23話/赤い月
「うむ!今日は焼きリンゴを作ってみるのである!」
「元気だな、お前…」
「ま、それに励まされる部分もあるけどね。」
サンゲンが酒場を訪れてから数日、サンゲンを中心に、活気が戻りつつあった。
「さて、皆切り替えがついてきた所で…依頼を受けるのを再開するぞ。」
「まぁ、なんだかんだ言い休息が取れました。」
「積んでた本も読めて、悪くない休暇だったわ。」
「今回受けようと考えるのは、吸血鬼による連続殺人事件だ。ついでに言うと、この件は業星の姉に強く関わってると踏んでる。」
「ん?それまたなんでです?」
「容疑がかかってる吸血鬼がいるんだが…急激に性格が変化したらしいんだ。今までは社会に溶け込んでいたのに、急に失踪し、事件を起こし始めたと見られてる。」
「うむ…ならば関係はありそうである。」
「前の暴徒化、みたいなことね。」
「場所はここから少し遠い…北側の大氷原のあたりだ。荷造りは今日中に済ませるぞ。」
「わかりました。」「わかったのである!」「はーい。」
そうして四人は荷造りを進め、その翌日。
「初めての遠征なのである~!」
「まぁ、各地を旅して来た俺にとっちゃあいつもの事だがな。」
「あ、僕もです。でもこのワクワク感は代えがたいですよね~。」
「…あまり行ったことのない地域だから、少し緊張するわ。」
そうして移動を開始する。
「炊事は私に任せて欲しいのである!」
「お?珍しいな。」
「少しずつ、色んなことを試してみると決めたのである。」
「へぇ、いい経験になるんじゃないですか?」
「…寝袋を使うのも久々ね。」
「ふーん、ちなみにいつ振りくらいだ?」
「30年くらい。」
「お、おう…」
「流石エルフ…」
そうしている間に、目的地に到着した。
「む?思ったより寒くないのであるな。」
「いやいや寒ぃだろ…」
「あぁ!そう言えば馬人族は寒さにも強いからな!」
「なんですか、それ…」
「まぁそんなことより。まずは情報収集からだな。」
まずは泊まる宿のオーナーに聞くことにした。すると。
「あぁ…あの吸血鬼の話かい。」
「知っているんですか?」
「えぇ、それはもちろん。」
「噂によると、被害者は血を全て吸い尽くされ、周りには乱雑に吸ったように、血の跡が大量に残っているらしいんです。」
「へぇ…なんだか雑な野郎だな。」
「そう、そうなんですよ。」
「む?そう、と言うとどういうことなのであるか?」
「前まで、ある心優しく真面目な吸血鬼が居たんです。」
「ですが、ある日急に失踪してしまって…ですがその殺人鬼と、容姿がそっくりなんです。」
「真面目だったのに、荒々しく人を殺すようになってしまって…本当に何があったんだか…」
「でも少なくとも、今は。彼は『レッド・アンブレラ』と呼ばれているんです。」
「…情報どうも。」
「…さて、荒々しく人を害するところはパペットリリーサーと同じみてぇだな?」
「ですけど、それだけで業星の姉が黒幕というには、少し根拠が薄くありませんか?」
「ま、とにかく今度こそ情報を掴むぞ。」
「相手は吸血鬼、活動時間は夜だ。今はもう朝になりそうだからな。今晩はしっかり休んで、明日に備えるぞ。」
「はぁ…なんでこんな寒い所に来なきゃいけないんだか。」
あるエルフの女性が、愚痴をこぼす。
「世界樹の近くだからって、何も私が処理しなくても…」
その時、深紅のレインコートと傘を持った男性が現れる。
「…!」
すぐに弓を構える。
「何者だ!」
男は何も言わず、指を弾いた。すると。
「ぐぁっ!!!」
弓にかけていた右手が切れて吹き飛び、宙を舞った。
何が起きたのか気づいたのはその直後、切れた手が頭上で静止していることを認識した時だった。
男は手を握り潰すジェスチャーをする。すると。
静止していた手が、微塵切りになった。
手が内包していた分の血を被る。
(逃げないと…!)
その時。
「赤血脈、"穢れた雨"。」
「…!!!」
その時、上から何かとにかく"恐ろしい"物体が迫ってきていることを感じた。
「やだ…やだ…!うっ…!」
それが何かはわからない。ただ、恐ろしく。息が詰まり、声が出ない。
「う…ぅぅ…!」
足がすくみ、立てない。
「うぁっ…」
男はいつの間にか、隣に立っていた。
そして、ゆっくりと抱き着くと。
牙を刺される。
血を吸われていく。
「ぁ…ぁ…」
か細い声しか出ない。
そして、意識を失った。
その晩残されたのは、血の雨の痕と、手を失い恐怖に呑まれ、血を喪失したエルフの死体のみだった。
「…ハントさん。今日もまた、被害者が出たそうです…」
「…何だと?」
一行は現場へと向かう。
「…酷いな。」
「この顔…ひどく恐怖した顔ですね…」
「一体何があったのであろうか…」
「…エルフがこうも簡単に殺されるなんて、あり得ないわ…」
「…今回のターゲットも、一筋縄ではいかなさそうだ。」
「そうみたい、ですね…」
その日の夜は、不吉な程に猛烈な吹雪だった。
吹雪の奥で光る月は、赤色を放っていた。




