろ。お前の実力は俺が認めてるんだ。お荷物一人背負おうと対処できるだろう。」
「お荷物とは何であるか!」
「お前が言ってたんだろ。三元回帰?だかを使うには負荷が大きいって。」
「うむ、そうであるが…。」
「正直、それを使わないお前が今回の事件の犯人とやり合える気がしねぇんだよ。」
「そんなことはないのである!ほら、今日も朝リンゴを食べたおかげで元気は満タンであるし…。」
「とにかく、二手に分かれて行動だ。ハルト、信頼してるぞ。」
「私のことも信頼して欲しいのであるが…。」
「…わかったわかった、信じてやるよ。ただ足だけは引っ張るなよ?」
「勿論なのである!」
「…私は信頼してないって事?」
「ああもう面倒くせえな!お前も信頼してるさ。だが、今回の相手が前回と同じような手口となりゃ特に不安だからな。俺がついてやる。」
「…ありがと。」
ローラが小さく微笑んだ。
こうして聞き込みを開始した。
「この周辺で起こっている殺傷事件なのであるが…。」
「何か手がかりを知っていませんか?」
「…何でも、知っていることはないの?」
「あるんならさっさと、全部言ってくれ。」
数人には首を振られた後、一人奇妙なことを言う人物に出会った。
エルフのような尖り耳を持つ、人間の男性だった。
「僕…一度誰かに襲われた事があったんです。顔は良く見えなかったけど…出会うや否や、鉈を振り回してきて…。」
「当たったんですが、そのはずなのに…全く傷がつかなくて。そしたら逃げて行ったんですよ。何だったんだろう…。」
「…もう聞き込みは十分だ。あいつらと合流するぞ。」
「いいの?まだあんまり聞けてないけど…。」
「予想通りだったんだよ。見事にな。」
ハントが不敵に笑う。
「…何を言ってるんだか。」
そうして再び町の中心の広場に集まり、ハントは話した。
「いいか?この前ローラを襲った奴が言った、『業星』って奴。これがこの事件の黒幕だ。」
「ふむ!そうなのであるか!ならばその業星という者をひっ捕らえればよいのであるな?」
「待て、奴はそんな迂闊じゃない。多分、業星と契約して、武具だけ貰った小物野郎なんだろう。」
「つまりローラさんを襲った人と同じ手口、って事ですか?」
「ああ。奴の能力は、『人でないもの』に対して強烈な力を発揮する。致死性の烙印を一瞬で埋め込めたのも、そういうことなんだろう。」
サンゲンとローラが顔を見合わせる。
「でも、肝心の犯人の情報は結局分からずじまいじゃないかしら。」
「そこでだ。俺にいい作戦がある。人間じゃないとできない作戦がな。」
そうしてハントは、ハルトの方をちらっと見る。
「この時の為に、持ってきたもんがあんだよ。」
そうしてハントはサンゲンとローラを宿に避難させると、尖った付け耳と大きな付け鼻を取り出した。
「これは…何です?パーティグッズのように見えますが…。」
「いいか、あいつらは人外だけを狙うんだ。しかし人間に似た人外なんて沢山いるだろう?」
「そこでだ。『人間に似つつ、明らかな特徴を持つ』オークに成りすますんだよ。」
「…こんなので、本当に上手くいくんですかね…?」
ハルトが付け耳を手に取り、不安そうに眺める。
「いいから、ほらさっさと付けろ。」
「はい…。」
「そしたら…低い声で…。低い声で話すんだ…。オークは声が低いからな…。」
「はい…ゲホッ、ゴホッ…分かりました…。」
ハルトが無理やり声を低くして、むせる。
そうして夜が更けた頃。
「!来たぞ…。」
「本当に来ましたね…。でも、数が多くないです?」
「いいか?あいつらは人間に攻撃を与えられない。だから安心して戦うんだ。」
そして集団が近くに寄って来た刹那。
「オラァ、こんな簡単に騙されやがってよォ!てめェら人間なら脳みそ使えってんだ!」
ハントが飛び掛かる。
ハントは反撃を受けないことを想定し、集団の中央で大剣を振り回す。しかし。
「隙あり!」
一人の剣が、ハントの腹を切り裂いた。
「何ィ!?」
ハントが動揺した隙に、二、三人が短剣で襲いかかる。
「くっ…!」
脚、腕に刃が食い込む。
「クソッ…何だ、お前らはよォ!」
ハントは再び大剣を持ち上げると、臨戦態勢に入る。
「何してるんですか…ハントさん。」
ハルトも太刀を構え、集団に切り込む。
「こんな人たち、貴方が苦戦する相手じゃないでしょうに…。」
「うるせぇ…クソ、まさか読みが外れるとはな…。」
「だが!てめぇら全員、狩り奪ってやるよ!!!」
ハントは大剣に気脈を込め、
「乱気脈、"壊奔剣"!」
剣を振るう。
うねるような不規則な流れを纏った剣は、乱れた剣筋を生んだ。
しかしそれは正確に、集団の多くを切り裂き、吹き飛ばす。
ハルトもまた。
「清水脈、"蒼影"。」
太刀筋が月の光を反射し、一瞬蒼く光る。
そのまま、胴を断った。
ものの数分で、二人は集団を制圧した。
ハントが生き残りの一人を問い詰める。
「…まさかとは思うがよ、お前誰かに命令されてここに来たんじゃないだろうな?」
「そ、そのまさかでございます!」
盗賊が震えながら答える。
「私はただの盗賊です。イド・ハウルとミース・マイルという者たちに命令されて、人外のフリをしている奴らを襲えと…だからどうか、私の命だけは…!」
「…マズい。」
ハントの顔色が変わる。
「最悪だ…!」
「まさか…!」ハルトも気づく。
ハントは盗賊を投げ捨てると、宿へと駆け出した。
「サンゲンとローラが危険だ!」




