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19/24

19話/自由

支部長の襲撃から数週間。

ハントは支部長の言う通りに、医療室にしばらくの期間籠っていた。


ハントの緊張とは裏腹に、町は活気を取り戻していく。

「リンゴも新たに入荷したのである~!」

「よかったな。」


束の間の平和は、表面上戻りつつあった。


「あー、病室にいる私が言うのもなんですが。ハントさん、ハルトさん、サンゲンさん、ローラさん。あなた方の退院を認めます。」


「よし!これでまた依頼も受けられますね!」

「さっさと療養で吹き飛んだお金も稼がないと。」

「うむ!これでようやく困っている人々を公式に助けられるのである!」


「あぁ、それだが…」

「しばらくはまた、業星絡みの案件を受ける事になりそうだ。」

「え?何故です?業星は処理したと聞きましたが…」

「あいつの姉が、俺を襲おうとしているらしい。恐らく復讐だろうな。」

「だから、そいつをさっさと処理しねぇと、まともに動けねぇ。しかも、クレヴがこうなったのもそいつのせいらしいからな。」

「むむ…クレヴ君と言えば、あの暴動の際に最前線で止めていた実力者のはずであるが…」


「とにかく、だ。まずはそいつを処理する。」

ハントはギルドの依頼を指差す。


「そいつは恐らく、この前の暴徒化にも関わっていやがる。だから、そいつに近づくには…」

ある、無差別虐殺の解決の依頼書を手に取る。


「こういう無差別に何かをしでかす野郎共をどんどん処理していって、黒幕に近づくしかねぇ。」

「無差別虐殺とは…これはまた…」

「難しそうな依頼、ね。」

「だが、そのような目的を差っ引いても、このようなことをする者は許せないのである。」


「療養明けに受ける初依頼は、こいつで決まりでいいか?」

「うーん、僕としてはもう少し体を慣らす期間が欲しいんですが…」

「まぁ、仕方ありませんね。ハントさんが危ないとなれば、急がないと。」

「私もそれでいいわ。」

「もちろん私もそれでいいのである!」


「OK、決まりだ。」


依頼書を受付へ持っていく。

「受付嬢、こいつを頼む。」

「はい、無差別虐殺の犯人を処理すること、実行犯の生死は問わない…この内容で宜しいでしょうか?」

「あぁ。」

「では受注を承りました。気をつけてください。」


ハント達はギルドを離れ、町の離れに行く。


「被害者は決まって夜の裏路地に倒れているらしい。だから、裏路地をメインに捜索をする。」

「資料に目を通したんですが、被害者の死因は決まって窒息死らしいです。その手の気脈や地脈には注意した方がよさそうですね…」

「へぇ…どんな術を使ってるのかしら。」

「どんな術だろうと関係ないのである!私らはその者を打倒するだけである。」


夜が更けていく。周囲が暗くなる。

人の声は、夜中に騒ぐ者を除き聞こえない。


そこに、何者かの影が見えた。


「おい、そこ、何してやがる?」

「わっ!びっくりした…」

他のギルド所属のチームのようだった。


「もしかして、君たちも虐殺犯の捜査を?」

「えぇ、そうなんです。」

リーダーと思しき男性が言う。

「ま、私たちが一番最初に見つけちゃうけどね~?」

「残念だけど手柄は俺たちが貰ってくぜ。」

「…気にしない方が良いよ、他のチームなんて。」

構成員が次々と話す。


「まぁまぁ、ここは協力しません?」

「あれ?暗くて見えなかったけど…ローラちゃんじゃん。」

「…」

ローラが黙って視線を外す。


「知り合い?」

「知り合いも何も、僕らとローラさんは、一時期チームを組んでいたんです。」

「ま、役立たずですぐに追い出されたけどな。」

「…実際、何もできてなかった。無能。」

「ちょっと、君たち…ごめんね、うちのメンバーが。」


「ま、協力しねぇんならそれでいい。無駄に群れるのは俺も嫌いだからな。」

「お?気が合うな。俺もこんな奴とは組みたくなかったからな。」

「ただ…」


「無闇に人を役立たず呼ばわりする野郎とは、特別組みたくねぇな。」

「…はぁ?」


「じゃあな。せめて死なねぇように頑張っとけよ。」

「あっ、ハントさん…」

ハントは足早にその場を去って行った。

ハルトがそれを追い、サンゲンは不満を露わにしながら、ローラを引っ張って二人を追う。


「…気にしなくていいのであるぞ、ローラ君。」

「分かってる。もう気にしてないから。」


「でも、ローラが無能ってのは俺も意味が分からねぇな。見る目どうなってやがる。」

「…それも事実だから。いいのよ。」

「うーん…そうじゃないと思いますけど…」


「あのチームの雰囲気と私は合わなかったのよ。そのせいで連携もグチャグチャで。だから彼らにとって私は無能なの。」

「だからと言って、無能と言うことはなかろう…」

「だからいいっての。私はもう気にしてないから。」


気まずい雰囲気の中、一行は夜の裏路地を歩いて行く。


月が最も明るくなった頃。


「はぁ…見つかんねぇな?流石に。」

「これは長丁場になるかもしれませんね…」

「…待つのである。」

サンゲンがいつにも増して真面目な口調で言う。


「…何か。何か嫌な雰囲気がするのである。」

「皆、一度耳を澄ませるのである。」

サンゲンの言う通り、耳を澄ませてみる。


…どこかで、不吉な男の高笑いが聞こえる。


「…なんか、不穏な音だな…」

「一応、行ってみません?」

「そうね…なんだか気持ち悪いわ。」


高笑いがした方へと向かっていく。すると。


「…何か聞こえる。隠れろ!」

小さな声で命令する。


物陰から見えたのは、倒れている先ほど会ったチームと、巨大な鋏を持った男だった。


「ハ!ハハ!私を止めようとしても無駄だって分からないんですか!?」

「うるさい…この野郎!」

「あぁ!そんな汚い言葉を吐かされて…なんと可哀そうな!」

「それでは貴方は完全に!解放!して差し上げましょう!」

そうすると男は女性の目の辺りを鋏で両断するように挟んだ。

しかし、肉体は断たれなかった。それなのに。

「あ…ぁ…」

女性の体は崩れていく。そしてそのまま動かなくなった。


ハント達が絶句する中、足元に二人の構成員がいることに気づいた。

リーダーのような男性と、物静かだった女性だ。

「助け…助けて…」

「し…に…けほっ…」


「ハハ!次はあなた!です!」

「ぐぅ…やめろ…っ…」

口の悪かった男性が、鋏の男に捕捉されている。


「…クソッ。せめて…ハルト、この二人をこっそり回収するぞ。ローラはサンゲンを抑えてろ。」

「はい…わかりました…」

「なぜであるか!目の前に悪が居ると言うのに…むぐっ…」

「あの人はもう無理よ。だったらせめて、あいつが何をしてるのか情報を得てからでもいいんじゃない?」

「くっ…」


「では!貴方も完全に解放!して差し上げます!」

「やめ…やめろっ…!ぐあぁぁぁ!」


悲鳴も聞かず。ハントとハルトは二人を抱え、サンゲンとローラと共に近くの建物に隠れた。


「さて…次はあなた…ん?」

「おかしいです!どうして手足を解放したのに居なくなるのですか!?」

「どこかに…どこかに協力者がいたんですか!?」

「探さねば!そして救わねば!」


そう言って男は、裏路地の奥へと消えていった。


「さて…お前ら、あいつに何をされた?」

床に二人を寝転ばせ、ハントは聞く。

「おかし…かった…」

「あいつが…ふぅ…あいつが、手足を斬ると…動かなくなるんだ。」

「僕は…手足だけだけど…フェノンは…首元を…」

「…はぁ…」

フェノンと呼ばれた女性は、息さえ苦しそうにして、動かない。


「こいつは…一体どういう術だ?」

「た…す…け…、か…ら…だ…う…ご…か…」

「分かった、分かったから無理すんな。」

「この症状…全身不随でしょうか…?」


確かにその女性は、両目の瞳孔の大きさが違い、声は掠れ、唾液が垂れていた。


背骨に触れる。

「でも、脊髄が折れてるって感じじゃねぇぞ?」


「わかりませんが…とにかくそのような症状にそっくりです。」


するといつの間にか外に出ていたサンゲンが、残り二人を持って来ていた。

「…この者ら、まだ死んでいないのである。まだ弱弱しいが、心臓が…」

「…さっきの法則からすると、こいつは…」

「…脳髄を断たれた可能性が、高いです。」

「なら人を呼べ。もしかしたら気脈施術で回復する可能性もある。今は応急処置だ。」

「近くの広場でパーティを開いている人たちがいたはずなのである。その者らを急いで呼んで来るのである!」

サンゲンは再び駆け出していく。


「…あの野郎、なんなんだ?こんな不気味で、致命的な術を使いやがって…」

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