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2話/謎の獣人

「あ、おはようございます、ハントさん!」

ハルトの威勢のいい声が、ギルド支部に響き渡る。

「はあ…朝っぱらから煩せえな、お前は。」

「いいじゃないですか、朝だからこそですよ。」

ハルトは相変わらず、屈託のない笑顔だった。


今日もギルド支部に顔を出す二人。しかし、ほとんどの所属員はすでにチームを組み終えているようだった。


「みんなもう、チームで固まってそうですね…。いっそ他のチームに僕ら二人、丸ごと入れてもらいます?」

「無理だ。んなこと俺に向かってる視線を察すれば分かるだろ。」


事実、ハントに集まる数少ない視線は侮蔑の視線ばかりだ。

汚い仕事ばかりする人を見る、無意識下の嫌悪。


「な?無理だろ、こんな腫れ物扱いじゃ。」

「うーん、短い間付き合っただけですが、そんなにハントさんは悪い人じゃないと思うんですけどね…。」


ハルトがもう一度支部内を見回すと、エルフらしき女性が一人、壁際に佇んでいるのが目に入った。


「あ、君、うちのチーム入らない?人数が足りなくてさ…」

ハルトが声をかける。

「…私、もう入ってるから。別のチーム」

エルフの女性は、明らかに苛立った表情で答えた。


「あ、不快にさせてごめんね…。」

ハルトは少し落ち込んで、ハントの元へ戻る。


「おいおい、無節操に声掛けんのはやめとけ。」

「だって人数が足りないですから。」

ハルトはきっぱりと答える。


「しかし、本当にどうしたもんかねぇ。ったくよ…。」

ハントがため息をつきかけた、その瞬間。


「その心配はないのである!!!」


突如、支部内に轟音のような声が響き渡った。先ほどの数十倍の音量だ。


「あ?」

振り向くと、昨日の馬の獣人が立っていた。胸には真新しい、ギルド所属新人のバッジが光っている。

「ハント君、ハルト君!私が君たちのチームに加入するのである!」


「…はっ?お前は昨日の…」

「うむ!昨日は名乗るのを忘れていたのだ。申し訳ないのである!」

「私の名はサンゲン!馬の力を持つ馬人族である!」

「お、おう…。」

「好物はリンゴ!嫌いな物は肉類!生まれは…」

「おい、一旦ストップだ。」ハントが遮る。「まず何でてめえがここにいる?」

「ああ、昨日の君たちの戦いぶりを見てだな。私は心底感動したのだ!」

「あはは、ありがとうございます。」ハルトが苦笑する。

「そして君たちについて調べたのだ。その結果ギルドに所属していると知ったのである!」

「お前、寝たんじゃねえのかよ…。」

「知らないのであるか?馬人族は早起きなのである!」

「そしてギルドではチームを組むという事も知ったのだ。」


「ならば君たちのチームに入り、共に活動したいと思ったのである!人数も足りないのであろう?ならばちょうどよいではないか!」

「あのなぁ…お前はこいつとは事情が違う。」

「こいつはある程度実力者ってのが見て分かったし、実際そうだった。」

「だがお前は違う。実力も何も分からねぇ。そんなもんを入れる訳には…」

「ちょっと、ハントさん…」


「ふむ、承知したのである。ならば、昨日私らが出会った、模擬戦会場とやらに行こうではないか。」

「そこで一戦交え!実力を認めて頂くのはどうであろうか!」

「…ふーん。言っておくが俺は本気で行くぞ。それでいいか?」

「勿論である!」


またも無人の模擬戦会場。

ハントが大剣を、サンゲンが薙刀を構える。


「では…参るのである!」


先に動いたのはサンゲンだった。

一瞬で間合いを詰め、薙刀を振るう。

「甘いな。」

ハントの大剣が、いとも容易くそれを受け止めた。

「なっ…」

「速さで喧嘩吹っ掛けられんのはよォ。」

「こんな得物使ってると日常なんだよ!」

ハントが大剣を突く様に前に出す。サンゲンは横に躱すが、体勢を大きく崩した。

「見逃すかよ、その隙!」

「くっ…」

ハントの一撃をサンゲンは防ぐ、が。


ハントは大剣に込めた力を抜き、言った。

「止めだ、止め。話にならねェ。」

「今俺が本気で大剣を振り下ろしたら、お前死んでたぞ。」

「…。」

「だから、こんなパーティに入んのは止めにして、さっさと帰…」


「待って欲しいのである。」

「あ?」

「二つ。お願いがあるのである。」


「一つ、もう一度勝負をさせて欲しい、と。」

「二つ、」


「もし私が自我を失い始めたら、止めて欲しい、と。」


「は?何だよそれ。」


「ではもう一度。頼むのである。」


(サンゲンさん…先ほどとはプレッシャーが全く違いますね…。)


「まぁいい。何か知らんが、やってやるよ。」

「礼を言うのである。では…」


「三元回帰、解壱」

サンゲンが静かに呟いた、その瞬間。

メキメキと、骨が軋む音が響く。

「…ふうん?」

「これは…こんなの…見たことないですね…。」

サンゲンの下半身が変容していく。人間の脚が裂け、馬の脚が生え出づる。尾は長く伸び、膝の向きが逆転する。

蹄が、地面を叩いた。

「…行ク。」


「…行ク」

声が、低く変わっていた。

次の瞬間、サンゲンが消えた。

いや、違う。あまりの速さで、視認できなかっただけだ。


(こいつ、さっきとは比べもんにならない程速くなってやがる…)

(しかもなんだ、この野性的な殺気…プレッシャーはよォ!)

ハントは辛うじて薙刀を弾き、反撃態勢に入る。

「ココダ。」

サンゲンの薙刀が、ハントの大剣の柄を強烈に打ち据える。

「クソがッ!」

ハントは振動を怪力で抑えつけ、反撃に転じる。

「はは、隙はそのまんまみてェだなァ?」

ハントが攻撃したサンゲンの隙を狙い、再び突こうとする。


「残念。」

「はァ?」

ハントが咄嗟に大剣で防ぐ。しかし衝撃は凄まじく、体が宙を舞う。


「クソッ…何だってんだ、今のは。」

「気脈…それをあんなに器用に…」ハルトが息を呑む。

「気脈なのかよ、今の…。ま、それ以外にゃあねえだろうけどな。」

「気をつけてください。いわば今のサンゲンさんは『人間地雷』のようなものです。」


「だが、中々やるじゃねぇかよ。俺を嵌めるなんてな。」

「…来イ。」


霧のような気脈を練り、挑発するサンゲン。


「さっきとはやはり、何もかもが違いますね…。」

「あからさまに気脈を纏いやがってよォ。牽制のつもりなんだろうが…。」

「はッ。もう一回嵌められてやるぜ、この野郎!」


ハントは突撃していく。

そして霧に触れた瞬間、サンゲンは的確にハントの胴体を狙って薙刀を振るう。


「なっ…。一旦ストップしましょう!ストップ!」

あまりに殺気を帯びた一撃に、ようやくハルトは制止にかかる。しかし、


「今ようやく盛り上がってんだよ、止めんじゃねェ!」

とハントは薙刀を辛うじて防ぐと、再び距離を取る。


サンゲンの周囲に再び深い霧が舞う。

それを見たハントは笑った。


「さーて、もうタネは分かったぜ。あんたのその異様な超感覚!」

「そういう敏感に感じ取る野郎にはよォ…」

ハントが足元の小石を拾う。

そして、笑った。


「全体と点。こいつら両方乱してやるよ!」


ハントは霧に向かい砂を蹴り、小石に強烈な回転を加え、点として絞り、投じる。

それと同時に、再び突撃していく。

砂は霧の中で弾け、小石は霧を巻き込みながら過ぎた。


サンゲンの集中が、一瞬乱れる。

その隙を、ハントは見逃さなかった。大剣を投げた。


大剣がサンゲンに突き刺さる直前に、再び爆発が起きる。

しかしハントは爆風に身と勢いを隠し。


「俺の武器が大剣だけと思うなよ!」

爆風に紛れ、ハントがサンゲンの懐に潜り込む。

そして、蹴りを叩き込んだ。

サンゲンは薙刀で防ぐも、薙刀は耐えられず折れてしまった。

そしてそのまま、腹に一撃を決める…直前で腕を止めた。


「グッ…。アァ…。」

サンゲンの脚が、人間のそれに戻っていく。

「うう…まさか私の薙刀が折られるとは…。」

落胆と驚愕の入り混じった表情だった。


サンゲンは足が人間のそれに戻り、落胆と驚愕を浮かべた様子で言う。


「ハント君、君はどんな怪力をしているのであるか…。」

「まぁ、ずっと鍛えてきてるからな。気脈なんぞ俺には難しくて分からん。」

「それに、だ。お前の実力は良く分かった。チーム入りさせてやるよ。」

「…え?良いのであるか?」

「あぁ。少なくとも足は引っ張らなさそうだしな。」

「…!ありがとうなのである!」


「そう言えばハルト君はどこにいるのであるか?」

「あ?そう言えば止められた時から見ねぇな…。ん?」


視界にはギルドの運営と共に走って来るハルトが映った。


「あ、二人とも!ようやく決着が付いたんですか…?」

「ん?あぁ。そうだな。」

「よかった…二人とも互いを殺してしまいそうな雰囲気だったから、調停するのに運営の人を呼んだんだけど…。」

「また君か…。昨日罰金を徴収したばかりだと言うのに、懲りないな。」

「懲りるもクソも、そいつは俺の問題じゃないんだっての…。」

「とにかく、次問題を起こしたら模擬戦会場は出禁だ。いいな?」

「チッ…」

「それとそこの獣人、君もだ。所属して一日で問題行動とは…。」

「うむ…申し訳ないのである…。」


「ま、とにかく。以後気を付ける様に。帳簿に"問題児枠"は作りたくないからな。」

「あーい…。/承知したのである…。」


模擬戦会場からの帰り道、もめているチームが目に入った。

「ちょっと?さっきから話聞いてる?」

「…聞いてるわよ。」

聞き覚えのある声だ、とハントは思った。

「あんたが鈍いせいで、またいい条件の依頼を一つ逃したじゃないの!」

「そんな条件の依頼、いつかまた来るでしょう。」

「あーもう!エルフだからって調子乗ってんじゃないわよ!」

「…私は、ただ地脈で探した方が確実だと言っただけよ」

「はぁ!? あんたのその地脈とやらで何か役に立ったことある!?」

「…」


その顔に、見覚えがあった。

確か、ハルトが声をかけていたエルフ。

ハントは何も言わず、そのまま家路についた。

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