プロローグ/狩り、奪う者
「おい、そっちはどうだった?」
「へっ、悪くなかったぜ。まさかあの老いぼれがあんな財産隠し持ってるとはな。」
人間とオークの盗賊が盗品を前に笑い合う。
「はは、俺たち組んでから成功続きだな!」
「俺が派手にやりゃあ、お前は盗み放題だしなぁ、ハハハ!」
「さてさて…こいつは金で出来たブレスレット、こっちは気脈を高める丸薬か!」
「こんなもんを持ってる癖に、勿体ぶるから悪ぃんだ…」
その瞬間、壁を突き破る轟音が響いた。
「あ?」
壁を破り、入って来た男が踏み込んでくる。
男はは大剣を背負い、ギルドの文様を刻んだ服は、返り血で汚れている。
「全く…色んな種族が仲良くなったのは良い事だが…」
「誰だ?」
オークは一歩引き、斧を構える。
男は言う。
「お前らみてぇなクソ野郎が現れると…」
「迷惑なんだよなァ?」
「さて、今お前らは…」
「誰か知らんが、喧嘩売りに来たやつらしいな?」
「ならやっちまうか!」
オークの盗賊が斧を振り下ろし、人間が短剣で素早く切りかかってくる。
しかし、斧は火花と鈍い音を残し、短剣は間の抜けた音を響かせた。
「なっ…」
「そんな大剣を軽々と…」
「喧しいなァ」
男は剣を振り回す。刃は人間の盗賊を腰の高さで両断し、オークの胴に深々と食い込んだ。
「がっ…」
「話くらい聞けよ。折角…」
「今お前らはこの場で処刑だ、って言おうとしたのによォ?」
鈍い音が響いた。オークの頭部が兜ごと潰れ、崩れ落ちる。
「はぁ。なんで世の悪人共はこんなに死に急ぐんだ?ったく…」
「ま、こんな報酬も少ない汚れ仕事やってる俺も同類か。」
男は契約書を見直す。
「なんとか数日食ってける分はあるな。さて、さっさとギルドへ向かうか。」
男は二つの返り血に塗れ歩き出す。
獣臭さと生臭さを纏わせたまま。
男がギルド支部に帰還すると、騒がしかった場は静まり返った。
が、男はそれを気にも留めず、黙って受付へ向かう。
「ハ…ハント・レイダー様ですね。どうされましたか?」
受付嬢が緊張した面持ちで答える。
ハントは契約書を取り出し言う。
「こいつの報酬なんだが。」
受付嬢は書類と契約書を確認し、
「…今から契約遂行を検証する者を派遣しますので、少々お待ちください。」
と言う。
ハントはため息を付きながらギルドを出る。
「はぁ、融通が利かないなァ、ギルドの奴らは。」
「かと言って首を持ってくれば、迷惑だと拒否してくる癖に…」
ハントと彼の愚痴など意にも介さず、町は忙しく回り続ける。
人間は未だ多いが、エルフ、オーク、獣人、吸血鬼…多くの種族が混在して歩んでいる。
「そこのお兄さん、新聞いるかい?」
声をかけてきたのは、獣人の新聞売りだった。
「はっ、ずいぶん度胸のある野郎だな?まぁいい、一部寄越せ。」
——多種族共同繁栄宣言から十年:生産力四倍、雇用は種族適性で最適化
視界の先では、吸血鬼らしき者が人間から仕事を引き継ぎ、獣人が新聞配達に精を出している。
「…ふぅん、例の宣言から十年ねぇ。」
——種族に縛られた者たち 自由は誰の手に?
——多種族による犯罪増加中、より警戒を
血に濡れた大剣を眺める。
ハントは舌打ちし、紙面を折り畳んだ。
「こいつのせいで仕事は増えたんだがな。ありがたいのか、ありがたくねぇのか…。」
「ま、俺は俺のやるべき仕事をやるだけだな。」
「さて、あいつらの仕事は早いからな。そろそろか?」
再びハントはギルドへ歩き出す。
乾いて分かたれた血の跡を付けながら。
「おい、受付。そろそろ現場確認、終わったよな?」
「はい、終わりました。こちら報酬となります。」
出されたのは4枚の金貨。
「おい待て。本来こいつら6枚、銀貨5枚って話だろう。違うか?」
「制圧の際、無関係の住宅の壁を損壊したと報告を受けました。その分の罰金を差し引きしたものとなります。」
「ちっ…」
舌打ちをしながら、自宅へ戻る。
重い息を吐き出す。
「今日だけで何度ため息をついたんだか。」
ハントは服を洗いながら言う。
自分でも制御できない暴力性は、いつの日か彼の特技を"ため息"にしていた。
「それでも、誰かと組まなくて良いってのは楽だな。相手から関わっても来ないし。」
事実ハントはギルド所属後、単独での任務しかこなして来なかった。
その時、ノックが鳴る。
「夜分遅くに申し訳ありません。配達員の者ですが。」
「あ?何の用だ?」
「ギルド誌の郵送に参りました。確認の為、受取人本人に受け取りをお願いしたいのですが。」
「はぁ。ったく面倒だな。しょうがねぇ、少し待ってろ。」
ハントはギルド誌を受け取る。
その表紙に書かれていたのは。
——ギルド運営、所属メンバーのチーム編成を義務化
「…はっ?」
ハントは二度、見出しを読み返した。
「ちょっと待て、配達員の姉さん。これ、どういう意味だ?」
「いや…そのままの意味だと思いますね。単独の活動を禁じ、最低4人のギルドチームを組んで活動しろ、と言うことかと。」
「…」
ハントは、自分のため息が止まる日は当分来ないだろうと、そう悟った。




