16話/安寧
全治数週間を言い渡された四人。
治療期間中は任務を受けられない為、皆暇を持て余していた。
「ゆっくりしながら食べるリンゴは格別であるな!」
…一人を除いて。
「あんな大怪我したのに、元気ね…」
ローラが呆れる。
「当然である。馬人族は回復が早いであるからな!」
「それ、聞き飽きたわ…」
「まぁまぁ。皆さん歩けるまでには回復しましたし、少し町に出ませんか?」
ハルトが提案する。
「めんどくせぇな…金もあんまりねぇのによ。」
「たまにはいいじゃないですか。気分転換ですよ、気分転換。」
「はぁ…。ま、いいだろう。」
こうして四人は町へと向かった。
サンゲンは山盛りのリンゴの中から、色を確かめるように一つ摘む。
「むむ!このリンゴは素晴らしい出来であるな!」
「また買うの…?何個目よ、それ。」
「何個あっても困らないのである!」
「ハントさん、これ。」
ハルトが大剣を指さす。
「前から思ってたんですけど、この剣、ハントさんの得物として良くないですか?」
「あー…。俺はいい。業星のとこからかっぱらって来た剣があるからな。」
「そうですか…。」
残念そうに言う。
広場に出る。
「あっ!あそこで子供たちが遊んでいるのである!」
子供たちの笑い声が聞こえる。
「だから何だよ。」
「一緒に遊ぶのである!」
「いやいや、お前もガキかよ…。」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。きっと体を余しているんですよ。」
サンゲンは聞かずに駆け寄っていく。
「やぁ!一緒に遊ぼうではないか!」
「わぁ!お馬さんだ!」
「馬人族なのである!」
子供たちがサンゲンに群がる。
サンゲンは嬉しそうに笑っている。
「…平和ね。」
ローラは子供たちと遊ぶサンゲンを見る。
「この前死にかけたとは思えませんね、僕たち…。」
ハントはその様子をため息をつきながら黙って見ている。
その晩。
「なぁ。この後酒場に行くってのはどうだ?」
「む!勿論良いのである!」
「そう言えばみんなで飲んだ事はありませんでしたね。僕たち。」
「ま、せっかくだし今日は俺のおごりにしてやるよ。」
「ありがとうなのである!」「ありがとうございます!」
「…いいの?」
「折角の機会だからな。それに行きつけがあるんだよ。」
「…ありがと。」
四人は酒場へ向かう。
「やぁコノハナさんよぉ。元気してたか?」
「あらハントさん。今日は連れも一緒なんですね?」
コノハナと呼ばれた女が接客をする。
狐の獣人らしい、ふさふさとした尻尾が揺れている。
「む!果実酒があるとは…私はこれにするのである!」
「あ…。私もそれで。」
「僕は麦酒にします。」
「マスター、いつもの頼む。」
「誰がマスターだい!ったく…。」
四人は酒を飲み始める。
ローラは頬を赤くし、グラスを握ったまま椅子にもたれかかっている。
「だからぁ~。前の前のチームメイトが酷くてね~?聞いてる~?」
サンゲンはグラスを置き、肩をすくめる。
「うむ…聞いているが、その話はもう4回目である…」
「…サンゲン、お前全く酔ってないな?」
「当然である。馬人族は酒豪なのである!」
「あとお前は人格変わり過ぎだろ、ローラ…。」
「えぇ~?そんなことありませんよぉ。」
「いや、大有りだっての…。」
その横には既に酔いつぶれているハルトが突っ伏している。
ローラはグラスを傾け、そのまま机に突っ伏す勢いで身を乗り出した。
「もー!世界樹に棲んでるお偉いさんと来たら、本当に面倒くさくてさぁ。そいつらと関わりたくなくて私は出て来たんだけど…
あ、コノハナさん、葡萄酒もう一杯。」
「私は林檎酒をもう一杯、お願いするのである!」
「お前ら…俺の財布の事も考えてくれねぇか…。」
ハントの言葉は、酒場の喧騒に消えた。
その後も飲み続け、ついにローラが酔いつぶれた頃。
「…そろそろ帰るぞ、サンゲン。お前はローラをおぶって行ってくれ…」
「うむ!ちなみにハルト君は大丈夫であるか?」
「ダメそうだ。俺はこっちを持って帰る。」
そうして、寮に帰るのであった。
倒れた二人を病室に連れて行った後。
「うむ…。もう遅い時間である。私はこのまま寝るのである…。」
「わかった。俺はもう少し起きてる。」
寮の廊下はもう静かだった。
病室の古い時計だけが、音を刻む。
(今日はありえない程平和な一日だったな…)
「うんうん。」
(まぁ、親交も深められたし、普段はよく分かんねぇローラの一面も見れたし。)
「ほうほう。」
(ま、財布には思わぬ大打撃を受けたが…)
「ふーん。」
「って誰だよ、俺に相槌打って来てる野郎は…」
「!」
「やぁ。」
病室に隅に立っていたのは、業星だった。
「お前、何しに…」
「君に情報を伝えに来たんだよ。君には目的があるんだよね?」
「その為に一刻も早く動かないといけないんじゃないかい?」
「…そうだが。」
「じゃ、いい事を教えてあげよう。」
「七星の一人が、この周辺に近づいてきている。」
「…本当か?」
「名は凶星。私の姉さ。」
「凶星…。」
「ま、私と違って彼女の情報は広く出回っているからね。その内分かるんじゃないかい?何が起きるか。」
「その者が持つ星の核。それを使えば、君はより強く、そして…」
「嫉星に近づけるだろう。」
「!!!」
ハントが反射で飛び掛かり、首元を強く掴む。
「お前、なんでその事を…」
「うーん、星の勘って奴?」
より強く掴む。
「うぅ…っ。怖い怖い。真面目な事を言うと、浮遊大陸時代に搭載された、各大陸とのコミュニケーション能力が部分的に残ってるんだろうね。私には何となくわかるのさ。」
「うーん…。ここは…?」
ハルトが目を覚ます。
「おっと。私はここで消えよう。世間的には私は死亡したことになっているのだからね。」
「それでは、良き業があらんことを。」
ハントは無言で窓から去っていく業星を見つめる。
「あれ?ハントさん?病室まで運んでくれたんですか?」
「あぁ。」
「ありがとうございます…にしても、今日は楽しかったですね。こんな日がずっと続けばいいのに…」
「悪いがそういう事には、ならなさそうだ。」
「えっ?」
今宵の満月は大きく、そして。
どこか赤みがかっているように、ハントには見えた。




