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9話/砕けた想い

あの日夢見た騎士の鎧。

唯一夢と違うところと言えば、その鎧は澱みきり、黒くなっている所だろうか。


目の前には、弾き返され、息も弱くなりはじめた剣士。

…本当に、彼を殺していいのだろうか?


…いいに決まってる。彼は獣を守ろうとする…人に害をもたらす奴だから。


誰かが嬉しそうに口笛を吹く音が聞こえた。


「テメェ、させるか!」

「…無駄だよ。」

黒い炎を纏う両手剣と、ハントの大剣がぶつかり合う。

「業を断ち切る意思があろうと、僕が業を続けようとする意思には勝てないみたいだね。」

「あァ!?」

瞬間、ハントが押し負け、壁に向かって吹き飛ばされる。

いつの間にか、ローラはハルトとサンゲンの傍まで下がっていた。

「ハント!緑脈"献身落葉(カインドリーヴス)"!」

ハントは壁に激突する寸前で葉に守られ、体勢を立て直す。

「グッ…クソッ!」

再びハントは突撃していく。

「無駄だって言ってるだろう。」

「無駄でもなァ、足掻いてやるのが俺のスタイルでな!」


ハントは何度も突撃を繰り返す。しかしその度に、押し負けては力なく吹き飛ばされた。


「…何故諦めない?」

「…狙った獲物は、逃がさねぇ主義でなァ…。」

「そろそろ、その剣士も死ぬであろう。もう意味はない。」

「意味がねぇのはテメェの方だな?」

ハントが不敵に笑う。

「はっ?」


その時ようやく、廃工場全体が崩れかかっている事にグレイスは気づいた。

「どーせ俺がお前を倒そうと倒すまいと、お前は誰の業でもない、瓦礫に押し潰されて死ぬんだよ。」

「それはお前も同じであろう…!」

「いーや、違うね。俺は生きる。生きてやるさ。死ぬのが怖いからって、足を止める気はねぇって話だ。」

「はっ、強がりを…」

「じゃあ、証明してやろうかァ?ローラ、二人を頼んだ。」

「なっ、ハント…。」

ハントは大剣を天井に投じる。廃工場の天井はどんどん崩れていく。


「なっ…このままだとお前も死ぬのだぞ!?良いのか!?」

「バーカ、俺は死なねぇって言ってんだろ。」

瓦礫と共に落ちてきた大剣を掴み、ハントはグレイスに突進する。

「やめろ!!死ぬのが怖くないのか!!!」

「うるせぇなァグチグチと!」

黒い鎧が、だんだんと崩れていく。

「なっ…やめ…やめろぉ!」

「生きて断ち切ってやるよ、テメェの業をな!」

「嫌だ…死にたくない…死にたくない…!」


鎧をまとったところで、内面が成長しなければ、弱いままと言うのは分かっていたつもりだった。

でも、認められなかった。認めたくなかった。

復讐という酒に酔って、忘れたかった。


「あぁ…あぁ…!」

「乱気脈、"壊奔剣"!!!」


鎧は、砕けた。

そして、僕も。

僕が積み上げて来た業も。


砕けた。


「…はっ。生きるとは言ったが、どうするかね、この状況…。」

周囲はすっかり瓦礫に囲まれてしまっている。もう剣を振るう力も残っていない。

「…君も、面白いね。」

「…。業星。」

「あれだけ抱えていた業を、一思いに断ってしまった。それもまた大業だよ。」

「気に入った。今は助けてあげるよ。今日もまた英雄になりたい気分だ。」

業星が微笑む。

「…。」


「業は巡る。そして業は重いのさ。瓦礫すら潰してしまうほどにね。」

そう言うと業星は銃を取り出す。


「業弾装填。発射。」

黒い弾丸が瓦礫に向かって放たれたかと思うと、瓦礫には人一人が潜れそうなほどの大穴が開いた。

「また会おう。きっと次は、もっと話し合えるはずさ。」

「…。」


ハントは何も言わず、穴を潜っていった。


「ハント…!無事だったのね。じゃあ、早くここから脱出しないと…」

「いや、あのオーク、助けに行くぞ。」

「え?でもさっきあの檻は破れないって…。」

「恐らくあの檻を鍛えていた気脈の主はグレイスだ。そいつが死んだとなれば…。」

「…。やっぱり、殺したんだね。」

ローラが複雑な表情を浮かべる。

「はぁ?いや、そりゃ、まあ。」

「…今回の任務。尋問って事忘れてない?」

「覚えてたさ。だがあの状況は無理だ。手加減できるような状況でも無くてね。生憎だが、今回の報酬はパスだ。」

「…ちぇ。仕方ないか。」

ハルトとサンゲンを抱え、崩れゆく部屋から脱出し、檻の元へと向かう。


「あんたら…は…。」

ハントが檻を破壊する。

「ほらよ、脱出すんぞ。」

「…いいの…かい…?俺は…。」

「御託はいい。オラ、そろそろ崩れんぞ!」

オークは何か言おうとしたが、言葉を呑み込み、二人に同行した。


「マズい…もう時間が無いわね。仕方ない…!」

「ハント、そこのオーク!私の近くに来て!」

「あぁ?まぁいい、分かった!」

「緑脈"不朽萌芽(イモータルグロウ)!"」

伸びた大木が五人を包み込み、ドームを形成する。


「そしてッ!緑脈"破砕天樹"(デストロイライズ)!!」

その空間は幹に押し上げられ天を衝き、廃工場を貫いた。

その衝撃もあってか、廃工場は跡形もなく吹き飛んだ。


「はぁ…危なかったわね…。」

「あぁ、なんとか助かったな…。」

「良いのか…?」

オークが俯く。

「さっきからなんなんだ?てめぇはよぉ。」

「俺は…俺は、あの男の村を襲った者の一人なんだ…。だから、君たちに助けられる資格なんて…。」

「いいだろ。もう。」

「良くないだろ…。現に、あんな大量殺戮者を生み出してしまったんだから…。」

「だからいいって言ってんだろ…。お前は見る限り十分に報いを受けて、反省もしてる。それで何が悪いってんだ?」

「だが、また私の本能が反省をかき消すかもしれない。その時は…。」

「うるせぇなぁ、じゃあその時は俺がぶっ殺して止めてやるよ。オラ、分かったらさっさと歩け。」

「…。」

「…それに、あいつの言う事を鵜吞みにすんな。人間基準の考えをお前に適用したら、抑圧されんのも当然だろ。余所に迷惑掛けねぇ程度には、気楽にやれって。」

「…そうする。」

傷だらけの体のままで、オークは走り出した。

「なっ…、馬鹿野郎!」

「大丈夫…だ。この程度の傷、オークからすればどうってことない。数日後には治るだろう。」

追いかける気力も残っていない二人は、その背中をただ見つめる事しかできなかった。




「さて…対象は死亡したと?」

クレヴ支部長が問い詰める。

「仕方ねぇだろ…本気で殺して来たんだ。捕縛なんて無理だったさ。」

「はぁ…。それに廃工場は倒壊したと…。胃が痛い…。」

「悪かったな、だが業星に再び会えた時点で幸運だったさ。」

「業星に?また会ったと言いましたか?」

クレヴの目の色が変わる。

「この短期間に何度も接触するとは…。それで、何か情報は得られましたか?」

「なんも。強いて言うなら、あいつは俺が気に入ったって言ってたのと、得物が銃ってことくらいだ。」

「業星に、気に入られたと…。」


「気を付けてください。」

「あ?何でだよ。」


「そのように伝えられた者は、数日以内に殺害されています。」

クレヴが真剣な眼差しでハントを見る。

「一切の例外なく。」

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