22話/罪悪
パペットリリーサーは討伐したものの、
一般市民が4人死亡と言う酷い結果を残してしまったハントたちのチームは、
報酬を大きく減額され、雰囲気も最悪であった。
「おはようなのである!!!」
目にはクマができ、涙の痕が付いている。
そしてその声は、虚しく響くのみ。
重責を感じているのは、何もサンゲンだけでは無かった。
「うむ!このような時は、皆でリンゴを食べるのが一番であろう!」
そう言い、皆に芯が残った、簡単に切ったリンゴを渡す。
不意にハルトの右手にリンゴを渡してしまう。
「…ごめん、右手にまだ力が入らなくて…」
「あっ…」
後悔をかき消すように言う。
「うむ…うむ…リンゴは、やはりおいし…うぇ…げぼっ…」
吐き出してしまう。
「…無理に明るく振舞うのはやめろ。」
「…しかし。しかし、こうでもしていないと…崩れてしまいそうなのである…」
「今は皆無理してんだよ。心配かけて俺らまで不幸にする気か?」
何も、言い返せない。
「…散歩に行って来るのである。」
一人、とぼとぼと歩き出す。
思えば自分がチームに何か貢献できたことがあっただろうか。
しても、"彼女"に頼りきりで。
私は、何もしていないじゃないか。
突発的にチームに入り、迷惑ばかりかけ…
結局、足を引っ張るだけ。
でも私が抜ければ、ハントたちはギルドを抜ける破目になってしまう。
逃げ道はもはやなかった。
「鬼よ…教えてくれ…」
「何のために私はあるのだ…?」
「いっそ、お前だけだったならば…」
鬼は答えない。
「今が哀しいか?」
見知らぬ老人が、声をかけて来る。
「…誰であるか?」
「今が哀しいのなら、幸せだった時に戻ればいいじゃないか。」
「…」
「そんなこと、できるわけないのである。そもそも、私が今立ち止まってしまえば、戦友らに迷惑が…」
「私は今、君に問うているのだがね?今君は、辛いのだろう?」
「…」
「辛い、のである。でも、どうにもならなくて…」
不思議と、老いぼれながらも優しいその声のせいか、会話に没入してしまう。
「ならば幸せだった時を思い浮かべるんだ。その時間に、私が戻してやろう。」
「幸せだった時…」
森で暮らしていた時だろうか。それともハントとハルトの戦いを初めて見た時。
それとも。
友と共に暮らしていた…
「其れ以上、弄ぶ事は赦されない。」
鬼の幻覚が、目の前に現れる。
「…ふむ。君は少々触れ難い過去をお持ちのようだな。」
「また会いに来るよ。君が過去を受け入れられた時に。」
そうして老人は去って行った。
「…貴様の意義は、私が証明している。」
「そう、なのであるか?」
「…其れだけだ。」
鬼の幻覚は、消えていった。
もう何も言わずに、私は散歩から帰った。
「はぁ…少しばかり奇妙な体験をしたのである。」
「なんだ?」
「単刀直入に聞くのである。私はこのチームに、必要なのであるか?」
「…えっ?」
「それは必要でしょう。」
「違う…鬼、三元回帰を使っていないときの私は必要とされているのであるか?」
「…変な事言うな。」
「間違いなくお前は必要だ。現にお前の力が無ければ、業星を討つことも成し得なかったしな。」
「サンゲンさんが足止めしてくれなかったら、昨日の件だって危うく全滅してましたよ?」
「あんたが8人殺したんじゃないのよ。あの時、あいつを倒せなければ、無限に膨らんでいたでしょう。8人で止めた、のよ。」
「辛い気持ちは否定しねぇが、割り切れ。そこは。」
「…それでも…」
「ま、無理すんな。しばらくは休暇を取ることにするさ。」
「ちょ、ちょっと、生活費とか大丈夫なの?」
「大丈夫さ。俺にはまだ下ろしてない、預けておいた金があるからな。」
「いいんですか?」
「いいんだよ、そうした方が、あいつも喜ぶだろうから…」
ハントは虚空を見つめる。
この前と違い、問い詰める者はだれもいなかった。
その晩、サンゲンは一人でコノハナの酒場に向かっていた。
「…失礼するのである。」
「あら、いらっしゃい。今日は一人なの?」
「…一人、である。」
カウンターに着き、麦酒を頼む。
「あれ、麦酒でいいのかい?」
「いいのである。」
脳が、苦い味を欲していた気がした。
「…」
「…」
コノハナは、他の客の接客をする時以外は、ずっとサンゲンの事を気にかけていた。
「話を。聞いてくれませぬか?」
サンゲンが聞く。
「もちろん。何か悩みごとのある顔してるもんねぇ。」
「あはは、バレてたのであるか…」
「私は、常に皆の脚を引っ張っている気がして…それでも、居ないなら居ないで不幸になるのが辛いのである。」
「むしろ居なくていいのなら、すぐに消えてしまいたいのである。」
「それでも、居ないといけないと言う人は沢山いるのである。」
「もう、どうしようもなくて…」
サンゲンは涙を流す。
「だから…私はどうすればいいのであるか…」
「あなたは頑張ってるのね。そして優しい。」
「こんなに辛い思いをしているのに、その者らの傍に居てあげる選択をしているのは、とっても優しいわ。」
「…そんなこと、ないのである…」
「なくないわよ。」
「…でも…私は期待されるような結果をいつも出せず…」
「ほら、期待されてるって思えてるじゃないの。やっぱりあなたは凄い人なのよ。」
「あぁいや、そういうわけではなくて…」
「私は、私の力で何も成せていないのである。だから、もう…」
「…そりゃあそうよ。私だって自分の力で何もかもできるわけじゃないわ。」
「きっと、一人で酒場をやってらっしゃるあなたには分からないのである。」
「うーん…それでも、近い感情は抱いてると思うわ。例えば私、皿洗いが苦手でねぇ。見習いの時はいっつも怒られてさ。」
「今でも定期的にお皿割っちゃうのよ?」
「だからここだけの話、こっそり夫に手伝ってもらう時があるのよ。」
「…そうなのであるか?」
「そーよ、これ秘密ね?」
「…とにかく、一人で、何でもどころか、期待されるようなことができないなんて当たり前なのよ。」
「…」
「でも、私の場合は、人の命が関わっているのである。」
「死んだ者たちはきっと、私のことを恨んでいるのである…」
「うーん、そうねぇ…」
「じゃあ、なおさら、新しい自分になっていかなきゃならないんじゃない?」
「新しい、自分…?」
「死んでしまった人たちが、少しでもあなたを許せるように、さ。」
「おーい、お会計頼むよー。」
「あっ、すみませーん!じゃ、お話ありがとうね。」
「…こちらこそ、なのである。」
そうして麦酒を一杯だけ飲み干し、寮へと帰って行った。
「おう、サンゲン。少しはさっぱりしたか?」
「…うむ。あの店の者は、聞き上手であるな。」
「そうだろ?俺も大変な時は愚痴聞いてもらってたんだよ。」
「…ま、俺もお前も、変わってかなきゃな。」
「こんな失敗をしでかしちまったなら。少しずつでも変わってかないと…」
「…はは。」
「あ?何がおかしいんだよ。」
「いや、コノハナ君とハント君は、そっくりであるな、と…」
「何だよ、それ…」
少しだけ、本心から笑えたサンゲンなのであった。




