24話/雨
「にしても、この前は偶然遭遇しましたが…今回は都合よく会えるでしょうかね?」
「その点に関しては俺に考えがある。」
「さっきのエルフの死体の周り。まるで乱雑に吸血したような感じだったろ?」
「それは、そうであるな。」
「もしこいつを引き起こしてるのが例の女なら、『レッド・アンブレラ』ってのも理性を喪失しているはずだ。」
「後で病院から輸血パックを借りて来る。超古典的だが、そいつで一本釣りできるんじゃないか?」
「…呆れかえるほど雑な作戦ね…」
「でも一応、論理は通ってますね。」
「こんなので釣れたら誰も苦労しないんじゃないかしら…」
そして昼の内に輸血パックを裏路地に仕掛ける。
「だが、この作戦が看破される可能性だってあるだろう。」
「む?完璧な作戦だと私は思うが!」
「えぇ完璧ね。完璧に見破られやすいという点ではね。」
「…あの死体、片方手が無かっただろ?切り口も綺麗だったよな。」
「えぇ、そうでしたね。」
「何か切断に特化した武器を持ってやがるって事だ。パペットリリーサーって野郎と同じだろう。」
「だが、体には牙の痕くらいしか無かったな。つまり、あいつも何か搦め手を使って来る可能性が十分にある。」
「まぁ、そう考えるのが妥当ね。」
「情報が少ない状況下で相手するのは得策じゃねぇ。つー訳で…」
「俺がまず一人で相手する。その後相手の戦略が見えてきたら柔軟に対応するぞ。」
「えっ、それってつまり…」
「囮作戦、ってことね?」
「そういうことだな。どうだ?異論のある奴は…」
「…そのような作戦であるなら。私が引き受けたいのである。」
「はっ?」
「私に足りなかった勇気、本能に食い潰されてしまった勇気を…今度こそ、見せたいのである。」
「…かなり危険なことが考えられるが…本気で言ってるんだな?」
「もちろん。本気なのである。」
「…分かった。お前一人でまずは張り込みをしろ。その間に俺らは観察して、頃合いを見計らって突撃する。いいな?」
「わかったのである。」
夜。サンゲンが一人で輸血パックを仕掛けた場所に張り込みをしている。
緊張が走る。息を殺す。
すると。
「!」
輸血パックを何かが貫いた。
即座に貫かれた方向に顔を出す。
すると。
何かが飛んで来る。
「がぁっ!」
咄嗟に身を引くも、何かがサンゲンの耳を抉った。
一瞬サンゲンの目に写ったのは、赤いコートを羽織り傘を差した男。
(まだ…まだ分からないのである…何で攻撃を仕掛けてきているか…)
その瞬間。輸血パックの血が何かを伝って、空中を流れているのが見えた。
「…!ワイヤー…!」
その瞬間、ワイヤーが星の光を反射し赤く光った。サンゲンはそれを見逃さない。
伏せる。
サンゲンの頭上に切られたような跡が付く。
「危なかったのである…だがまだ…まだ何かしてくるはずである…」
すると男は輸血パックをワイヤーで持ち上げる。
「…?空中に持ち上げて何を…」
するとワイヤーを振り回し、辺りに血の雨を降らせた。
「…!?何の為に…」
サンゲンもまた、血を被る。
すると。どこからか指を弾く音が聞こえ。
「…!!!」
上から巨大な"何か"が覗いている感覚がした。
本能が狂う。叫ぶ。理性を引き剥がして露わになろうとする。
「あ…あぁ…!」
"何か"はこちらに手を伸ばして来る。
簡単に押し潰されてしまいそうなほど大きな掌をこちらに開いている。
「ひっ…!」
「いや…落ち着くのだ…落ち着け…!」
"何か"が吐息を吹きかけて来る。
「まだ…まだである…!落ち着くのである…!」
「私が在る意味…それはきっと…」
「野性的な"彼女"では成し得ない…冷静に真実を見ること…!」
「恐怖を捨てろ…真実を見ろ…!」
「怪物は…」
「どこにも、いない!!!」
「いるのは、目の前の…ッ!」
「うぉぉぉぁぁぁぁ!」
サンゲンは叫びながら眼前の対象に向かって薙刀を投げる。
するとそれは男の顔を貫いた。
「はっ、はぁ…!」
しかし男は立ち上がる。
怪物の幻覚も再び現れた。
「再び気が狂う前に…ッ!」
「皆!血を被るな!血を被れば、幻覚を見させられるぞ!」
「…意味のない事を。」
「なっ…もう完全に再生して…!」
「お前が一人でないことなど、もう読めているのだよ。」
「ワイヤーをここら一帯に張り巡らせた。」
「そして今。それらを収束させる。」
「何!?」
地面が揺れる。
「血気脈"再び巡る血"。」
地面をワイヤーが抉り、それらの一部はサンゲンに向かっていく。
「くっ…!」
跳ねのけたと思っていた恐怖は、実際には足のすくみとなって巣食っていた。
「終わりだ。お前も、お前の仲間も。」
「そいつはどうかなァ?」
「…?」
「青脈"豪雨連曲"!」
ワイヤーを豪雨が襲う。すると。
薄く赤い液体と共に、ワイヤーが硬さを失った。
「!」
「お前のワイヤーの殺傷性、お前の血を薄く塗って気脈を通してんのが原因だろ?」
「なら雨で洗い流せるって訳よ。」
「ふふ、これもサンゲンさんの作戦のおかげですね。」
「…ありがたいのである!」
豪雨によって、サンゲンに被っていた血も流れた。恐怖から解放される。
「…この程度で、俺が負けたと思うなよ?」
男はワイヤーに血を、結晶化させて纏わせる。
「さぁ。血祭りの時間だ。」
薄く広がった血によって、全てが赤かった。




