3話/緊急任務
また、チームを追い出されてしまった。
「なんでいつも、こうなのかしら」
エルフの女性、ローラは、ギルド支部の外壁に背を預けた。
ローラは手を合わせ、掌に小さな蝶を編んだ。
仮初めの命。それでも確かに、息吹を宿している。
「ああ自然よ、貴方だけが私を分かってくれる。」
エルフのみに呼応する"地脈"。それが彼女の唯一の親友だった。
だが、その蝶は。
「大丈夫なのでありますか!!??」
突然の轟音に、かき消されてしまった。
ローラは無言で蝶の消えた掌を見つめた。
「ハント君!ハルト君!もはやあと2日以内でメンバーをもう一人見つけねばならないとは…」
「うるせえな!いちいち大声出してんじゃねえ!」
「あのーお二人とも、ここはギルド支部の中なので大声は…」
全くもって煩い。
だけど、ローラは注意する気にもなれなかった。ただ頭を抱えるだけ。
「あ、君、ごめんね…」
声の主の一人、あの朗らかそうな青年が近寄ってくる。
「何?」
「悪い人たちでは…うん、多分ないと思うから。許してやってください。」
「あぁそう。」
素っ気なく返す。
「ところで君、チーム入ってるって言ってたけど、メンバーは?」
「人の事情に首を突っ込まないでくれる?」
悪態をついて返す。
「あっ…。ごめんね。」
「…。」
(私もギルドを追放されそうなのに、何を言ってるんだか。)
(しかもちょうどあと一人見つけないと、って言ってたのに。)
ローラは頭を抱えた。
「でも依頼、受けないと…今月の生活費…。」
「…あ、これいいかも。」
そうして一人でもできるような、コソ泥の捕縛任務を受けた。
「あと1日以内にもう一人とは…もう猶予がないではないか!」サンゲンが焦った声を上げる。
「はぁ…本当にどこのどいつなんだよ、こんなクソルール決めやがったのは…。」ハントが深いため息をつく。
「とにかく呼べそうな奴全員に声かけんぞ。心当たりいる奴、いるか?」ハントが言う。
「ううん…私の所はどうにも…。」サンゲンが首を振る。
「僕も、かな…。」ハルトも申し訳なさそうに答える。
「…チッ。」
「そこの君たち!私らとチームを組まないか?」サンゲンが通りすがりの冒険者に声をかける。
「げっ、問題児チームじゃん…離れとこ。」
即座に逃げられた。
「すみません、僕達とチームを組みませんか?」
「いや…ちょっと…ねぇ?」
「…誰も寄り付かねぇな。」
そうして一日中声をかけるも、全く人は集まらない。
「はぁ…。ま、こうなるか。」
「すまないのである…。私が不甲斐ないせいで…。」
「誰も悪くありませんよ、仕方ないです。」
ギルド生活も終わりか、この先どうしていこうか。そう考えたその時。
「きゃあっ!」
悲鳴が響く。
「今のは…?」
「サンゲンさん、ハントさん、向かいましょう!」
「おい、危険かも知んねぇんだぞ。ここは一旦落ち着いて…」
そう言い終わる前に、サンゲンが飛び出していた。
「クソ、あの駄馬野郎!」
「ほら、ハントさんも行きますよ!」ハルトがハントの腕を引く。
ハントは怒気を込めた息を吐き、現場へと駆け出した。
「なんで…なんで地脈が効かないの…?」
ローラは息を切らしながら、目の前の男を睨んだ。
「当然だな、俺は七星様に選ばれた男なんだからなあ!」
「七星…?」
「そう、エルフなんざ敵じゃねぇ、賢者様によぉ!」
男が黒い炎を纏った棍を振り下ろす。
「ぐっ…!」
ローラの腹部に直撃し、体が大きく仰け反る。
「あぁ…!ぐっ…。なんで動きが…。」
「あぁ、数日前までチマチマ物盗んでたのが嘘みてぇだ。」
「にしてもお前、綺麗だなぁ、流石エルフ。」
「俺の初めての殺しに相応しいなあ!」
男が棍を振りかぶる。今度は頭を狙って。
「嫌…!」
ローラは目を瞑った。
「そこまでである!」
「なっ…」
修理した薙刀の柄が、棍の一撃を防いだ。
「お前…何者だ?」
「私の名はサンゲン!貴様のような悪人を許さぬ、馬人族の末裔である!」
「ほう…馬人族ねぇ。」
男が不敵に笑う。
「それってつまり…『人』じゃねぇんだよな?」
「何が言いたいのであるか!」
男の武器に、再び黒い炎が巻き上がる。
それはまるで生き物のように蠢き、サンゲンに巻き付いた。
「なっ!?」
サンゲンの手足が縛られる。薙刀がカラン、と音を立てて地面に落ちた。
「ほーら、ビンゴだ!お前はやっぱり人じゃねぇ。」
「相手が人じゃねぇなら、俺様は無敵なんだよ!」
男が棍を振りかぶる。狙いはサンゲンの頭。
「逃げて!」ローラが叫ぶ。
「…動きが粗雑であるな!」
サンゲンはすばやくかがむと、落とした薙刀の柄を噛み、男に向かって振り上げた。
「はぁ!?」
「どうであるか!馬人族は顎の力も強いのであるぞ!」
「馬鹿力だな…しかもてめぇ、どっからどう見ても馬の獣人だろ!」
「違う!私は馬人族である!」
「こんな所にいるはずがねぇだろ、んな貴重な馬人族が…。」
「長話、ご苦労さんだ。」
「なっ…今度は誰だ!」
大剣が、棍を弾き飛ばす。
「名乗る訳ねぇだろ、俺ァそこまで真面目じゃねぇんでな。」
「クソ…しかも力が反応しねぇって事は…お前、『人』だな!?」
「あ?当たりめェだろ。」
「クッ…ここは逃げるしか…。」
「逃がしませんよ!」
ハルトの太刀が、男の首元で寸止めされた。
「さぁ、観念してください!」
「ぐっ…ふふ、ははは!」
「何がおかしいのであるか!」
「俺に何かしようもんなら、七星様…業星様が復讐しにくるだろう…それでもいいのかあ!?」
「…業星?」ローラが呟く。
「ほーん、業星ねえ…」ハントが鼻で笑う。
「安心しろ、ハルト。業星がそんな木っ端を保護する訳がねぇ。」
「あぁ、ハントさんがそう言うなら。」
ハルトは即座に首元に手刀を入れ、男を気絶させる。
「さて、こいつは引き渡すとしてだ。」
「君!大丈夫であるか!」
「…大丈夫だけど?」
「ああ、君はいつぞやのエルフの!あの時は本当にごめんね。」ハルトが駆け寄ってくる。
「でも、大丈夫そうには見えないな。ギルドの医療室まで連れて行くよ。」
「大丈夫だって…」
「いや、業星の力を持つ武器を喰らったんなら、黙って行った方が良い。それとサンゲン、お前もだ。」
「え?私こそ大丈夫なのであるが…。」
「いいから。さっさと向かってろ。」
「ふむ、分かったのである。さ、私と一緒に行きましょうぞ!」
「いやいや…そもそも業星って何よ。」
「とにかくてめぇら亜人にとっての天敵、とだけ言っておく。」
「はぁ?」
エルフは状況が吞み込めない顔をしながらも、サンゲンに連れられ医療室に向かった。
「これは…致死性の烙印ですね。早期に見つかってよかったです。」
「致死性の烙印!?それは危なかったのである…。」
「そんなものを、詠唱や気脈もなしに…。しかも私の地脈も効かなかったし…。」
「とにかく、二人には烙印を消す施術を受けてもらいます。よろしいですね?」
「分かったのである。/はい…。」
施術も終わった夜。エルフはハントの所を訪れていた。
「あ、あの…。」
「なんだ?俺に用事なんて。」
「…あんたがいなけりゃ、私は死んでいたわ…。それも気づかずに悪態ついて、ごめん。」
「感謝は俺じゃなくあいつらにしろ。」
「それはもう済ませたわ。それと…」
「私を、チームに入れてくれないかしら?」
「…。」
「お互い、今日中にチームを作らないと、追放されちゃうじゃない?だから…。」
「言い訳は良い。だがそうだな。お前の実力を軽くでいいから見せてみろ。」
「ここに地脈で、花を咲かせてみろ。」
「そんなこと、エルフなら誰でもできるわ。」
「ただし…」
ハントが真剣な目でローラを見る。
「"お前自身"を表現した花を咲かせろ。そいつで判断する。」
「…難しい注文ね。」
ローラは目を閉じ、手を合わせた。
足元から、小さなユリのような花が芽吹く。
その色は白、桃、黒と、絶えず移り変わっていた。
「私はいつも正直になれないの。チームでも、一人でも。だからきっと…」
「合格だ。」
ハントがローラの言葉を遮った。
「はっ?」
ローラが呆気に取られる。
「不安定で何が悪い。完璧な奴なんざ、俺のチームにゃ要らねぇ」
ローラは状況が飲み込めず、しばし呆然としていた。
そして小さく、微笑んだ。
「…ありがとう。私の名前はローラ。ローラ・アンブロジア。宜しくね。」
「…俺はハント。ハント・レイダー。」
「…よっし、チームも確定したことだ。全員集めて支部に向かうぞ。」
「そうね。」
そうして、チーム結成締め切り当日の夜。
新たなチームが、一つ誕生した。
ハント・レイダー、ハルト・クジョウ、サンゲン、ローラ・アンブロジア。
四人が織りなす冒険が、ようやく始まろうとしていた。




