E2:盗猫の終幕
痛い!?
飛びかけてた意識が痛みとともに戻る。首筋のほうに小さな痛み。
見てみれば小夜が私に嚙みついているようだ。何を敷いているのかと問いたいが口がうまく動かない…
何か変な違和感が体中を包んでいるし、いったい何を…
動いて今すぐに辞めさせたいがそれもできそうにない。体が痺れている様にうまく動かないし、小夜が
抑えるように乗っているため身じろぐこともできない。
敵がいるというのにいったいなn…!?
なにか気分が変だ。高揚しているような寒気がするような…なんかぐちゃぐちゃなきもちだ。
「にゃぁ…やっ…」
体中に違和感が広がる。自分の体が自分でない何かに代わっていくような感覚だ。
怖い。
自分が自分でなくなっていっているというのに、痛さも嫌悪感も感じない。
むしろ快楽や幸福感が体中を占めているのに恐怖を感じる。そんなときがどれだけ続いただろうか。私
を抑えるように覆いかぶさっていた小夜の力が軽くなる。
気づけば体中を支配していた様々な感情も消え何かすっきりしている。腹部の痛みも寒気もない。小夜 が治療してくれていたのだろうか?
そんな疑問を頭に解いてみればまるでそれに呼応するように声が聞こえた。
『条件を解放しました。…正式所持者の意思を確認。…インストールを終了…』
『システム永遠の相棒を起動しました。個体名:ミーニャよろしくお願いします。』
「な…何にゃ今の!?」
誰かがしゃべってる感じもしないし気配も感じない…頭の中で聞こえるにゃこれ!?
突然聞こえ始めた音声に戸惑っていたが、どうやらその程度の驚かしでは済まないようだ。
『適合完了。個体名:ミーニャの種族を猫人族から亜吸血鬼に変化させました。』
『種族変化によりステータスの変更とスキルの統合を行います。…成功しました。』
なんにゃ!また頭からいろいろ聞こえるし、種族変化ってどういうことにゃ!吸血鬼って、おとぎ話の…
『…マスターの許可を認証。スキル複製を行います。』
『条件を達成しました。スキル月精霊の眼を入手しました。』
『条件を満たしました。月精霊の加護を入手しました。』
さっきからなんなんにゃ!人の頭の中でべらべらと…
「なんにゃこれ!?なんか鑑定石使ったときみたいに見えるにゃ」
魔水晶やら石やら、何やら視界に移っているものの情報が文章になって見える。まるで常に本で調べているみたいだ。
ただ回復してくれただけじゃなさそうだね…一体どうなってるんだ?
というか小夜は大丈夫なの!?さっきから倒れて起き上がる様子もないし…あ、何か小夜の状態もわかるちょっと便利だなこの力。
「睡眠中…なんだねてるだけにゃ…」
小夜に視界を合わせてみれば状態:睡眠中とだけ表示されていた。どうやら無事ではあるようだ。
あたりの水の壁を見渡し周囲の安全を確認する。小夜が出したのだろうか?外敵から守るように部屋と通路を隔離している。
それにしてもこの壁はすごいな。何かから私を守ってくれていたみたいだけど…
「とりあえず小夜を安全なところまで運ばばないとにゃね。いつこの壁が割れるかわからないし…ひび入ってるにゃね。しかも広がってく…」
先ほどまで魔物と私たちを覆っていただろう壁は放射状のひびが全体へと広がっていた。そのひび割れは大きくなり続け今もなお広がっているようだ。
「このままだと小夜が巻き込まれちゃうにゃね。誰か小夜を守らないと…あの鳥だけじゃ不安だし…召喚『焔獅!小夜を安全なところに引き連れて守ってあげて!」
「ガゥ」
呼び出された獅子が眠っている小夜を背中に乗せ通路のほうへ駆けていく。距離も起き近くにふーたもいるなら小夜は大丈夫だろう。
「あとはこの壁を攻撃している魔物を!…にゃぁ?」
私たちを遮っていた水の壁がついに破られる。壁を破壊すると同時にこちらに駆けてきた狼に牽制のつもりで拳をふるった。スキルも使っていないただの拳だ。
それなのにまるで特大な攻撃を食らったかのように後ろに吹き飛んだ。見てみれば私が殴ったところがきれいにへこんでいた。
「なんにゃこの威力…」
スキルも使っていない自己強化のみのただの素手。そんな攻撃がダメージを与えているなんて…さっきの個体より弱いのか?それとも私が強くなった?…そうだこの目の力で私を見てみれば…
『ミーニャ lv28 種族 亜吸血鬼 職業 魔拳士
攻撃260 防御200 速度203 魔力300
〈装備〉 黒衣の胸当て 古びた耳飾り 魔鋼鉄の装甲 覇者のブーツ
〈スキル〉 格闘術lv.10 真格闘術lv.1 大拳士lv.7 聴覚大強化lv.2 嗅覚強化lv.5 気配察知lv.9 焔魔術lv.7 火魔術lv.10 灼火魔術lv.1 火耐性lv.9 毒耐性lv.5 水泳lv.3 暗視lv.10 血魔法lv.10 闇魔法lv.7
〈固有スキル〉
月精霊の眼 月精霊の加護 血液操作』
なんだこれ…
私の知ってるステータスの数値と程遠い。…あまりにも高すぎる。攻撃防御速度どれも二倍以上だし魔力に至っては3倍だ。よくわからないけどこれが小夜が私に渡した力?
種族も変わってるし…私が私じゃなくなったみたい…後でちゃんと話を聞かなきゃ。この体のことも小夜のことも…
そのためにはまずこのダンジョンから出ないとね。幸い体力は全快、力も前以上。
「これなら…いける気がするにゃ!」
ダメージを負い困惑しているのか立ち止まっている狼に向け接近する。よく見なくともわかるがあれはさっき私が倒したはずの魔物だ。もしかしたら二匹目がいたのだろうか?
まぁ関係ないね。さっきまでは私のほうが遅く、接近しようとしたものなら距離を置かれるなり、反撃にあっていただろう。だが今の私は違う。今の私の速度ならこいつは回避できず反撃もできない!
「にゃぁぁ!『貫拳』」
粉砕。下から突き上げるように打った拳が装甲を貫き胸の核を破壊する。核を破壊された狼は揺らぎ灰となって消えていく。だが戦闘は終わらない。
背後から急な殺気。こぶしを広げ床につき前方に回転してその場を離脱する。
「3体目!?」
背後には倒したはずのあの狼が爪を地面にめり込ませていた。とっさに離脱しなければ今ごろ致命傷だっただろう…いやそこじゃないか。
やつはさっきの攻撃で確実に倒したはずだ。それなのになぜ生きてる?もしかしてたくさんいるのか?
「えーいなんでもいい!とりあえず倒すにゃ!」
考察していた思考を投げ捨て前へ出る。爪が刺さって抜けないのだろう。間抜けにも腕を引っ張っている狼に向けて『貫拳』を放つ。
さっきと同じように核は崩れ灰になって消えていく。
『経験値が一定に達しました。個体名小夜のレベルが28から29になりました。』
「にゃにゃ!?びっくりしたにゃ…」
唐突に頭に響く声…どうやらレベルが上がったことを告げる声のようだ。急に聞こえるからびっくりするよほんと…
それにしても…
「四匹目…お前らどんだけいるんだにゃ?」
視線を向けた先。最初に見たところ同じ場所にまたあの狼がたたずんでいた。
まぁこいつあいてなら何度やっても負ける気はしないが。
じっと見つめてくるだけのやつの核を砕くべく、前へと進む。
一体何体の狼と戦ったのだろうか?強さも変わらない同じような狼をもう数十体は倒している。
あきらかにおかしい。倒しても倒してもまた湧き出てくる。本当にたくさんいるのか?一度も二体以上同時に戦っていないことを考えるとその線は薄そうだ。
本当は倒せていないとか?いや、それはないか。さっきのレベルアップの声的にも倒しているのは本物のはず。倒しちゃダメなのか?
こいつが本体じゃないとか?例えばこれが使い魔で別に術者の魔物がいる…あり得る話だね。ただそいつを探すためにはこいつを何とかしないと…
「倒してもだめ...なら捕獲する?でもそんなんこと私の魔法じゃ…いや、小夜が使ってたあの鎖、あれならいけるはずにゃ!」
脳裏に浮かんだのは小夜の魔法。深紅の鎖を出し手k字を拘束していたあの魔術ならできる。そういう直感がある。
たださすがに所見の魔術を当てるのは難しいね。魔術を当てる前にまず相手の機動力を削ぐことから始めよう。
「多分これかにゃ?」
『濃闇』『纏闇』名前で隠密ができそうな魔術を発動する。効果は思った通りのようだ。
あたり一面が暗くなり私の姿も暗がりに紛れていく。これなら楽に接近できるだろう。
周囲を覆った闇に紛れ狼の足元に接近し拳をふるう。今の私にとって結晶の走行などないのと同じだ。
「足がなきゃ動けないにゃね!『血鎖』!」
体中から飛んだ血しぶきが鎖を形成し獲物を捕らえる。効果はすさまじいがどうやら代償があるらしい。
「体がだるくなった?」
魔法を発動したとたんまるで体から力を抜かれたように一瞬の喪失化と脱力感に追われてしまった。
「でも動けないほどじゃない。何か手がかりを見つけないと。」
魔力の質で周囲を確認してみる。異なる反応があるのは五つ。私と小夜とこの狼とふーたと変な鳥。術師がこの場にいないわけがないしこいつが使い魔な線は薄いか?
それとも何か特殊な方法で姿を隠してる?…もしかしてこの壁の魔力と同化してるとか?
小夜でも無理だった。きっとそうだ。きこの周りの水晶のせいだ。魔力の感じが全部同じで魔力に頼ってたら位置はわからないだろう。
でもあきらめちゃダメ。新しく得た力だけじゃダメなんだ。
私と小夜と違う。私は私の方法で探さなきゃ。
私には音を聞く耳があり、気配を察せる鼻がある。さがせ、見つけろ、本体を…
「呼吸音?それに心臓の音…」
目の前でもがく狼から呼吸音や鼓動は聞こえない。なら私以外の誰かの生物のいる証拠だ!さらに魔力を耳に寄せ感覚を研ぎ澄ます。…
「そこの水晶の裏!そこにゃね!」
入口近くの水晶。その裏から微かに呼吸音と鼓動の音が聞こえる。そこにいるはずだ。この状況を作った元凶が、私の真の目標が。
水晶に向かって駆け抜ける。邪魔だった狼も動けない。落ち着いていられる状況だが油断はしない。今私が出せる一撃で、全てをかけた拳私の物語に終わりをつける。
発動する魔法は『闇拳』黒い塊が手の周りを覆い堅牢な拳へと変える、
「これで本当にしまいにゃ!『闇破貫』!!」
漆黒の拳が因果を終わらせる。猛烈な威力で放たれた拳が、水晶をいともたやすく破りさらにその奥へと届く。水晶の奥は小部屋のようになっていてその中心に一体、何かしらの装置を持ったゴブリンが焦ったように鎮座していた。音に気付いたようでこちらに振り向いてきたがその時にはもう手遅れだったようだ。壁を破壊してもなお止まることを知らない衝撃がゴブリンの腹を貫く。壁をたやすく壊す一撃に耐えられるはずもなく灰となって消えていった。
『経験値が一定に達しました。個体名ミーニャのレベルが29から30になりました。』
『熟練度が一定に達しました。スキル闇魔法lv.8を獲得しました。』
『条件を満たしました。称号 主殺し を獲得しました』
「主殺し…ボスを倒したんだ…これでやっと、終わったんだ…」
この瞬間をもって盗猫の物語は幕を閉じた。ここからは一人の少女の物語だ。
ダンジョン編これにて終了です。




